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れいわ新選組の政策は実現可能か?

注意:この記事は当然ながら、れいわ新選組の公式見解ではありません。記事の内容については全て「研究猫とも」個人の見解です。

いよいよ2022年参議院選挙の投票日(2022年7月10日)が迫ってきました。各党、さまざまな公約を掲げていますが、とりわけユニークな政策の政党といえば、山本太郎(東京選挙区)率いるれいわ新選組が挙げられるでしょう。

れいわ新選組は、「参議院選挙 2022 緊急政策」において、次のような政策を掲げています。

れいわ新選組公式サイトより
https://sanin2022.reiwa-shinsengumi.com/

これだけの大胆な政策が果たして実現可能なのでしょうか。この記事では、れいわの政策が実現可能か検証してみます。


1.支出増

まずは、全ての政策を実施した場合にどの程度の支出増となるか、推計してみます。

③季節ごとの10万円給付 50兆円

年4回、国民全員に10万円を給付すると約50兆円になります。

10万円×4回×1.25億人=50兆円

④社会保険料引き下げ 13兆円

「れいわニューディール」付属文書によると、後期高齢者医療制度8.1兆円、国民健康保険1.2兆円、協会けんぽ0.3兆円、介護保険3.4兆円が必要となります。合計で13兆円となります。

⑤教育無償・奨学金チャラ 8兆円

OECD "Education at a Glance 2021" によると、2018年度の日本の教育に対する私的支出はGDPの1.1%となっています。これを全て公的支出に置きかえたとすると、2018年度の名目GDPは約556兆円なので、約6兆円の支出増となります。

「奨学金チャラ」に関しては、一度に全学を返済するのではなく、政府が肩代わりした上で毎月の返済を政府が負担すると考えて推計してみます。

労働者福祉中央協議会「奨学金や教育費負担に関するアンケート調査結果」によると、調査対象者のうち、39歳以下の46.9%が奨学金を利用しており、そのうち75.8%が現在も返済中となっています。毎月の奨学金返済額の平均は約1.7万円です。

総務省統計局によると2021年10月時点での20~39歳人口は約2655万人と推計されます。正確さには欠けますが、上記調査の数値を当てはめると約2兆円となります。

2655万人×0.469×0.758×1.7万円×12ヶ月=1兆9255億円

教育費の6兆円と奨学金返済の2兆円を合わせて、約8兆円の支出増となります。

⑥児童手当を毎月3万円に 4.4兆円

令和4年度予算で約1.3兆円。総務省統計局によると2021年10月時点での16歳未満人口は約1586万人。16歳未満全員に毎月3万円を給付すると、約5.7兆円。現在の予算の1.3兆円との差額の約4.4兆円が支出増となります。

1586万人×3万円×12ヶ月-1.26兆円=4.4兆円

⑦住まいは権利・家賃補助 2.4兆円

厚生労働省によると、令和元年度の住宅扶助費実績は約6000億円となっています。日本における生活保護の捕捉率は一般的に10~30%と見積もられています。ここでは20%を採用し、住宅扶助費のみを捕捉率100%に拡大したとすると、2.4兆円の支出増となります。

厚生労働省「生活保護制度の現状について」
https://www.mhlw.go.jp/content/12002000/000858337.pdf

⑧介護・保育の月給10万円アップ 3.7兆円

「れいわニューディール」付属文書によると、月給10万円アップのためには、介護に3兆円、保育に0.7兆円それぞれ必要となります。

⑨一次産業従事者への直接支援・食の安全 2兆円

こちらは「緊急政策」に「現在の予算から毎年約2兆円程度を増額」と明記されているので、この数字をそのまま採用します。

⑩コンクリートも人も(災害に強いインフラの充実) 6.3兆円

こちらも「緊急政策」に「30年間で190兆円程度」と明記されているため、年間約6.3兆円の支出増とします。

⑪脱原発!グリーン・ニューディール政策 5兆円

同じく「緊急政策」に「毎年5兆円」と明記されています。

⑫全国一律!最低賃金1500円「政府が補償」 20兆円

最低賃金1500円を年収換算すると、約300万円となります。

1500円×8時間×5日×52週=312万円

また、2021年度の最低賃金平均930円を年収換算すると、約200万円となります。

930円×8時間×5日×52週=193万円

国税庁「令和2年分 民間給与実態統計調査」によると、給与階級別給与所得者数は、100万円以下が442万人、100~200万円が723万人、200~300万円が814万人となっています。

それぞれ年収50万円、150万円、250万円で全員が時給930円で働いているとし、時給1500円に引き上げたとすると、必要な金額は約20兆円となります。初年度は全額政府が負担するとして、20兆円の支出増となります。

(50万円×442万人+150万円×723万人+250万円×814万人)×(1500円-930円)÷930円=20兆円

⑬コロナを含む感染症対策の徹底

詳細不明なため、予算の組み替えで対応するとして、支出増0とします。

⑭専守防衛、徹底した平和外交

詳細不明なため、予算の組み替えで対応するとして、支出増0とします。

支出増の合計 114.8兆円

支出増の合計は、114.8兆円となりました。

2.税収減

続いて、税収減について検討してみましょう。

①消費税廃止 27.5兆円

令和4年度予算では、消費税は21.6兆円とされています。また、総務省によると、地方消費税は5.9兆円と見込まれています。合わせて27.5兆円となります。

②ガソリン税ゼロ 3.1兆円

令和4年度予算では、揮発油税は2兆円とされています。また、総務省によると、軽油引取税は0.9兆円、地方揮発油税は0.2兆円と見込まれています。合わせて3.1兆円となります。

税収減の合計 30.6兆円

3.名目成長率の推計

データ

推計のためのデータとして、IMF "World Economic Outlook Database, April 2022" を用います。使用するのは2022年度(推計)の名目GDP(Y)、一般政府歳出(G)、一般政府歳入(T)、一般政府総債務残高(Mg)です。それぞれの初期値を、添え字0を付けて表しておきます(単位:兆円)。

$$
Y_0=556\\G_0=239\\T_0=195\\M_{g0}=1462
$$

また、税収弾性値として政府が妥当とする1.1を用います。これは、名目GDPが1%成長した時に、税収が何%増えるかを表す数値です。

モデル

推計には、こちらの記事のモデルを使用します。このモデルは、マクロ会計の恒等式を前提とし、政府債務と名目GDPの比であり、経済の活性度を表すVcという変数を核としたものとなっています。

結果1 名目成長率 11.5%

このモデルでは、経済の活性度Vcを一定とすることで、名目成長率と政府債務伸び率が一致します。よって、政府債務伸び率=名目成長率をmとして、れいわ新選組の「参議院選挙 2022 緊急政策」を実施した場合の歳出Gと歳入Tは次のように表すことができます(添え字1を付けています)。

$$
G_1=239+114.8=353.8\\T_1=(195-30.6)(1+1.1m)=164.4(1+1.1m)
$$

名目成長率を計算すると、11.5%という数字が得られました。

$$
\\m=\dfrac{G_1-T_1}{M_{g0}}=\dfrac{353.8-164.4(1+1.1m)}{1462}\\1462m=353.8-164.4-180.84m\\1642.84m=189.4\\m=0.115
$$

実際には、積極財政によって経済が活性化し、Vcが増加する可能性もありますし、現金給付や所得増のうち貯蓄される割合が大きければVcが低下する可能性もあります。そのため、この結果はある程度幅をもって考える必要があります。

4.考察

れいわ新選組の「参議院選挙 2022 緊急政策」を実施した場合の名目成長率が11.5%になるとして、物価上昇率はどのようになるでしょうか。

2022年6月24日に内閣府が発表したGDPギャップは、-3.6%となっています。

実質成長率がGDPギャップ通りだったとすると、物価上昇率は年率7.9%になると考えられます。これは、2022年に入って以降の米国における物価上昇率とほぼ同等ということになります。

ただし、「『平均概念のGDPギャップ=ゼロ』がこれ以上需要喚起の余地がないことを意味するわけではない」とする見解もあり、実質成長率をそれ以上に高められる(すなわち供給増が追いつく)可能性もあります。この場合、物価上昇率はより低くなります。

他方で、需要増によるインフレではなく、供給減によるインフレに各国が直面している現状があります。そのため、物価上昇率がより高くなる可能性もあります。

5.結論

物価上昇率が7.9%というのはかなり厳しい数字にも思えますが、40万円の現金給付を含めて考えた場合、1人当たり消費支出500万円までの家庭においては、差し引きではプラスということになります。更に、消費税廃止によって物価は9%程度下落することが期待できます。その他にも大幅な負担減・所得増を伴う政策があることを考えれば、多くの家庭にとってはむしろプラス面が大きくなることが期待できます。

れいわ新選組の「参議院選挙 2022 緊急政策」は、何とそのままで十分実現可能ということが分かりました。予想外すぎる。

補論1:税収弾性値が高い場合

近年の税収弾性値は1.1よりもっと高いというご指摘をいただきました。確かに近年はGDPの伸びに比べて税収の伸びが大きいようです。参考として、税収弾性値が2~4であった場合の名目成長率と物価上昇率の計算結果を貼っておきます。

  • 税収弾性値:2→名目成長率:10.6% 物価上昇率:7.0%

  • 税収弾性値:3→名目成長率:9.7% 物価上昇率:6.1%

  • 税収弾性値:4→名目成長率:8.9% 物価上昇率:5.3%

補論2:景気変動の影響

景気変動が起こった場合にどうなるかについても試算してみました。過去のVc変化率は、概ね-10%から+10%の範囲に収まっています。

出典:IMF "World Economic Outlook Database"のデータを用いて筆者作成

そこで、Vc変化率が-10%、-5%、+5%、+10%のケースについて名目成長率と物価上昇率を計算した結果がこちらです。

  • Vc変化率:-10%→名目成長率:2.6% 物価上昇率:0%(※)

  • Vc変化率:-5%→名目成長率:7.0% 物価上昇率:3.4%

  • Vc変化率:+5%→名目成長率:16.0% 物価上昇率:12.4%

  • Vc変化率:+10%→名目成長率:20.4% 物価上昇率:16.8%

※1%のデフレギャップが発生

補論3:潜在成長率について

ここまで、2022年第一四半期時点でのGDPギャップを実質成長余地とみて、潜在成長率について考慮していませんでした。

内閣府によると、2022年第一四半期時点での潜在成長率は0.6%となっています。この数字を採用する場合、ここまでの分析結果の物価上昇率は0.6ポイント低くなると考えることができます。

ところが、潜在成長率については過去のトレンドを含むものであることから、これをそのまま将来に当てはめて考えることには問題があります。

ゼロ%台前半とされている現在の潜在成長率はあくまでも過去の日本経済を現時点で定量的に捉えたものであり、将来の経済成長を決めるものではない。少なくとも現時点の潜在成長率を所与のものとして日本経済の将来を考える必要はないだろう。

https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=53740?pno=5&site=nli

ということで、結局日本の潜在成長率がどの程度かということを推定するのは困難ということになってしまいます。ここではひとまず、潜在成長率が0.6%のケース、2%のケース、5%のケースを考えてみましょう。

潜在成長率:0.6%→物価上昇率:7.3%
潜在成長率:2.0%→物価上昇率:5.9%
潜在成長率:5.0%→物価上昇率:2.9%

日本の真の成長力はどの程度なのでしょうか。れいわ新選組の政策ほどでなくても、積極財政によって例えば年率4%程度の名目成長を起こしてみれば、ある程度は判明しそうですが。

補論4:2年目以降の考察

2年目以降はどうなるのか、潜在成長率2%のケースで試算してみます。

【支出額を維持した場合】
1年目→名目成長率:11.5% 物価上昇率:6.0% 
2年目→名目成長率:9.2% 物価上昇率:7.2%
3年目→名目成長率:7.5% 物価上昇率:5.2%
4年目→名目成長率:6.2% 物価上昇率:4.2%
5年目→名目成長率:5.2% 物価上昇率:3.2%

支出額をそのまま維持した場合、名目成長率は低下していきます。個人的には名目4%成長程度に落ち着いた辺りで、財政運営の方針を「歳出伸び率を年4%程度に維持する」という方針に転換することが望ましいと考えています。

【物価上昇率に合わせて支出額を増やした場合】
1年目→名目成長率:11.5% 物価上昇率:6.0% 
2年目→名目成長率:10.3% 物価上昇率:8.3%
3年目→名目成長率:9.9% 物価上昇率:7.9%
4年目→名目成長率:9.4% 物価上昇率:7.4%
5年目→名目成長率:8.9% 物価上昇率:6.9%

政策効果をそのまま維持するためには、物価上昇率に合わせて支出額を増やしていく必要があります。この場合、名目成長率も物価上昇率も低下が緩やかになります。

こんなに物価上昇が続いて大丈夫かという点については、名目成長がまんべんなく所得の上昇に結びつくかどうかにかかっています。名目成長が起こっているということは必ず、誰かの所得が増加しているということになります。それが一部の人の所得ではなく、幅広い人々の所得に結びついている限り、物価上昇は大きな問題にはなりません。

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