乳児の発達と心理学的研究手法 公認心理師試験過去問解説

乳児が示す発達的特徴

社会的参照 E.J.Gibson(ギブソン)
9〜15ヶ月(満1歳前後)に生じ、曖昧な状況で養育者の症状を参照し、その後の行動を開始する。
自己,他者,状況・物事という三項関係の中で生じる。
Gibsonの視覚的断崖の実験では、乳児が断崖部分まで来た時、母親が笑顔なら進み、険しい表情なら停止する。
「自己の得た知識を他者に伝達しようとする行為」ではない。また、乳児期以降に消失することもない。

視線追従 対面する他者の視線方向を目で追う傾向
生後間もなく視覚機能は高度である。
生後2ヶ月でアイコンタクトを行い、対面者の視線方向を追従する傾向がある。
生後6ヶ月では、対面する相手の注意がどこに向いているのか理解するには至らないものに、相手の向いた方向にも自分の視線・顔を向ける程度の行動は見せるようになる。

目鼻口が正しい場所にある顔図形を選好
選好注視法実験を行ったR.L.Fantz(ファンツ)によると生後46時間以降で顔図形や適度に複雑な図形を選好する。目・鼻・口の配置が異常な図形より正しい配置の図形は、生後数週間の段階でも視線の中止時間が長くなることが知られている。

乳児の泣きの伝染(つられ泣き)現象
情動的共感性の最も原始的な形態。出産直後から見られる。生後2ヶ月がピークで徐々に収まる。

新生児模倣 A.N.Meltzoff(メルツォフ) M.K.Moore(ムーア)
目の前で舌を出す動作を繰り返し見せると、同じような顔の動きをすることがあるなど。
新生児は眼球から30センチ程度であれば一定の視力が得られると考えられ、顔を近づけた時の親の口元などは見ており、生後数時間からその行動を模倣する様子がしばしば観察される。

モロー反射
大きな音や強い光を浴びると抱き着こうとするように、両腕を広げる。起こるのは、生後すぐ~4か月ぐらいまでの間。生まれたときから自然と備わっている原始反射のひとつ。手足を驚いたようにビクッと痙攣させたあとに、両腕で万歳のような動作をする。

バビンスキー反射
足の裏の外側を強くこすると、足の親指が甲の側に屈曲する脊髄反射の一。 新生児の原始反射として、生後3、4か月くらいまで見られる。
新生児でなくても、随意運動を支配する錐体路に障害があると生じる。


幼児期の発達に関する心理学的研究手法

期待違反法(期待背反法)
乳児の記憶力を判定する実験法。3,4ヶ月の乳児が、ものは見えなくなっても存在し続ける「ものの永続性」を理解しているか調べる際に主に用いる。
乳児の前で1個の人形にハンカチをかぶせ、剥がすと人形が2個になる様子を見せた場合、驚きの表情を示し、注視時間が伸びるならばハンカチをかぶせる前の状態を記憶していたことを意味する。
高さの違ううさぎ人形を使う、Baillargeon(ベイラージョン)とGraber(グラバー)によるウサギのスクリーン実験が有名

スティルフェイス実験
乳児の行動に対する母親の反応の随伴性の効果を調べる実験。
母親や大人が対面交渉中に顔の動きを止めることをスティルフェイスと呼び、その反応として乳児が視線や笑顔の減少といったスティルフェイス効果を示すかを調べる。
日常的に乳児と接している母親が、実験では乳児の笑顔などの働きかけに無表情を示す。この時、2ヶ月以降の乳児は一般的に視線を逸せたり、不機嫌になったりする様子を見せる。
「幼児が無表情になることを想定した実験」ではない

馴化−脱馴化法
乳児の刺激の弁別能力を判定する。
乳児に一定の指摘を提示し続けると、慣れが生じて注意がそれ、注視時間が短くなる(馴化)。その状態で刺激に何らかの変化を発生させ、乳児が弁別できれば脱馴化して注視時間が回復し、できなければ短いままとなる。
乳児が新奇性の高い対象を注視する時間を調べるのが馴化-脱馴化法。
「異なる刺激を次々と提示する」ことはない

R.L.Fantz(ファンツ)の選好注視法実験
乳児の刺激の弁別能力を判定する。
乳児に2種類の刺激を同時に提示し、各刺激への注視時間の差を観察する。注視時間に差があれば刺激への弁別が認められ、注視時間の長い刺激への興味の強さを観察できる。
「刺激を交互に提示」するわけではない


乳児の発達に関する基礎知識

心の理論 4歳ころから成立
他者の心を類推し、理解する能力。特に発達心理学において、乳幼児を対象にさまざまな研究が行われる。ヒトおよびヒト以外の動物が心の理論を持っているかどうかについては、誤信念課題によって調べられる。この課題で他者の信念についての質問に正答することができた場合に、心の理論を持っていると結論される。一般的に4歳後半から5歳の子どもはこれらの課題に通過することができる。自閉症患者では障害が認められる。

共同注意 満1歳前後に成立
他者の注意の所在を理解しその対象に対する他者の態度を共有することや、自分の注意の所在を他者に理解させその対象に対する自分の態度を他者に共有してもらう行動を指す。共同注意は社会的参照と並行して獲得される。

生理的早産
A.Portmann(ポルトマン)は、他の哺乳類と異なり、人間は本来必要な妊娠期間を約1年間短縮して生まれてくる生理的早産を提唱した。

乳児期に関する重要理論

ストレンジ・シチュエーション法による愛着のタイプ
M.Ainsworth(エインズワース)らのストレンジ・シチュエーション法では、愛着の型として、安定型、アンビバレント型、回避型の3つのパターンが見られた。又、1990年以降、新たに無秩序・無方向型が追加された。
 [型]   [分離時と後再会時等の反応]    [相対的な傾向]
A 回避型  わめかず養育者と距離を保つ    養育者とは拒絶的
B 安定型  多少混乱し、後,求 身体接触 情緒的応答性が高く一貫性あり
C 抵抗型  B反応+後,怒るなどアンビバレント 気まぐれで一貫性の無し
D 無秩序型 接近回避が同時,不自然,ぎこちない 虐待傾向,精神的に不安定

E.Erikson(エリクソン)のライフサイクル論

エリクソンは乳幼児期に基本的信頼感を形成していくことが、その後の人間関係の基礎になるとしている。
 乳児期 基本的信頼と不審 希望
 幼児前 自律性と恥疑惑 意思
 遊戯期 自主性と罪悪感 目的
 学童期 勤勉性と劣等感 有能感覚
 青年期 同一性と混乱 忠誠
 前成人 親密性と孤独 愛
 成人期 生殖性と停滞 世話
 老年期 統合性と絶望 英知
 「信頼じじぃ金土で新政党」
※エリクソンは特段心の理論には言及していない

J.Piaget(ピアジェ)の思考発達段階説
J.Piagetは愛着<attachment>という言葉を用い、生存や安寧を確保するために、乳幼児が養育者に庇護を求めることと捉えた。
0才-感覚運動期 感覚と運動が直
2才-前操作期 自己中心
7才-具体的操作期 数,量,可逆性獲得
12才-形式的操作期 形式的,抽象的操作,仮設演繹的思考が可能
覚え方は「2-5-5分割!ピザ完全に具だけ!!」(分割数字は年齢です)


2018年第一回
問31 生後6か月ごろまでの乳児が示す発達的特徴について、不適切なものを1つ選べ。
① 対面する他者の視線方向を目で追う傾向がある。
② 目鼻口が正しい場所にある顔図形を選好する傾向がある。
③ 他児の泣き声を聞くと、つられるように泣き出すことがある。
④ 曖昧な状況で養育者の表情を見てからその後の行動を開始するようになる。
⑤ 目の前で舌を出す動作を繰り返し見せると、同じような顔の動きをすることがある。

正解は④

2018年第一回
乳児期の発達に関する心理学的研究手法について、正しいものを1つ選べ。
① 馴化−脱馴化法は、異なる刺激を次々と呈示し、乳児の関心の変化を確かめる。
② スティルフェイス実験は、他者との相互作用において、乳児がどれだけ無表情になるかを見る。
③ 選好注視法は、乳児に2つの視覚刺激を交互に続けて呈示し、どちらに対して長く注視するかを見る。
④ 期待違反法は、乳児が知っていることとは異なる事象を呈示して、乳児がどれだけ興味や驚きを示し、長く注視するかを見る。

正解は④

2019年第二回
問14 乳幼児の社会的参照について、正しいものを1つ選べ。
① 心の理論の成立後に生じてくる。
② 共同注意の出現よりも遅れて1歳以降に現れ始める。
③ 自己、他者、状況・事物という三項関係の中で生じる。
④ 自分の得た知識を他者に伝達しようとする行為である。
⑤ 乳幼児期以降、徐々にその頻度は減り、やがて消失する。

正解は③


KALS模試(正答率46.2%) 赤本2021p196
乳児期について、正しいものを2つ選べ
① 大きな音や強い光を浴びると抱き着こうとするように、両腕を広げる反射をバビンスキー反射という。
② A.Portmannは、他の哺乳類と異なり、人間は本来必要な妊娠期間を約1年間短縮して生まれてくる生理的早産を提唱した。
③ J.Piagetは愛着<attachment>という言葉を用い、生存や安寧を確保するために、乳幼児が養育者に庇護を求めることと捉えた。
④ M.Ainsworthらのストレンジ・シチュエーション法では、愛着の型として、安定型、アンビバレント型、回避型の3つのパターンが見られた。又、1990年以降、新たに無秩序型が追加された。
⑤ E.Eriksonは、乳幼児期に心の理論を形成していくことが、その後の人間関係の基礎になるとしている。

正解は②、④

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