言語獲得の理論、ディスレクシア、吃音、ASDでの言語障害 公認心理師試験過去問解説

ブローカ失語とウェルニッケ失語(復習)

運動野に近い運動性言語野であるブローカ野損傷は自発的に話せなくなる
聴覚野に近い感覚性言語野であるウェルニッケ野損傷は理解不能支離滅裂

前頭葉のブローカ野は動的・自発的であり、発語に関わる運動性言語中枢
側頭葉のウェルニッケ野は静的・受身的。後頭葉の聴覚野に近く聞く事とそれによる話す内容が損傷。自発的な話のなめらかさは保持される。話す感覚はウェルニッケに属す

感覚性失語は多くの場合Wernicke野の損傷が原因となる
言葉の理解が難しく、発話はなめらかだが意味の通らない言葉を話す

運動性失語は多くの場合Broca野の損傷が原因となる
思考を言語に変換する左前頭葉の「運動性言語野」の障害によって生じる
人の言葉や文字を理解できるけど、言いたい事が言葉にならない。言葉は理解できるものの、文の構造をうまく組み立てられず、単語や短文でしか言葉が出てこない。

音声言語の理解と産出の障害ならば、ブローカ失語とウェルニッケ失語のミックスと考えられる。


ディスレクシアdyslexia

DSN-5では神経発達症群の一種
会話に不自由はないが、文章を読んだり書いたりすることが困難な学習障害。
後天的な脳の損傷や教育の不備によるものではなく、全体的な知能発達の遅れによるものとも区別される。読みの速度は遅い。全般的な発達の遅れはないが、言語の発達には遅れが見られることも多い。
文字が読みづらく、語句や行を飛ばしたり、逆さ読みをしたり、音読が苦手な傾向がある。しかし、一度音読して内容が理解できると2回目はスムーズに音読することができる。理解ができないわけではない。「音読はできるが理解ができない」というのは不適切。
単語や文字を音に変換する部分が正確に速くできない状態のことで、読字障害、難読症、失読症などと訳される。結果として書くことがうまくいかない場合も多く、読み書き障害と言われる。とは言え「読み書き不能」の状態は不適切。


吃音

DSM-5では小児期発症流暢障害とされ、幼児期に発症され男児が女児の3倍程多とされたり、同数とする物もあるが男児の方が多いとする研究結果が優勢である。どもりやいいよどみが見られ、連発(音を繰り返す)、伸発(しんぱつ,音を引き伸ばす)、難発(音がつまる)がある。


ASDでの言語障害

自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(ASD)
 語用論:話し手が伝えたいと思っている意味を理解すること
 統語論:文法的な正しさを問題とする
単語を紡いで文を構成する機能に関する言語学における研究分野を統語論という。ADSでは統語論的能力ではなく、語用論的能力に難が出る。

覚え方:語用を統語(伝えたいことを文法的にまとめる)

言語獲得の理論N.Chomsky(チョムスキー)とJ.Bruner(ブルーナー)

N.Chomskyは、人類がもつ言語は多様であるものの、その核となるような普遍文法(UG)が生得的に存在し、周囲からの言語入力からスムーズに法則性を整理できる言語獲得装置(LAD:language acquisition device)があると考えた。
周囲からの言語入力からスムーズに法則性を整理できる仕組み。
言語獲得装置は人間に固有であり、報酬と罰に依存しない。報酬と罰の経験によって文法を獲得するというのは行動主義的な考え方でありチョムスキーによるものではない。

 普遍文法(UG,Universal Grammar):
  人が持つ言語に、核として生得的に(人間に固有の遺伝的資質として)存在するものをいう
  ヒト以外の動物には認められない
 生成文法(GG,Generative Grammar):   人の心の中で文法的に正しい文を無限に生み出す一連のルールの集合

GG、生成文法理論において、人間の生得的な言語獲得のメカニズムである「言語獲得装置LAD」の存在が仮定され、全言語に共通するUG、普遍文法を利用して、生後数年という短期間で言語習得がなされるプロセスが示された。

句構造規則(phrase structure rules):統語論において、文の構成素構造を産み出す規則、およびそれについての研究を指す。自然言語の文を構成素に分解し、隣接する語句同士の意味的および機能的関係(句構造)を表そうとする方法論。

標準理論:深層構造が変形規則によって表層構造として表出されると考える。深層構造に受動化変形などの変形規則を適用して表層構造が与えられ、この表示が音声への出力となる。
表層構造が変形規則によって深層構造になるのは逆であり、句構造規則によるものでもない。

深層構造は文の意味を、表層構造は文の形をなす。これらを変形規則が結びつける。

1950年代の生成文法に始まり、『文法理論の諸相』(Syntactic Structures、SS、1965年)で句構造規則、SS以降の発展が整理された理論として標準理論と大きく改変がなされている。

J.Brunerは大人が子どもと行う言語コミュニケーションは大人どうしのそれとは質的に異なり、言語獲得を容易にする特徴があるとして、このかかわり方を言語獲得支援システム(LASS:language acquisition support system)としてとらえた。
子どもの言語獲得を促すような大人が子どもと行う会話などの関わりのことをいう。

チョムスキーとは違って、ブルーナーは個人内ではなく、個人の外側に言語獲得を支援するシステムがあると考えた。

言語獲得装置(LAD):個人内
言語獲得するための装置が個人内にある
言語学者のチョムスキーが言語を探求する中で到達した考え方

言語獲得支援システム(LASS):環境
言語獲得を支援するシステムが環境側にある
教育心理学者のブルーナーが言語獲得を促進するために見出したと思われる考え方

※チョっとムッとしてスキというツンデレは個人内の言語獲得装置で完結。ブルー(青い)なーと外部(環境)の言語獲得支援システムに目を向けた

言語獲得
認知的制約:制約により、言葉と物の関係も合理的に理解していくこと
事物全体制約:物の名前は(部分ではなく)その事物全体を指すこと
相互排他性制約:ある物の名前と別の物の名前は重複しないこと
カテゴリ制約:物は名前があると同時にカテゴリの1つであること


2018年第一回
問42 言語の障害について、最も適切なものを1つ選べ。
① 感覚性失語は多くの場合Broca野の損傷が原因となる。
② ディスレクシアは音声言語の理解と産出の障害である。
③ 吃音は幼児期に始まる傾向にあり、女児よりも男児に多い。
④ 自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(ASD)では統語論的な能力につまずきをもつことが多い。

正解は③


2019年第二回
問82 ディスレクシアに関する説明として、正しいものを1つ選べ。
① 限局性学習症に含まれる。
② 読み書き不能の状態である。
③ 言語発達に問題はみられない。
④ 音読はできるが理解ができない。
⑤ 読みの速度は速いが不正確である。

正解は①


予想問題 ペンギン2021p72
言語獲得に関する次の記述で最も適切なものを1つ選べ。
① 言語獲得装置(LAD:Language Acquisition Device)はJ.Brunerが提唱した。
② 言語獲得装置(LAD)は、子どもの言語獲得を促すような大人が子どもと行う会話などの関わりのことをいう。
③ 言語獲得支援システム(LASS:Language Acquisition Support System)は、N.Chomskyが提唱した。
④ 言語獲得支援システム(LASS)は、周囲からの言語入力からスムーズに法則性を整理できる仕組みのことをいう。
⑤ 言語獲得装置(LAD)における普遍文法とは、人がもつ言語に核として生得的に存在するものをいう。

正解は⑤


2020年第三回
問11 N.Chomskyの言語理論の立場として、正しいものを1つ選べ。
① 言語発達のメカニズムは、遺伝的に決定されている。
② どのような言語にも共通する普遍文法は存在しない。
③ 言語の文法は、ヒト以外の動物種にも認めることができる。
④ 句構造規則によって作られた文の表層構造は、変形規則によって深層構造となる。
⑤ 脳の中にある言語獲得装置は、報酬と罰の経験によって文法を獲得する働きを持つ。

正解は①

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