見出し画像

月食のあれこれ (奇跡の天体イベント①)

「ねぇリコちゃん、地球では月食のイベントがあったみたいよ?」
「あァ?月食なんて日常茶飯事だろ。ほら、地球の周回軌道を回りますー、地球の影が月を覆いますー。」
「そんなねぇ、地球に住んでる人は宇宙にいる時みたいに高速で飛び回ってないからそんな頻繁に見ることはできないのよ。」
「クレアの地元はニッポンだったか?あの縦長の島国な。」
「そうなの。皆既月食は日本でも何年かに一度見れるか見れないかというほどレアなのよ?ほら、さっき親戚が撮影してくれた写真があるからこれを見て欲しいの。」

〔1〕皆既月食の写真_2022年11月8日撮影_Hiiragi Fujiwara

「おぉ、知ってるぞ。こいつは探査衛生ニューホライズンズが昔に撮影した冥王星の写真だな?」
「違うわよ。地上から携帯電話で撮影した月食の写真よ?」
「ちょっと画素数少なすぎなんじゃないのか?これじゃぁ読者に伝えるものも伝わらんだろう。」
「コストを気にして中古の古いアイフォンを使ってるから仕方がないのよ。
気を取り直して行くわよ、次の写真はこちら。」

〔2〕部分月食の写真_2022年11月8日撮影_Hiiragi Fujiwara

「画素荒っ!」
「でもちょっと見て。この次の影、丸く弧を描いているでしょう?」
「ああ。これが地球の影の表面の部分って事だな。」
「そう。この事実からも、地球は丸い事が地上からも分かるわね。」
「地球は丸い、か。今でこそこうやって宇宙から地球を見下ろすなんて事が出来るが、昔はロケットとかもなかったからこうやって別の方法で地球が丸いってことを調べるしかなかったんだな。」
「調べる方法は他にもあったんだけれどね。それでも昔は宗教やその当時の文化の価値観、信じられていた政治的な普遍性などの観点から例えそれが正しそうなものでも不用意に発言すると異端として厳しい立場を余儀なくされてしまう歴史があったの。宇宙天文学の領いきでは地動説を唱えたガリレオ・ガリレイ(1564-1642)の"それでも地球は回っている"は有名ね。」
「それもだいぶ辛いな。・・だがちょっと待て、クレア。」
「どうしたのリコちゃん?」
「何かさ、1枚目の画像変じゃないか?これ、月食のどのタイミングで撮った写真だよ?」
「いつって、これは皆既月食の状態、つまりお月様が全部地球の影に隠れた状態よ。」
「でも光ってんじゃん!しかも何か赤くないか?月って言ったら灰色の大地に強烈な太陽の光で照らされて白く輝くってのが常識だろ。やっぱりこれは冥王星のピンボケ画像なんじゃないのか?フェイクニュースだ!月面都市の裁判所に訴えてやる!」
「リコちゃん落ち着いて、地球で見える月食が赤く見えるのには理由があるの。」
「しかし赤い月なんて、ドラキュラ伯爵の居城の上に浮かんでいる月やアニメ・フィクションの世界でしか見たことないぞ。」
「でも実際に地球で見る皆既月食はこの赤い月になるのよ。でもこれにはちゃんと理由があるから、その点についても説明するわね。」

「リコちゃんは夕焼けって知ってる?」
「知ってるも何も、地球のドラマやアニメとかでよく出てくるやつだろ?太陽が沈むタイミングで空が鮮血の色に染まる薄気味悪い現象の事だな。」
「そんな風に言わなくても・・夕焼けはとても風情があって素敵なものよ。」
「そうは言ってもよ、クレアと違って月面都市でしか生活した事のない私にとっては空全体が真っ赤に染まるなんて珍現象、いまいち掴めないんだよな。ほら、月じゃ地平線から太陽がスポーンって出てきて、ストーンって日の入りしたりする際も空の色なんていつも通り真っ暗だからさ?そもそも青空なんかもないし。」
「そうね。そもそもなぜ空が青いのか、そして夕焼けはなぜ赤いのか。それは地球の表面を覆う空気によって生じている現象なの。」
「空気?」
「空気は目に見えないけれど、風船を膨らます事が出来るように確かにその物質はこの空間に存在する。息を吹き掛ければ私達は風圧を感じるし、強い風によって建物が破壊される事だってある。空気は目に見えないけれど物質としての
質量や性質を持つの。そして、物質である以上は光に当たるとその光の進む道に影響を与える。」
「光の進む道?」
「例えばリコちゃんに光を当てると、その後ろに影ができるでしょ?リコちゃんはどう感じる?」
「超眩しい。」
「そう。光がリコちゃんに当たって、反射する。空気みたいな超微粒子でも同じ事が起きるの。」
「影ができるのか?」
「うーん・・正確には、直撃した光の波長のうち、青い光が散り散りになって、真っ直ぐ進みやすい赤い光が空気の層を通過してゆくの。」
「青い光が散り散りになる?」
「そうなの。太陽から放たれる強い光には赤や青といった様々な光の波長を含んでいるの。それが空気のフィルターを通ると、青い光が弾き飛ばされて最終的には赤い光が地表まで到達しやすいのよ。お昼よりも夕方に空が赤くみえるのは、太陽の高度が下がって斜めからより多くの空気の層を透過する必要があるからよ。地球の表面スレスレで光がやって来るとその分空気の層を通過しないといけないから、結果として夕焼けや朝焼けのような赤い光が主に地表に届くという現象になるわけ。」
「もっと分かりやすく言ってくれ。」
「オッケー。下に図を示すわね。」

〔3〕日光の入射角度の違いによる通過する大気層の厚さの違いについて_Hiiragi Fujiwara

「つまり空気の層を通過する分だけ、光はどんどん赤い色の要素だけになってゆくって事だな。」
「そういうこと。あと似たような原理で水族館に行くと深海のお魚エリアが赤いライトで展示されている事があるけれど、これは深海だと水の分子で青い光が散乱された結果、赤い光がより深い海にまで届くからという事になるわね。」
「なるほどな。ところで今回のお話は”皆既月食の時の月はなぜ赤いのか”だろ?それももしかして、地球を覆っている空気と関係があるのか?」
「そういう事になるわね。太陽から発せられた光は地球にあたると、特に赤い光は通過しながら空気の作用によって若干屈折する。それが夜側に形成される地球の影の中に入り込んで月を照らすの。そうやって月が赤い光によって照らし出される事で赤い月になるのよ。」
「それもこれも、地球の持つ大気の層が成せる技なんだな。」
「そういうコト。月面では確かに地球ではできない事や現象を体験できるかもしれないけれど、地球でしかできないことや体感できないこともいっぱいあるの。だからこそ、日常の中にありふれた現象を少しでも見つけ出して、考えてみる習慣を持つのも日々の学習の助けになるかもしれないわね。」
「私も筋トレして地球へ行ってみたいな。」
「それじゃぁ今回は駆け足で説明しちゃったけれどここまで。また天体にまつわる素敵な内容を見つけたらお話しするわね。」
「またなー。」


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?