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『淡島百景』が描く強い絆に胸が締めつけられる

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いわゆるガールズラブ(百合)において、「エス」はなにか特別な響きを感じる言葉です。もともとは、特に戦前における日本の少女・女学生同士の強い絆を描いた文学、もしくは友好関係のことをいいます。

2000年代の百合ブームから人気が再燃したジャンルですが、その中から志村貴子先生が描いた『淡島百景』をテーマに、作品の魅力と人気を集める理由を考察していきましょう。

舞台女優を目指す少女の強い絆を描く

舞台となるのは、淡島にある淡島歌劇の淡島歌劇学校です。学校の名前でピンときた人もいるかもしれませんが、兵庫県宝塚市にある宝塚歌劇団およびその付属学校の宝塚音楽学校をモデルにしています。

主要な登場人物は、以下の5人です。

●伊吹桂子(歌劇学校の教員)
●岡部絵美(桂子の同級生)
●山県沙織(女優)
●田端若菜(予科生)
●竹原絹枝(本科生)

物語は1話~3話完結のオムニバス形式で、ストーリーは現在と過去を行ったり来たりしながら展開。生徒同士の結びつきもあれば、教師と生徒との結びつき、過去の回想などさまざまな要素が絡み合います。

同じ時を共有してできる絆が胸を締めつける

舞台女優に憧れて門をくぐる人もいれば、若菜のように単なるミーハー心から入る人など入学動機はさまざま。それでも、舞台女優を目指して入ってくることに変わりありません。

入学後は予科生として学び、本科生に進級して舞台女優を目指すわけですが、その中で先輩と後輩もしくは同級生同士の深い絆ができあがっていきます。そこには、憧れの気持ちもありますが、いつまでも主役を張れないことに対する嫉妬のような感情も出てきます。

それでも同じ時を共有していることに変わりはなく、そこでできた絆に思わず胸を締めつけられます。

恐れられている教官の過去と現在に共感

私自身が思わず共感したのは、教師として登場している伊吹桂子の学生時代です。

彼女の同級生には、圧倒的な存在感を放っていた岡部絵美がいました。当然将来のスター候補で特待生でした。桂子は、そんな彼女に嫌がらせをして孤立させた上で、退学するまで追い詰めます。

その後、罪悪感に苛まれますが、風の便りで嫌がらせをした相手が亡くなったと聞きます。彼女にとって「もうお詫びしたい相手はこの世にいない」わけです。その時、以前から持っていた罪悪感はより大きなものへと変化します。

桂子は女優としては大成できなかったものの、出身校でもある淡島に「もう私のような人間も、恵美のような悲劇も二度と出さない」という思いで教師として戻ってきます。彼女は学生から怖い教官と言われていますが、そこには隠された理由があるわけです。

人間は誰しも醜悪な部分を持っています。それでも、そうした醜い部分はできれば見たくないと思うでしょう。それでも、そうしたところを認めて反省し、その悲劇を繰り返させないために厳しく指導する。

そんな教官に深い感銘を受けました。

太田出版のWEBコミックで読めます

作者である志村貴子先生は、『青い花』や『こいいじ』、『おとなになっても』など百合作品・恋愛作品で定評のあるマンガ家です。その絵柄は実に繊細で、主人公をはじめとして周辺人物の細かい心理まで描写した作風が人気を集めています。

『淡島百景』は第19回文化庁メディア芸術祭マンガ部門 優秀賞受賞した作品で、太田出版のWEBコミックで読むことができます。

2019年で更新が止まっていますが、終了はアナウンスされていないので気長に待ちましょう。

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