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国の借金が大変!? 実は景気が悪いだけだった

日本は到底返せないほどの借金を抱えていて、このままでは大変なことになってしまう! という認識の人は多いと思います。

でも、もし「国の借金が大変」というのは、「実は景気が悪いだけ」だとしたら?


1. 財務省の説明

財務省は『これからの日本のために財政を考える』という資料で、国の借金(政府債務残高)について次のように説明しています。

財政の持続可能性を見る上では、税収を生み出す元となる国の経済規模(GDP)に対して、総額でどのぐらいの借金をしているかが重要です。/日本の債務残高はGDPの2倍を超えており、主要先進国の中で最も高い水準にあります。

財務省『これからの日本のために財政を考える』
https://www.mof.go.jp/zaisei/current-situation/situation-comparison.html 

そして、GDPに対する借金の大きさ(政府債務残高対GDP比)を他の国と比較するグラフを掲載しています。

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出典:財務省『これからの日本のために財政を考える』
https://www.mof.go.jp/zaisei/current-situation/situation-comparison.html

2020年度の日本の政府債務残高は、GDP比で256.2%と、他国と比べても飛び抜けて大きくなっています。なぜ日本だけがこんなに大きな政府債務を抱えているのでしょうか。また、どうすれば政府債務を減らすことができるのでしょうか。

2. 政府債務残高対GDP比とは何か?

まずは、政府債務残高対GDP比とは何を表したものなのかということから考えていきましょう。政府債務残高対GDP比をこのような数式で表してみます。

Mgは政府債務残高、Yは名目GDPを表しています。つまり、政府債務残高対GDP比とは、政府債務残高を名目GDPで割ったものということです。

2.1. 全てのお金は借金で出来ている

みなさんは、「政府の赤字は民間の黒字」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。実は、政府が債務を増やす度に、世の中に出回るお金の量は増えていくという関係になっています。そんなバカな! と思われる方は、ぜひこちらの動画をご覧ください。

「政府が債務を増やす度に、世の中に出回るお金の量は増えていく」ということは、政府債務残高とは、過去に政府の赤字によって作られたお金の量を示すことになります。上の数式で、政府債務残高をマネーのMとガバメント(政府)のgで表現しているのはそういう意図です。

なお、世の中に出回るお金には、政府の赤字によって作られる(政府の黒字によって消滅する)お金(Mg)の他に、銀行から家計や企業への貸し出しによって作られる(返済によって消滅する)お金が存在します。こちらはマネーのMにプライベート(民間)のpをつけて、Mpとしておきましょう。そして、これらを合計したものをただのMで表現したいと思います(このMをマネーストックといいます)。

家計や企業への銀行の貸し出しもまた、家計や企業にとっての債務(借金)です。つまり、全てのお金は誰かの借金でできているということなんですね。

ということで、

政府債務残高は政府が作ったお金

この数式の分子にあるMgは政府債務残高であると同時に、政府が作ったお金の残高でもある、ということになります。

2.2. 名目GDPは1年間に使われた金額

分子の政府債務残高(Mg)の意味が分かったところで、次は分母の名目GDP(Y)について考えてみましょう。名目GDPとは、1年間に消費や投資に使われた金額の合計を意味します。例えば、150円のお茶を買えば、名目GDPが150円増える、というイメージです。

名目GDPは1年間に消費に使われた金額

ここで、お金の回転率というものを考えてみましょう。世の中に1000兆円のお金がある時に、1年間に消費に使われたお金(=名目GDP)が500兆円だった場合、回転率は0.5となります。

このお金の回転率を「貨幣流通速度」といい、Vで表します。このVを用いることで、名目GDP(Y)を「貨幣流通速度(V)×マネーストック(M)」で表すことができます。

2.3. 政府債務残高対GDP比の正体を探る

貨幣流通速度(V)を使って政府債務残高対GDP比の式を変形すると、

Y=VMなので置きかえる

となります。更に、Mを政府の作ったお金(Mg)と民間の作ったお金(Mp)に分けると、

M=Mg+Mpなので置きかえる

こうなりました。

ここで、マネーストック(M=Mg+Mp)がMgの何倍になっているかを、「信用倍率」と名付け、cで表すことにします。信用倍率は、政府が作ったお金に対して、マネーストックが何倍になっているか(銀行貸出の多さ)を示しています。

cMg=M=Mg+Mpとも表現できる

※要注意!※
cはマネタリーベースとマネーストックの比である「信用乗数」ではありません!

信用乗数?なんじゃそりゃ?という人はスルーしてOKです。


この信用倍率(c)を使って更に式を変形すると、

Mg+Mp=cMgなので置きかえる

こうなりました。右辺の分子と分母にMgという同じ文字が入っているため、これを消去できます。

分子分母のMgを消去

最初と最後だけを繋げてみます。すると、こんなにすっきりした式が得られました。

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すっきり!

なんと美しい……というのはさておき、この式の意味を考えてみましょう。

3. 考察

一見何の関係もなさそうなものがイコールで結ばれる不思議

まず、左辺は政府債務残高対GDP比です。これが増大していることが、「財政の悪化」として問題となっています。

次に、右辺を見てみましょう。右辺は分母がVcで分子が1になっています。つまり、Vcの逆数ということになります。Vはお金の回転率、cは銀行貸出の多さを示しているのでした。

お金の回転率が高い時は、みんながあまり手元にお金を残さず、どんどんお金を使っている時です。銀行貸出が多い時は、事業を新たに始める人や、企業による設備投資が盛んな時です。つまり、好景気ならVもcも大きくなると考えられます。

逆に、不景気ならVもcも小さくなります。

……あれ、もしかして、政府債務残高対GDP比って、景気の良し悪しを示している?

いやいやそんなバカなことがあるものか! といっても実際数式が示していることを素直に受け止めれば、政府債務残高対GDP比は景気の良し悪しを示しているとしか考えられないわけです。

4. 結論

ということで、大変な結論が出てしまいました。

国の借金が増える(GDPに対して政府債務が伸びる)ことと、不景気(世の中にお金が増えてもお金が使われない)ということとは、全く同じことの表と裏だということなんです。

あなたが政府なら、「国の借金が多い」とき、「国の借金」を減らすために何をするでしょうか? 増税? 歳出削減? 

あなたが政府なら、「景気が悪い」とき、景気を良くするために何をするでしょうか? 減税? 財政出動?

では、「国の借金が多い」ことと「景気が悪い」ことが同じ意味だったとしたら?

FAQ

Q. 景気が悪いのではなく若者が減ったせいでは?

A. 若者が減ったせいではありません。『平成29年度版消費者白書』からは、「全体的に消費意欲が低下しているなかで、特に若者が消費に慎重である」ことが分かります。
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_research/white_paper/2017/white_paper_131.html

Q. 景気を良くするには国の借金を減らす=経済(GDP)の実態に合わせる必要がある、という主張につながるのでは?

A. GDPを減らさずに「国の借金」(=政府が作ったお金)を減らすことがまず難しいと思います。「名目成長率が経済の活性度(=景気)を規定する」という仮説を立てて検証中です。

Q. 借金に大してGDPが大きく増えるような借金の使い方をすればいいので、PGS(生産的政府支出)が重要という主張につながるのでは?

A. 実質成長に教育やインフラ投資が効果的なのは間違いないと思いますが、名目成長のためにはお金の量を増やし続ける必要があると考えています。

Q. 同義反復しているだけ(トートロジー)で意味のない数式では?

A.「政府債務残高対GDP比が大きい」と「景気が悪い」が『同じ意味』であることにご賛同いただきありがとうございます。

Q. 貨幣数量説では?

A. 貨幣数量説の「貨幣量を増やすのは中銀、貨幣量はGDPに影響しない、貨幣流通速度は一定」といった誤った前提を「貨幣量を増やすのは政府、貨幣量はGDPに影響する、貨幣流通速度は変化する」と捉え直したものです。

Q.「世の中に出回るお金」「回転率」を捉えることはできるのか?

A. その辺りの区別が曖昧だからこそ、Vとcをセットで扱うことを提案しています(下図参照)。とはいえ、GDP自体も曖昧な概念ではありますが。

「【後編】教科書を1ミリも読まずに経済モデルを作ってみた(研究猫ラジオvol.6)」より
https://youtu.be/8uXSzJJWCYc

Q. 観測をしてもいないのに事実と言えるのか?

A. 確かにその通りなので観測してみました。

Mg/Yと1/Vcは完全一致!(当たり前)
データ:日銀マネーストック統計(M3)および、OECD Economic Outlook(政府債務・名目GDP)より、2003-2020年のデータを使用

関連動画

本記事の内容を解説した動画です。併せてご覧ください。

今回の発見は、「政府支出伸び率と名目GDP成長率との間にある高い相関の謎」を解明する過程で生まれたものです。詳しくはこちらの動画をご覧ください。


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