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長編小説【記憶の石】

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14歳の、終わりから。 ※フィクションです。
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2023年1月の記事一覧

【記憶の石】⑩

【記憶の石】⑩

 3月下旬ある日の昼過ぎ、この日もまだ少女は14歳だった。少女は進学先の高校の合格者オリエンテーションに両親と参加していた。平日なのに父も母もお揃いの新入生ばかりで、そのオーラが誇らしげにギラギラとしていたので、もしかしたら合格者の自分たちより輝いているのかもしれないと感じられた。
 生徒指導の担当教員という男性教諭がこの学校の素晴らしさを長々と語っていた。うちの生徒は自由なファッションで品行方正

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【記憶の石】⑨

【記憶の石】⑨

 私がガラケー世界を必死で徘徊してやっと正式に、勘違いじゃない彼氏ができたのは高校2年生、16歳のときだった。相手はそのとき22歳で、当時の自分が一番魅力的だと思っていた年頃だった。高校生にとって22歳はすごく大人で、大人の男と付き合うことでダサかった自分がどんどん、洗練されていくような気がして舞い上がっていた。けれども、誰かの「彼女」になるには、「告白」とそれに対する「OK」の儀式がないといけな

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【記憶の石】⑧

【記憶の石】⑧

 少女は背中のランドセルを左右にブンブン揺らしながらいつものように、逃げるように帰宅していたのだが、その日はもっと逃げる事情があった。
 孤独とは、逃げるもの——小学4年生、9歳の時点で既にそれを悟っていた。埋めようとするのは難しいけれど、逃げることならできる。できれば、埋めたいけれど——少女は自分が日頃そうされているように、ある人物を避けたいという意思を働かせることはもちろんあった。1学年下の、

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