生活に寄り添ってくれた音楽たち/「さっきすごい偶然が起きたんですけど」

遠くから鳴り響いてくる機械音のメロディが誰の何の曲かどうしても思い出せずにいた。職場の工場で機械が作動中ということを周囲へ知らせるために機械音で音楽が流れているのだが、どこかで絶対聴いたことがあるのに思い出せないというモヤモヤに悩まされていた。

僕の職場に今は異動になってしまった同い年の先輩が居た。社歴が彼の方が長かったので当然敬語を使って接していたけれど、僕と同じでロックバンドのライブによく行くという話で盛り上がったりして仲良くさせてもらっていた。先輩はユーモアがあって話していて楽しい人だったから、夜勤で一緒になった時や2人の時は先輩と話をするのが仕事中の楽しみだった。そこで僕のモヤモヤしている曲のことについて話してみたが、答えは僕と一緒で「確かにどこかで聴いたことはあるはずなんだけどなぁ」だった。

そんなある日、僕は休憩中に今はもう終わってしまったbayfmの音楽番組を聴いていた。
「つい先日KANさんの訃報がありましたので、追悼の意を込めて今週はKANさんの名曲特集をお届けします」
それまでほとんど聴いたことがないなぁなんて思っていたらパーソナリティが「それでは一曲目をお届けします。KANさんで『愛は勝つ』」と曲紹介をした。軽快なピアノのイントロから始まったその曲は、テレビやCMで誰もが必ず一度は聴いたことがあるはずのあの曲だった。

「どんなに困難でくじけそうでも　信じることさ　必ず最後に愛は勝つ」

そして偶然にもこのサビのメロディが、僕がずっと気になっていた機械音のメロディと完全に一致した。居ても立っても居られず休憩所から飛び出して職場に戻った僕は「さっきすごい偶然が起きたんですけど、あの曲が何なのか分かりましたよ！」
答えが分かった経緯を先輩に話すと「マジか！今日いち驚いたわ！」と笑った。
遠くからまたサビのメロディが聴こえてきた。