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俺と村ゲー


Travian(トラビアン)というゲームを知っているだろうか?
自分の村を発展させ兵士を作り領土を広げていく、いわゆる「村ゲー」流行のきっかけとなったブラウザゲームだ。

10年以上前、俺はTravianで最強だった。

い、いや、誇張ではなく、本当に最強だったんだ
本当だよ!そんな憐れむような目で見ないでくれ!
違う違う!ボケ老人の戯言とかじゃないんだ!本当にあったことなんだ!

…ということで、俺と村ゲーの思い出話を書こうと思う。

Travian(1) 前置き

まず、村ゲーをやったことのない読者のためにTravianの基本システムを説明しよう。

▲Travianのゲーム画面の例

ゲームを始めると、プレイヤーは一つの村の管理者となる。
村には農場や倉庫などの施設があり、時間経過とともに資源が生産される。
その資源を消費して新たな施設を建てたり、兵士を訓練したりできる。

▲資源生産施設の例

また、村は世界の一部である。村には座標が与えられており、将棋のマス目のようなワールドマップ上に他のプレイヤーの村が点在している。すぐ隣に別のプレイヤーの村がある場合もある。

▲ワールドマップ

村ゲーは建築、生産、兵士の移動など全てがリアルタイムで進むゲームだ。1マス隣の村に兵士を派遣したら片道20分、3マス先なら1時間、のような時間感覚でゲームが進む。
もちろん、徒歩の兵士より騎兵のほうが移動が速いなどの細かいシステムもある。

ここまでは「村ゲー」ジャンルのゲームでおおむね共通していると思う。

Travianの特色として、3つの種族から1つを選ぶというシステムがある。
これは自分の所属勢力を決める…とかではなく、「種族ごとに長所と短所があるのでゲームスタイルにあわせて好きなのを選んでね」ということだ。


3種族をざっくり説明する。

・チュートン
略奪が得意。安くて早い兵士を大量生産して物量で勝負。

・ガウル
隠し倉庫の性能が高かったり、罠を作成できたりと守りが得意。

・ローマン
兵士はお高いが性能は良い。晩成型。

説明はこのくらいだ。なんとなく理解してもらえたかな。
では本編にすすむ。

Travian(2) テスト鯖

俺がTravianを知ったとき、まだ正式サービスは始まっていなかった。
2週間だか3週間だか、そのくらいの期間で強制リセットになるテストサーバーをやっている最中だった。
とりあえずテストサーバーをやってみて、ネットで情報を調べたりしながら試行錯誤して村を発展させていた。

そして気付いた。

「あれ…?俺、このゲーム強くね?」

Travianの仕様として、自分の村の近隣のプレイヤーは自分と同時期にゲームをやり始めた人だ。
同じ条件でよーいドンしているのだから、それほど差がつくはずがない。

しかしテストサーバー終了時、俺の村は周りの何倍もの規模になっていた。
「限られた資源を適切に使用し、最大効率で成長する」「考える時間はほぼ無制限」という村ゲーのルールは、あまりにも俺の能力にマッチしていた。

ここで俺は「このゲームが正式に始まったら、頂点を目指そう」と決めた。

Travian(3) 正式サービス始まる

さて満を持して正式サービスが始まった。
なかなか話題になっていたので、登録者は多かった。1万人以上が同じサーバーでプレイしていたように思う。

テストサーバーのときにも触れたがTravianでは「自分の周りは自分と同時期に始めたプレイヤー」なので、あえてサービス開始直後に登録はしなかった。半日か、1日か、そのくらい遅れてゲームを開始したのだ。

その理由は一つ。
「周りの雑魚を食って、デカくなる」

テストサーバーのときに気付いたが、このゲームは倍々ゲームだ。
防衛を固めて平和主義を掲げるより、周りからガンガン略奪して資源を増やすほうが効率がいい。

平和主義の奴が100の資源を得る間に自分は300を略奪して、その資源を使ってまた兵士を増やせばいい。平和主義の奴の収入はずっと100のままだが、こちらは300、500、1000と増えていく。

この事実に気付いていたので種族選びは当然、略奪の得意な「チュートン」だ。
兵士を安く大量生産でき、相手の隠し倉庫を何割か無視できるボーナスがある。

こういうとき、俺はまず「データ集め」から始める。
周囲の村の人口を全てメモし、時間経過で増えているかどうかをチェックする。丸1日以上も人口に変動がない(=施設を増やしていない)村はゲームをやめてしまったプレイヤーだ。まずはそいつから狙う。

初心者保護の期間が終わり、攻撃が可能になる日時(これもメモってた)にアラームをセットし、保護明けと同時に手持ちの兵士を全て略奪に向かわせた。

数十分後…

「攻撃しました」の報告とともに資源を満載して帰還する兵士たち。あの瞬間の高揚感はたまらない。
兵士を何度も往復させて引退プレイヤーの村の資源を貪り食った。
5人だった兵士は10人になり、20人になり、50人になった。略奪の効率はどんどん上がっていった。


Travian(4) そして最強に

引退プレイヤーの村を食いつくしたので、そろそろ中身のいる村にも手を出していく。
人口の少ない(=発展が遅い)村から順番に食っていった。
ときどき、お手紙をいただいた。

「私はあなたと戦う意思はありません。攻撃をやめてください」

ゲラゲラ笑ってしまった。
そちらに戦う意思が無くても、俺にはあるんだ。君の資源が欲しいから。

「どうして私にばかり何度も攻撃するんですか?何か怒らせるようなことをしましたか?」

ごめんな、君のようにカモにされてるプレイヤーが他に20人くらいいるんだ。

「信じられません。私は平和に過ごしたいのに。もうこのゲーム辞めます」

そうかそうか、じゃあ資源はもらっとくよ、ご苦労さん。

どうやらこのゲームを牧場物語か何かと勘違いしてプレイしていた人が多かったらしく、俺はあっさりと周辺の王になってしまった。

いや、それどころではない。
1週間が経過したとき、ランキングが発表された。
「今週の略奪ランキング」と「今週の成長ランキング」である。

1位のプレイヤーは両方とも"reinohito"だった

つまりはサーバーで最強になったのだ。


Travian(5) カタパルト、始動

このころから、2ちゃんねるで晒され出す。
ランキングで1位なのだから目立つのは当然だ。

「なんだこいつは?」「チート使ってるんじゃないか?」「周りの村の成長が遅すぎる」「運営と癒着している」

などなど面白いことを言われていたので、慣れ親しんだ「例の人」のハンドルネームを使って掲示板に書き込んだ。

「チートは使ってません」

俺は基本的に、2ちゃんねるに晒されたら本人降臨するのが好きだ。俺の名前を出してるんだから出て行って何が悪い?
そもそも匿名で掲示板に書き込むのは好きじゃないしな。

2ちゃんねるで「どうやったらそんな成長できるのか?コツを教えてくれ」と聞かれたので、「寝るな。睡眠は甘え」とだけ言っておいた。実際は寝ていた。2時間ごとにアラームをかけていただけだ。

この頃になると周辺10マス以内くらいの村はほとんど俺の餌場と化していた。
まあ箱庭ゲーのつもりでプレイしていたゲームに朝起きてログインしたら「あなたの村が攻撃されました」のログが5つ来ていて、溜まっているはずの資源が空っぽになっていたらゲームを辞めたくもなるだろう。

中には兵士を作ったり、隠し倉庫を作ったりしてささやかな抵抗してくる奴もいた。
そういう奴には新しく作成したカタパルトをお見舞いしてやった。

このカタパルトというのは、相手の村の施設を破壊することのできる素晴らしいユニットだ。
しかも、どの施設を破壊するかを指定することができる。

俺は最も悪辣な手を選んだ。「農場の破壊」だ。

農場というのは穀物を生み出す施設だ。穀物が無いと人口を維持できない。それが破壊された村はどうなると思う?

「穀物が足りないので兵士を生産できません」
「穀物が足りないので施設を建てることができません」

詰み、だ。

こうしてできあがった「木材などの資源は生産するが、農場が破壊されてて何もできない」状態になった村のことを肉便器と呼んでいた。酷い呼称だ。

いくつか肉便器の村を作って楽しい略奪ライフをしていたらまた2ちゃんねるに晒された。
「運営に通報する」とか言われた。バカバカしい。俺は何も悪いことはしていない。

だが、俺がすでにカタパルトを運用していることはバレてしまった。
「サーバー1位のreinohitoは好戦的でヤバい奴」というのが2ちゃんねるの共通認識となったようだった。


次回(凋落編)に続く


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