南に向かう海列車は、満月の下で海面を走っていた。波は安定しており、列車がレールの上を走る音と、車両側面にあたる飛沫の音が小さく車内には響いている。 魔女学校も夏季休暇に入り、魔女みならいのカイヤは地元の南の島に戻るところだった。食堂車から出て、通常車両に入ると、もう車内は暗く、魔力灯のランプも最小出力になっている。 海列車に寝台車両はなく、どの座席も四人掛けのボックス席ばかり。そして今は、そのどれもが空席だ。国内を縦横無尽にはしる海列車だが、これから向かう南の島は、
星間ガスの寝床から這い出て、サリアはあくびを一つした。 少し顔を上げれば、相方のローリーが大きめの恒星の上に鍋を置いて、スープを作っている。食欲をそそるいいにおいに、サリアは口の中でよだれが出てくるのを感じながら、火の元に近づいた。 「お、もう起きたのか。完成までまだちょっとかかるぞ」 ローリーが顎に生えた髭をじょりじょり触りながら言う。鍋の中は、一口大に切られた恒星や、ふわふわした食感のガス惑星が、ぶつかりあって爆発したり、互いの重力でひっぱりあったりしている。
おじいさんは湖畔で、椅子に座っていました。空は穏やかに、お日様は柔らかな日差しを地上に降らせています。 涼やかな風が水面(みなも)をさらさら撫で、ときどきおじいさんが座る木陰にまでやってきて、そっと優しく触れて通り過ぎていきました。 湖の周辺にある葦原(あしはら)では、オオヨシキリという鳥がギョギョシギョギョシと鳴いて雌を呼び、岸の方ではオオバンという鳥が草を編んで可愛い巣を作っていました。 桜が散って、みずみずしい青い葉が伸びてくる季節。
もうすっかり、冬のただなかでありました。 どっしりと厚い灰色の雲から、雪が音もなく降りてきて、村の三角屋根に白く積もるような、静かな夜のことでした。 外は暗く寒いですから、人々は皆もう家の中に入っています。 十二歳になる少女・アニも、暖炉で暖まったお部屋で、おばあさんがセーターを編んでいるところを眺めていました。 ソファに座るおばあさんの足元に寄りかかりながら、アニは楽しい出来事を思い起こします。 今日、広場でやった雪合戦や雪そり、もしくは秋にやった、収
たかが薄紙一枚のこと。 ――そう笑い捨てられれば、どれほどよかったことでしょう。 求婚の手紙が届きました。 お相手は、六つ年上の、南部でも名のある家の次期当主です。以前、この北の山へいらっしゃったとき、私を見初めてくださったようでした。 家の者は――父も母も兄弟も――皆、喜んでおりました。 食べ物が貧しいこの北の山からみれば、気候が温暖で人々の営みで栄える南部というのは、想像するだけで楽しい天国のようなところでしたから。そこの貴族様と血縁をもて
こちらの小説は、下記リンクで朗読になっています! よろしければ千員斗製薬さんの美麗イラストと共にお楽しみください(o^―^o) 【朗読】【睡眠導入】【男性】深海の星【字幕つき】 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 深海に一匹、ヒト型をしたナニカがおりました。 七歳くらいの、人間の男の子のような姿をしています。真っ暗な深海で、プランクトンの死骸を吸い込みながら、少年は昼とも夜ともわからない深海を歩いていました。 少年には友達がい