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令和市だより

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#小説

Story 1 連作:『イワイ』

Scene 1: 目撃ーー心臓が止まった。 ぶつかってきた、あの恐怖に染まった顔を思い出す。 世にも恐ろしい怪物を見てしまったかのような顔。俺もあんな顔をしていたのだろうか。いや、造形はもちろんあんな顔なのだが。いや、だからこそこんなにも冷や汗をかいているのだが。わんわんと耳鳴りがする。 ーーの影響で全線運行を見合わせております。お客様にはご迷惑をお掛けしますがーー 改札前で響くアナウンスは頭をすり抜けていく。最早耳は意味ある音を拾わなかった。人でごった返す駅構内をふら

『慟哭の残響』 : 1

ーーEveryday...I listen to my heart...ひとりじゃ..ない.. バラバラと音を立てて雨粒が土を打つ。木立を満たす雨音に、ひそやかな囁きが交わった。 ーーいつま…でも歌うわ…あなたの…ために… クルクルと透明なビニール傘を回し、彼女はすんと鼻を鳴らした。濡れた木々の香りがするかと思いきや、案外ビニールの匂いが強い。買ったばかりの傘はまだまだ匂いが抜けないようだ。 足元の砂利道はそこかしこが水に沈んでいる。防水性のブーツが頼もしくしぶきを飛

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Last Scene :

すすきを左手に、蓮の花を片手に佇む。すすきを軽く振ると、水琴窟のような音が微かに鳴った。傍らに立つ『海石』から渡された般若の面を顔にかけ、海石は小高い丘の上を振り仰ぐ。 「ちょっと待って、海石」 クソ野郎ちゃんがぴょんぴょんとはねながら近づいてきて、かぱっと口を開けた。海石は右手を差し出す。がぶり。クソ野郎ちゃんが花に噛みつき、もぐもぐと咀嚼してごくんと飲み込む。またかぱっと口を開けて花を放した。無事な姿の花を見下し、海石は原っぱを登っていく。斜めに削られた、広々とした岩

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Scene 8: 機縁

高所の風は身を裂くように吹き抜ける。 ぱたぱたと服の袖がはためいた。 沈みゆく空の色が目にしみる。 「どう、して」 声が震える。驚愕を表す瞳は小刻みに揺れ動いた。 彼はぐしゃ、と顔を歪める。 「何で、そんなことするんだよ…  馬鹿がッ!!  今すぐーー今すぐ、その手をはなせ!!」 『海石』は そらに消えかけ  海石に腕を掴まれた。 海石は歯を食いしばり、右手で『海石』の左腕を掴んでいる。右半身は完全に外にせり出し、左手と左半身が辛うじて木の柵に引っかかっていた。

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ETA-6 デジタル都市令和市が終わる

オープンチャットは次々と閉鎖してゆき、令和市について語れる場所はなくなっていった。あの時、令和市ってあったよね。そういう時間が走馬灯のように蘇る??? どういう関わり方をしていたのか?そこへ行って何を見て、何をしたのか? 痕跡をたどる。 その過去の思い出すらもあっという間に爆発して燃やされてしまう。 次は何処へゆこうか? 人々が彷徨いだし、幽霊のように、浮遊している。 行く場所を求めて、令和市何処やねん。 いや、もうなくなりましたわ。 そんなわけない。 まだ何

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Scene 1: 目撃

ーー心臓が止まった。 ぶつかってきた、あの恐怖に染まった顔を思い出す。 世にも恐ろしい怪物を見てしまったかのような顔。俺もあんな顔をしていたのだろうか。いや、造形はもちろんあんな顔なのだが。いや、だからこそこんなにも冷や汗をかいているのだが。わんわんと耳鳴りがする。 ーーの影響で全線運行を見合わせております。お客様にはご迷惑をお掛けしますがーー 改札前で響くアナウンスは頭をすり抜けていく。最早耳は意味ある音を拾わなかった。人でごった返す駅構内をふらふらと彷徨い、彼は令和

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