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無重力と宇宙食のカンケイ (宇宙食の雑学①)

「あー、もう!またやっちまったよ。」
「リコちゃん一体どうしたの?」
「どうしたもこうしたも、この前宇宙船を操縦しがてら食べようと買った宇宙ビスケットが飛んでどこかへ行っちまったんだよ。」
「あー、月の宇宙港に戻ってからじゃないと見つからないパターンだね。」
「この無重力っていうの?体が軽くなるから便利なんだけど、重力がないと食事をするにもウ○チをするにもいちいち制約があって不便なんだよなぁ。」
「そうだよね。でもリコちゃんが生まれた月面よりも地球の方が重力はもっときついよ?それに月面でも調理器具や油の取り扱いなんかも地球上と大分取り扱い方が違うから違うから私にとっては無重力も月面もどちらもまだ慣れないかな。」
「重力ってのも厄介だよな。場所によってものを食べるのにもいろいろ支障が出てきちまう。水なんかも・・ほら、丸く浮いた。」
「ぎゃーッ、リコちゃんやめて!そんな不用意に水を宇宙船内で浮かべないで!」
「何だよもう、クレアもたがが水を浮かべた位でそんな大声出すなよな。」
「水も無重力空間では丸く浮かんで見た目はかわいいけれど、顔とか様々な所に付着すると浸透して取れなくなるの。」
「あぁ、表面張力ってやつか。」
「何よ、知ってるんじゃない。機械類とかに付着でもしたら隙間に入り込んでショートや火災の原因にもなるんだから。」
「宇宙でそのままシャワーを浴びたら窒息するぞっていうのもそれが理由か。」
「それは大量の水を無重力かで一度に浴びるとまとわりついた水が気管や口を塞いでしまうからね。水は地球上と無重力である宇宙空間ではまるで異なる動きを示す。だからこそ、食品もそれに応じた形で宇宙に持ってゆく事が必要なのよ。」
「無重力空間じゃ地球上みたいにコップでスープも飲めないって事だな。」

 ・・・・・・

「それにしてもだ、その重力が宇宙食の歴史といったどんな関係があるというんだ?」
「重力による影響を受けない環境では使用できる食品の形態は限られてくる。例えばジュースや熱いスープなんかもコップに入れて安定させる事ができないし、ましてやラーメンなんかだとそこら中に散らかって危ないでしょ?」
「確かにそうだな。宇宙食のラーメンやスープ、ジュース類なんかはパウチ袋に入ってて、そこからみんな食べるもんな。」
「つまりそういうコト。重力の影響を受けない宇宙では色々なものが飛散してしまうから、液体のものや散らかりやすいものはパッケージの形状を工夫するなどしてこれを防止しているの。」
「開発する側も色々大変なんだな。」
「ところでリコちゃんはこんな宇宙サンドイッチ事件って知ってる?結構前のお話しではあるんだけど・・」

【宇宙サンドイッチ事件(1965年)】


 中ソ冷戦構造の中行われた宇宙開発競争。そんな最中の1965年、米国が有人宇宙飛行を目的としたジェミニ3号の搭乗員の一人であったジョン・ヤングは宇宙船内にコンビーフ・サンドイッチを持参していたのである。しかしヤングら搭乗員達は宇宙空間でのサンドイッチを食べようとするも、パンくずが宙を浮遊し上手く食べる事は叶わなかった。この事件はこの様に無重力空間という地球上とは異なる環境における食事の難しさを明らかにしただけではない。この事件は当時不評であったチューブ食をはじめとした宇宙食事情を背景として、宇宙飛行士が大きな責任と緊張を伴うミッションの中において安らぎと士気向上を高めるものとしてのより幅広い宇宙食開発の重要性を提起する事件でもあったのだ。これを契機にそれまでペースト状のものが主流であった宇宙食はフリーズドライに水を添加するもの、フォークやスプーンを用いるものなど、多様性を獲得していったのである。

「このジョン・ヤングって宇宙飛行士、すげー度胸のある人だな。尊敬するわ。」
「でも実はこのジョン・ヤングって人は宇宙開発史の中でもすごい人よ。彼の乗った宇宙船はジェンミニ以外にもアポロ計画で2回、更にスペースシャトルでもミッションを行ったことのある実績のある人なの。」
「私達の超大先輩なんだな。でも地球のサンドイッチもこの無重力じゃ満足に食べられないのか・・。」
「このパンくずの発生というのが厄介ね。ぼろぼろと溢れるものや液体のものは飛散して宙を漂ってしまう。万が一カビなどが発生すれば吸い込んで肺炎や色々な疾病の原因にもなるし、色々な計器類に紛れ込むと発火や動作不良の原因にもなる。地球に守られていない宇宙空間で私達を守るものはこのテクノロジーのゆりかご、宇宙ステーションや宇宙船の設備だけよ。この生命維持に必要な機械が満載した中で火事や故障でも起こったらそれはそのまま死に直結する危険なことなの。」
「中々難しい問題なんだな。でも、当時の宇宙食は歯磨き粉チューブに入ったジャムやゼリーみたいな食べ物だったり、あとはなんかよく分からない塊みたいな飯だったんだろ?そんなんじゃ嫌でもテンションが下がるだろ。」
「そうなの。宇宙でのミッションは長期に及ぶこともあるし、1973年から1979年までの間にアメリカで実施されたスカイラブ計画では84日間という2ヶ月以上もの期間の任務を達成したの。一つ窓の外は死の世界という究極の局地で、巨額の予算と人々の想いを受けて、緊張を伴いながら密室で仕事し続ける精神的な負担は計り知れないわ。」
「私もただでさえ納期や締め切りが迫ると錯乱しそうな仕事をしているのに、飯までまずかったら暴れるしかないな。」
「リコちゃんの言う通り、そんな中でも先述の宇宙サンドイッチの事件を通して食事が宇宙飛行士の士気の維持に密接に関わると認知されて研究が進んだの。スカイラブ計画での長期滞在が可能になったのも、その前の時代での教訓が生かされて食事のメニューなども増えた事も大きな要素の一つなのかもしれないわね。」
「とりあえず無重力だと地球上では当たり前に食べられていたものが食べれないというのは分かったんだが、具体的には宇宙食開発でどんな対策をしたんだ?」
「本当に様々なんだけれど、重力の違いを考慮して工夫されたものに、以下のような例があるわ。」

① 缶詰
② パウチ
③ 固形化(ブロック)

「どれも宇宙食あるあるだなぁ」
「缶詰なんかも宇宙食の定番で美味しいものが多いと評判よ。あとは水やお湯を入れて美味しくいただくパウチのもの、そして昔ながらの固形のものよ。」
「なぁクレア、このパッケージの一体どこが無重力を意識した設計なんだ?」
「ポイントは”飛散防止”よ。宇宙食として認可が降りる基準が無数にあるんだけれど、その中でも水やバラバラになった粉末が空中に飛散しないようにと言う点も非常に重視されているポイントなの。」
「サンドイッチ事件でもパンくずが飛散しちゃってたんだっけか。無重力だと床を掃除機にかけて終わり、ってわけにも行かないもんな。」
「そう言うこと。とはいえ最近は様々な開発者の皆さんの努力によってピザやおにぎりなど多くの食品が出てきているわ。私たちが生きているうちに、もっと地球上の食品に近い宇宙食がより誕生するに違いないわね。」
「美味しいものを食べるためにも、頑張って長生きしないとな〜。」
「以下に今日のお話に出ていた中で参考になるページをいくつか紹介していくわね。」

【参考文献】

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