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2024年上半期映画ベスト10発表!! 【前編】


前書き


さて、気付けば2024年も半年が経ちました。と言うことで、映画好きにとっての半年に一度の総決算、上半期ベスト10を発表する時期ですね。
ベスト10を発表する前に軽く上半期を振り返ってみます。
邦高洋低、つまり邦画は好調で洋画は低迷している状態のことですね。数年前からその傾向はありましたが、今年はいよいよそれが顕著になったように思います。コロナ禍による映画業界全体の業績不振、それに続くように起きた全米でのストライキ。これによって作品の品質云々以前にそもそも大作洋画がほとんど公開されないという事態に陥りました。そして公開されたとしてもそのほとんどが興収10億円に届かないという低空飛行でした。
また、邦高と言えば聞こえは良いですが、好調なのはアニメーション映画、しかも漫画原作に限るという状況で、実写映画に関しては洋画邦画どちらに関しても厳しい状況に置かれています。
しかしながらそんな中でも自らの作家性を存分に活かした作品や、オリジナリティ溢れる作品の存在が目についたのは一筋の光明だったように思います。
それではいよいよベスト10の発表です。


第10位

第10位は、三宅唱監督の「夜明けのすべて」。
PMS(月経前症候群)を患う主人公とパニック障害を患う同僚との交流、周囲の人々と過ごす何気ない日々を描いた人間ドラマです。一般的に映画において社会で理解されづらい病気を描く場合、その当事者は悲劇を背負わされがちです。そうすることで観客は当事者を悲劇として消費し、感動し、まるで彼らを理解したかのような感覚を覚え、そして何事もなかったかのように日常に戻っていきます。これではなかなか当事者との溝は埋まりません。
では本作はどうでしょうか?
もちろん主人公たちがある程度理想的な環境に身を置いていることは否めませんが、彼女たちが抱える病気に関しては非常にフラットな描き方になっています。余命宣告をされて誰かが泣き崩れるだとか、ある日突然完治してめでたしめでたしとなるわけでもなく、彼女たちは病を抱えながらこの先もいつもと変わらぬ日常を生きていくのです。また、周囲の人々も決して彼らと過剰な関わりを持ちません。コミュニケーションの重要性が叫ばれる昨今において、一定の距離を置くという関係性はとても珍しい描写ではないでしょうか。
こうした描写によって勇気づけられるのは何も本作で描かれる病気の当事者に限った話ではなく、様々なアイデンティティやルーツを抱える現代人すべてに向けた応援歌のように感じました。


第9位

第9位は、第96回アカデミー賞で脚色賞を受賞した、コード・ジェファーソン監督による長編映画デビュー作「アメリカン・フィクション」。
実はこの作品、第10位で紹介した「夜明けのすべて」とも通底する部分があります。前述したように、邦画においてマイノリティはとかく悲劇を背負わされる存在であり、それは洋画においても決して例外ではなく、黒人を主人公にした映画も当然その傾向にあります。また、そうした映画は白人の望む黒人像を投影しているのでは?と言われているのです。
本作はまさにその「白人が望む黒人像」を、黒人である主人公が冗談半分で小説にしたら大ヒットしてしまうという皮肉たっぷりの物語になっています。
こうしたメタ的な構造を含んだ作品がアカデミー賞脚色賞を受賞したのもまたとても面白い現象ですね。


第8位

第8位は、シリーズ第4弾「バッドボーイズ RIDE OR DIE」。
本作に関しては先日記事にしたので、詳しくはそちらを読んでみてください。ちなみにまだ追記出来ていないのですが、記事中で触れた例のシーンは脚本には存在せず、提案したのは他ならぬウィル・スミス自身とのことなので、やや感動が薄れている筆者です笑
何のことかさっぱりという方は是非とも以下の記事を読んでみてください。

ウィルのあれこれはさておき、本作は単純にアクション映画として抜群に素晴らしかったですね。役者自身にカメラを装着したFPS視点の映像やドローンによるハイスピード撮影など見応え抜群でした。


第7位

第7位は、月川翔監督の「ディア・ファミリー」。
さて、ここまで散々悲劇を背負わされる当事者という物語のアンチテーゼ的な作品を選出してきたわけですが、ここに来てその流れをひっくり返すかのような余命映画の登場です笑
余命10年と宣告された心臓疾患を抱える娘を救うために父である主人公が奮闘するという、まさにTHE・邦画と言うべき作品ですね。しかしそこは大傑作「君の膵臓をたべたい」を撮った月川監督ですから、悲劇を消費するだけの作品にはなっていません。
病に侵されていく中で彼女がどう生き、そして父にどのような影響を与え、何を果たしたかという部分にフィーチャーした作劇になっていて、どんな風に悲劇的に亡くなったかという描写はほとんど存在しないと言っていいと思います。
もちろん病気を利用して感動を演出するという点においては凡百の作品と大差ないと言われればそれまでですが、きっと一味違った感動を味わえるはずです。

第6位

第6位は、稀代の映像作家クリストファー・ノーラン監督の「オッペンハイマー」。
題材が原爆の父と言われるJ・ロバート・オッペンハイマーの半生ということで、公開前から本当に色々と話題になっていましたね。無事に日本での公開が決まり、IMAXシアター(グランドシネマサンシャイン池袋)で鑑賞するためにはるばる東京まで遠征したのが良い思い出です。
オッペンハイマーの描き方や日本での原爆被害の描写の有無だとか、これらに関しても散々話題になりましたが、今回は全部スルーします。
筆者としましてはやはり、トリニティ実験が生む没入感と高揚感によって、自分自身の倫理観の欠如が可視化されるという映像体験を賞賛せずにはいられないわけです。そしてラストに待つ、まさに「君たちはどう生きるか」的なメッセージが込められたとある人物との対話の素晴らしさですね。
なかなか冷静な目で本作を観れない方も多いとは思いますが、一見の価値がある作品なのは間違いないです。


そして…

さて…1本の記事にする予定で書き始めた上半期ベスト10ですが、あまりにも長くなってしまったので、前編後編の2部構成に急遽変更します笑
後編は今週中には書き上げる予定です。乞うご期待。

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