H.S.Sullivan(サリヴァン)関与しながらの観察、観察法 公認心理師試験過去問解説

H.S.Sullivan(サリヴァン)関与しながらの観察

関与と観察の不可分性を指したものである。
他者の行動を理解するには、面接に参加している自己を道具として利用する必要があるとし、関与しながらの観察において、心理師がクライエントに積極的に関与して間主観的視点を形成することを求めている。このプロセスにおいて、観察者は対象者の在り方をあぶり出すための道具として機能することのなる。
※間主観星=相互主観星:複数の主観の間で共通に成り立つこと

対人関係を重要視し、治療は治療者と患者との対人関係の場で行わなければならないとしている。「関与しながらの観察」の概念からは本来は重要な面接外のクライエントの行動は関係ない。

Sullivanは著書中で「治療者は自らの影響を排除することができない。面接中に起こる全ての事象に巻き込まれることから逃れられない」としている。
治療面接においては、「間主観」が重要であるから、実験のように「客観性及び中立性を維持」することが重要なのではない。

明確に知覚できる物事の範囲にとどまらず、例えば治療者側が患者に抱く説明しがたい感覚などを重要な情報とする。著書『精神医学的面接』で治療者も患者との関わりの中で様々な出来事や感情をその都度検討しながら模索し続けるものであるとの趣旨が述べられている。「現象のみ」に目を向けるのではない。

関与も観察も、ともに被観察者(クライエント)と観察者(セラピスト)の相互作用が生じる。観察者だけが行うのではない。

また、2018問44④の現象が現象学的な現象なら、フッサールの現象学における現象に対して独自の判断や解釈の適用を禁じる態度(エポケー)が関与しながらの観察に通じるので正解となるかもしれないそうだが、そうではないようである。


シカゴ学派の観察手法

Sullivanはシカゴ学派の社会学者との関連が深く、特に2018追14では理解しておく必要がある。

「関与しながらの観察」はSullivan以前にシカゴ派社会学者のE.C.Lindemann(リンデマン)が1920年に参与観察ということを述べている。ちなみに、実験的観察法には関係なく、単に心理臨床における治療者−患者関係について述べたものである。
そのため、観察者は現象に人為的な操作を加えず、条件を統制したり関与したりしたりも観察の時に行わない。ありのままを観察する。


観察法

実験的観察法とは、実験群と統制群をもうけて、独立変数以外の変数を統制しできるだけ他の条件を同じにして独立変数の効果を測定するもの

他に、逐語録や子供の行動記録などがあるが、客観的な記載とは言い切れない。

場面見本法situation sampling methods は、予め状況や環境を設定し、その中で対象を観察する。目的の行動が最も起こりやすそうな場面や、関連性の高い意味のある場面を選択し、そこで起きた行動を観察する方法。複数の場面行動を比較することで、意図的な状況操作を加えなくても場面による行動の変化を理解することができる。交通量調査や通行人調査、外山(1998) は保育園における食事場面での幼児の席取りの行動観察がある。

寛大効果寛大効果(寛容効果)とは、相手の良い部分はより強調され、悪い部分は寛大に評価される現象

日誌法とは、ある特定の個人を日常的な行動の流れの中で観察・記録する方法。日常場面において近い関係にある親が自分(自分の子ども)を、あるいは保育者が子どもたちを観察するなど。育児日誌や保育日誌に記録する方法。


関連キーワード

治療同盟は、作業同盟とも言われる。クライエントが抱える悩みに対し、クライエントとカウンセラーが枠組みを守りながら協力して取り組んでいくこと。

応用行動分析は、B.F.Skinnerのオペラント条件づけから発展した行動療法の1つ。ABC分析とも言われる。
気になる行動の前と後の出来事を記録し、対応を見つけていく。
先行条件 Antecedent Stimulus → 行動 Behavior ← 結果事象 Consequence

自動思考automatic thoughtsとは、認知療法の概念である。状況に対応して非常にすばやく、自分の意志とは関係なく自動的に湧き出る思考を指す。

自己開示は、カウンセラーが行うことは以前は好ましくないとされていたが、近年ではカウンセラーの自己開示が治癒的に作用する場合も取り上げられている。カウンセラーは自らの自己開示がクライエントにどのように作用するかを慎重に判断して行う必要がある。なお、Sullivanの「関与しながらの観察」の概念には含まれない。


2018年第一回
問44 H. S. Sullivan による「関与しながらの観察」という概念について、最も適切なものを1つ選べ。
① 治療面接では、感情に流されず客観性及び中立性を維持することが重要である。
② 他者の行動を理解するには、面接に参加している自己を道具として利用する必要がある。
③ 面接外のクライエントの行動に関する情報も、面接中に得られる情報と同等に重要である。
④ クライエントとのコミュニケーションを正しく理解するためには、現象のみに目を向けるべきである。

正解は②


2018年第一回追加
問14「関与しながらの観察」について、最も適切なものを1つ選べ。
① 関与も観察もともに観察者だけが行うことである。
② H. S. Sullivan が提唱した実験的観察法に関する概念である。
③ 関与と観察は不可分のものであるため、観察者は中立的に参加しながら観察を行う。
④ 観察者は現象に人為的な操作を加え、条件を統制したり関与したりしながら観察を行う。
⑤ 観察者は自身が1つの道具としての性質を持っており、自らの存在の影響を排除できない。

正解は⑤


2019年第二回
問17 治療者自身が相互作用に影響を与えることを含め、治療者とクライエントの間で起きていることに十分注意を払うことを何というか、最も適切なものを1つ選べ。
① 自己開示の活用
② 治療同盟の確立
③ 応用行動分析の適用
④ 関与しながらの観察
⑤ 自動思考への気づき

正解は④


KALS模試 正答率40.7% 赤本2021p247
観察法について述べた記述のうち、正しいものを1つ選べ。
① 関与観察は、H.S.Sullivanが提唱した概念であり、あらかじめ状況や環境を設定し、その中で対象を観察する方法である。
② 観察法は主観的判断を伴いやすく、望ましい面はより強調され、望ましくない側面は無視される光背効果が生じやすい。
③ 日誌法とは、日常生活における行動の流れをそのまま観察・記録する方法であり、行動活性化の1つとして行われる生活記録表はこれに該当する。
④ 学級不適応を起こしている児童を観察する場合、学校生活内の特定の場面を選んで観察する時間見本法が選ばれやすい。
⑤ 面接場面での応答を記録した逐語録や家庭での子どもの様子を記録した行動記録などは、得られた情報が客観的に記載されており、分析すべき問題を探るうえで非常に優れた自然観察の手法である。

正解は③

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