【ショートショート】ケースワーカーの宿命
ケースワーカーは特殊な存在だ。簡単に言えば、生活保護の方を支援する職員だ。
その業務は多岐にわたる。収入認定、家庭訪問、病院への同行等々。ベーシックインカムが確立されていない現在の世の中。
でも生活保護は他人事の話ではない。失業、病気等々、誰でも生活保護へ陥る可能性がある。
とあるケース記録。
私はケースワーカーとして120世帯抱えていた。国の基準によれば80世帯が標準だからかなり多い。
毎日、いろんなケースの出来事に翻弄され、それなりの対応をしなければならない。
今日もあの、80歳のおばあちゃんから電話がきた。
発狂的な大声で「おむつの申請をするんじゃ!来なさい!」
通常、ケースが福祉事務所へ一時扶助の申請へ来るのだが、このおばあちゃんは心の病を抱えている。
「それではご自宅へ伺いますね」
「違うわ!スーパーSへ来るんじゃ!」
「は?」
「足が悪いんだから!」
支離滅裂である。足が悪いから自宅ではなく、外出先で待ち合わせようと。
このおばあちゃんは言うことを聞かないのは知っている。
そして、私は内心このおばあちゃんの罵声におびえていた。これまで、おばあちゃんのスイッチが入れば、立て続けに電話、包丁のような尖った話術で私を操り人形にしてきたのだ。
やむなくスーパーSのイートインスペースにてケース訪問することが確定した。
スーパーSを訪問すると、おばあちゃんは先に買い物を済ませていた。
「これ、おむつの領収書な」
「あ、はい。。。」
「それとな、この枝豆な、おいしいからあげるよ」
「・・・いや・・・」
私が訪問する直前にそのスーパーSで買い物した特売の枝豆を
差し入れしようとするのだ。
これはおばあちゃんの優しさ?それともからかい?一種のデート気分に浸りたいのか?
ケースワーカーは、ケースをその段階に応じて自立させる使命がある中、こうした事態に直面し、絶えず複雑な心境に陥る。
おばあちゃんの生きがいは、ケースワーカーをおちょくること。
そうかもしれない。
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