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思い出のカプリ (淡谷のり子)。

もう9月ですが、そういえば夏の終わりを歌う曲が日本にはとても多い様に思えます。四季のある我が国では季節を人の一生に準える人が多く、夏は正に二度と来ない青春の日々なのです。そんな訳で今夜は淡谷のり子の歌う「思い出のカプリ」を。奥山靉作詞、仁木他喜雄編曲で、彼女が吹き込んだ数あるタンゴの一曲です。過去出た三枚組の復刻盤には、戦前期の淡谷のり子の歌声が多く収録されましたが、個人的にはその中でも特に印象に残りました。原曲は1934年、ジミー・ケネディ&ウィル・グロッスが書いた”lsie of Capri”であり、アル・ボウリー&レイ・ノーブル楽団のレコードがヒット。またタンゴで有名なアルフレッド・ハウぜ楽団もレパートリーにしていました。日本ではディック・ミネも歌い、戦後は菅原洋一も入れる等、息の長いナンバーとして親しまれております🎼。

「思い出のカプリ」は、此の頃からジャズソングの歌詞を手掛け出した奥山靉が作詞しており、夏の日のカプリ島での過ぎ去った束の間の恋を思い出すと云う内容です。歌のヒロインは初秋の海辺に一人来て、海の彼方のカプリに暮らす“君”を別れた後もずっと偲んでおり、その悲喜交々な心境を淡谷は透き通る様なソプラノで聞かせます。二番構成で、イントロでは秋の月光の様なバイオリンが冴えており、此の歌のもう一つの主人公と言っても過言ではありません。ピアノ、アコーディオンや紡ぎ出す静かで上品なサウンドは、本場にも勝る仁木他喜雄の編曲もあって此の時期最高のカバーと言えるでしょう。此の歌は昭和10年秋の発売ですから、前年に出来たばかりの曲をササっとセレクトしたスタッフ達の慧眼には敬服の次第です。裏面は中野忠晴の「エスパニア・カーニ」でした😀。

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