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知識のない営業は怖い

買う側ではない。売る側の話だ。


私は以前、医療業界でマーケティングと営業の仕事をしていた。
そのころ常々思っていたのは、知識不足で臨む営業活動ほど怖いものはないということだ。これは、単に自分が不安だというだけの話ではない。誤った情報を伝えると顧客の不利益になるからだ。

医療業界も様々だが、私が勤めていたのは医療機器メーカーとデータベンダーの2社だ。
後者のほうは一般的なBtoBビジネスと言える。製薬企業や病院向けサービス、介護事業者などにデータ活用の提案をしていた。まさに今の流行りだ。


保険医療に関わる商材(あるいは製品)を扱っている場合、必ず国の医療政策/制度に基づいて動いている部分がある。
たとえば、ある手術を行っていい医療機関の条件が決まっていたり、医療保険でカバーできる範囲が決まっていたりする。

だから、製薬企業にデータ提案をするとき、顧客の販売する薬の情報だけを知っていればいいのではなく、医療制度について正しく理解していなければならない。これが誤っていると、全く該当患者さんのいないような施設にターゲティングさせてしまいかねないのだ。

そのような、顧客に価値提供ができない営業は本質的に営業として失格だというのが私のポリシーである。どれほど稼げていたとしても。


医療機器メーカーの社員として医師に情報提供する場合、顧客の販管費を無駄にしたという話では済まされない。情報提供のすぐ先にいるのは患者だ。患者の健康、さらにいえば命に関わることがあるのだ。

もちろん、最終的な責任を負うのは医師だ。一般人は治療に対して何の権限も持たない。
しかし、そんな言い訳は誰にとっても何の意味もない。自社製品についていい面だけでなくデメリットも伝え、患者一人ひとりに対して最適な治療の選択を医師に促す。だから、プロとして知識と経験を身に付けなければならない。それが誇りだ。

もしかすると、みすみす売上の機会を逃すなんて甘っちょろいという声もあるかもしれない。実際、会社の成長に貢献することも従業員の義務だ。
それを否定することなく、同時に各々矜持を持てばいいと思う。


結局のところ、これは医療業界に限った話ではないのだ。
自分が誰に何のために自社製品を提供するのか。そのために何が必要なのか。私は自身の経験から、正確な知識が圧倒的に重要だと実感しただけだ。
そんなことを振り返りながら、1年ぶりにまたこの業界に戻ろうとしているのである。

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