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宇宙日本食(宇宙食の雑学④)

「なぁクレア、聞きたいことがあるんだが。」
「どうしたのリコちゃん?」
「いつもクレアが夕飯に飲んでるスープのパックなんだけど、私も飲んでみたんだ。しかし何だ、コンソメでもなければ中華の鶏ガラスープでもなく、茶色くて濁ったしょっぱい・・」
「あぁ、それはミソスープ(お味噌汁)ね。」
「ミソ?それもこれもクレアの生まれた日本とかいう国の食べ物なのか?」
「そうそう。味噌は大豆や米、小麦などに塩と麹を合わせて作った発酵食品なの。」
「発酵というと、イギリスやオーストラリアのマーマイトやベジマイトみたいなものか?」
「あれは原料や開発の経緯と、あと使い方が違うんだけど、作り方の発想としては近いかな?」
「しかし日本って国は不思議な食べ物が多いよな?ねばねばする茶色い豆やカラフルな切り身の乗った手のひらサイズのご飯、塩漬けにしたブラムや木の板の上に乗った白やピンク色の半円状のブロックとか・・あと黒い紙のようなもので巻いたボールの様なもの。」
「それは納豆とお寿司、梅干しにかまぼこ、そしておにぎりね。これらの食品は日本のスーパーマーケットやコンビニでは一般的に売ってるものなの。この記事を見てくれているみんなも興味があったら日本に来たときに見てみると新しい発見があるわよ。」
「月生まれの私には地球の重力は大分辛いがな。」「そんなリコちゃんのために!実は宇宙でも日本食が味わえる、そんな宇宙日本食というプロジェクトがあるの。次の項で触れていくね」
「おう。」

《宇宙日本食とは何か?》
■JAXA 有人宇宙技術部門, 宇宙日本食
https://humans-in-space.jaxa.jp/life/food-in-space/japanese-food/

「宇宙日本食はJAXAが定めた基準を基に、食品メーカーが開発して認定されたものなの。」
「日本食って言うくらいだから、懐石料理や精進料理ってやつに限られるのか?」
「それだけじゃなくて、一般的な日本ならではの食べ物、例えばカレーや焼そばなども宇宙日本食として認定されているの。」
「あ、カップ麺の回でやってた”スペース日清焼そばU.F.O.”とかいうやつか!あれ美味いよな。」

■ JAXA 有人宇宙技術部門, 認定された宇宙日本食 スペース日清焼そばU.F.O.
https://humans-in-space.jaxa.jp/life/food-in-space/japanese-food/detail/000370.html

「食事のラインナップが増えれば、宇宙の日頃の仕事のモチベーション維持にも貢献できるな。」
「むしろ私の場合もそうなんだけど、日本から長いこと離れていると日本食が恋しくなることが多いのよね。」
「宇宙から地球に降りるのも、かなり大変だからな。こういう色んな国の料理がどんどん開発されていくのは私もいいことだと思うぞ。ところでこの宇宙日本食って、他にはどんなものがあるんだ?」
「例えばひじき煮やきんぴらごぼう、名古屋コーチンと呼ばれる日本では有名な鶏肉ブランドの味噌煮、ハヤシライスにカレーライス、焼き鳥などがあるわね。」
「へぇー、色々とあるんだな。」
「他にも栄養ドリンクのリポビタンや海苔、ビスコ、柿の種と呼ばれるスパイシーなミニ煎餅のお菓子、カロリーメイトって言う固形型携帯食品など、宇宙日本食は2022年現在は約50品目の登録もあるの。」
「お菓子もあるのはありがたいな。いろいろな種類があるみたいだが、この宇宙日本食に採用される基準ってあるのか?」
「そうね。この宇宙日本食に登録されるためには通常の食品に求められる様な製造する際の万全な衛生管理体制や栄養基準や品質の他にも、少なくとも製造後1年半以上の長い賞味期限、激しい圧力(G負荷)や温度変化にも耐えられる包装の堅牢さ、調理の簡便さに常温での温度で輸送可能、無駄な空気を抜いてなるべく小さな体積に整形すること等が求められているわ。」
「ちょっと待ってくれクレア、宇宙日本食に登録しようにも、これじゃあ基準が厳しすぎないか?」
「まぁこれは宇宙食全般にとっても現状クリアしなければいけない条件ね。例えば病院も無い宇宙ステーションの中で長い時は半年以上も滞在する事になるの。そんな時にお腹を壊したらどうする?」
「下痢になってもトイレが快適とはいえないからなぁ」
「それに便が感染源になって他のクルーにも病気が蔓延したら一大事ね。だから衛星管理の徹底は地球と同等かそれ以上に気を遣わなければならないの。あとは効率よく栄養を摂取できる食品の持つ栄養機能の高さに対して要求されているのと、地球からロケットで運ぶ様な強烈な重力の負荷や、宇宙の激しい温度変化にも負けないパッケージングも宇宙食には求められているのよ。」
「そこまでは理解できるんだけどさ、無駄な空気を抜いて体積を減らせって、それは流石に几帳面すぎやしないか?」
「これはどちらかと言うと輸送性や収納スペースを確保するための措置ね。例えば風船をトラックいっぱいに積んで運ぶ時、空気を入れて膨らませた状態と空気を抜いたペラペラの状態、リコちゃんはどっちがたくさんの数の風船を運ぶ事が出来ると思う?」
「それは、しぼんだ方の風船だろう。膨らんだ風船は両手で持つのがやっとだが、しぼんだものならよく小さな袋にたくさん入った状態で100円ショップに売っているからな。」
「つまりそういうコト。私達の乗る様な宇宙船はスペースに限りがあるし、宇宙ステーションの様な大きな規模でも生命維持のための設備や研究設備など、やはり使用出来る空間を以下に余す事無く使う事が出来るか、という点が課題になってくる。また地球から食べ物を運ぶ際にも、燃料やロケット代などあり得ない位の輸送費用がかかるでしょ?だから、限られたスペースではありながらも一度の輸送で沢山の物資を運ぶ必要がある。だからこそ、宇宙で食べるものも可能な限りコンパクトにしておく必要があるの。」
「なるほどなぁ。しかしこれだけ宇宙食として認められるための基準が厳しいと、誰も宇宙食をわざわざ開発しようと思わないんじゃないか?」
「そんな事ないわよ。実はね、さっき日本宇宙食には50品目が登録されてるって言ったけれど、その開発に参加している企業は28社にものぼるの。」
「結構いるんだな!」
「日本は昔より日ものなどの乾物やカップラーメン、レトルト食品など、携帯性と保存性に優れた食品を生み出す分野では多くの挑戦をしてきた歴史があるの。今までも、そしてこれからも。日本の宇宙産業への挑戦は続くわ。」
「これで美味いものが空に上がって来てくれれば、私も幸せだ。」
「あと、携帯性と保存性にも優れた宇宙食は、そのまま災害非常食とコンセプトの共通する部分が多くあるの。JAXAでは日本災害食学会と連携して宇宙食として開発された食品や技術を、災害支援やその備えとして地上でも活用する取り組みも実践しているの。」
「地震や台風、地上もリスクがいっぱいだから、みんなで備えれば安心だな。」
「じゃあ最後は日本宇宙食からちょっと脱線しちゃったけれど、また新しいトピックがあったら紹介するね。」
「またなー。」


<参考文献>


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