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火の用心行進曲 (黒田進・水野喜代子)。

今年も師走を迎えました。冬は空気が乾燥する為に火災のリスクが上がる季節でもあり、夕陽が落ちて夜の帷も降りて来る時分には「火の用心〜カチカチ!」の掛け声が響いて来て、それは正に風物詩でもあります。今夜紹介するのが「火の用心行進曲」。黒田進と水野喜代子が歌いますが、各々楠木繁夫と渡辺光子の変名でした。両人凡ゆる名前を用いて各レーベルに姿を見せましたが、デュエットしている曲は意外と少なく恐らくその中で一番有名な歌がこれでした。日本は元来木造家屋が多いのに加えて世界有数の地震国なので、有史以来火災に悩まされる歴史でもあります。20世紀以降も関東大震災や函館大火があり、多くの悲劇を生みました。そこでタイヘイレコードから特別企画盤として発売されたのが、官僚の松井茂による「火の用心」の講演と啓蒙歌「火の用心行進曲」です🎼。

「火の用心行進曲」は新潟県出身在住の詩人相馬御風の作詞、作曲は昭和一桁の頃に多くの流行歌を書いた近藤十九二。針を下ろすと“カンカン”という半鐘の音色が鳴り響き、けたたましい前奏を経て歌に入ります。トランペット、フルート、マリンバ等がリズミカルなサウンドを奏でおり、黒田・水野両人が交互に歌っています。防災啓蒙がテーマながら至って能天気な明るい全四番のメロディでして、あまり緊張感がない楽しい一曲となりました。敢えて明るく歌い易い楽曲にする事で、国民に危機感を持たせようとしたのかも知れません。A面では松井茂が力強い口調で火災への危機感、防災精神を持つ様にと雄弁を響かせますが、明治天皇の御言葉を入れるなど所々に国粋的な語句が出て来る辺りに時代を感じます。レコードは一枚八十銭の廉価奉仕盤として大々的に発売されました😀。

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