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テレビ番組『Øgendahlと偉大な作家たち』カーレン・ブリクセン編③

『7つの素晴らしい物語』
アメリカ、デンマークでの受容、Isak Dinesenという筆名
ファンタスティックで、不条理で、不気味で、超自然的な文学
本嫌いな人に本に興味を持ってもらうための工夫
人間の多面性
芸術とは? 偉大な作家とは?
ブリクセンと飛行機に乗って、鳥の目線で世界を捉える

『7つの素晴らしい物語』

 前回お伝えした通り、絶望の淵に立たされたブリクセンですが、亡き恋人の”いつかこの物語を本にしておくれ。僕は君の物語が大好きなんだよ”という言葉だけを人生の道しるべに、言葉を紡ぎはじめます。

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 そうして生まれたのが『7つの素晴らしい物語』(Syv fantastiske fortællinger)でした。

アメリカ、デンマークでの受容、Isak Dinesenという筆名

 カーレン・ブリクセン博物館の説明によると、彼女は17年間のアフリカ暮らしで英語を主に使っていたため、この作品をまず英語で書きました。1934年の4月アメリカでIsak Dinesen(イサク・ディーネセン ここではイサクと発音されています。アイザックと日本語訳でなっているものもあるのですが、どうしてでしょうか。多分なのですが、デンマーク語ではイサクになり、英語圏の人はアイザックと読むのでしょうか。なので英語からの訳の時はアイザックが妥当?)の筆名で『 七つのゴシック物語』(Seven Gothic Tales)というタイトルで本が出されると、アメリカのブッククラブ “Book-of-the-Month Club”の今月の本に選ばれ、熱狂的に迎え入れられました。
 1年後の1935年9月に作者自らがデンマーク語に直してデンマークで発表。デンマークでも大ヒットしました。この時も筆名Isak Dinesenを使いました。

ファンタスティックで、不条理で、不気味で、超自然的な文学

 Cathrine Lefebvreは言います。
「この本は、人間存在をありとあらゆる奇妙な枠組みから示した奇妙な物語です」
 別の評論家はこう言います。
「これはファンタスティックで、不条理で、不気味で、超自然的な文学です。この本にはおばけ、様々な殺人、人から動物への変身が描かれています」
 Marianne Juhlは言います。
「彼女は当時、自分の本がどう世間に受け止められるか不安を覚えていました。だから筆名を使ったのではないでしょうか」

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本嫌いな人に本に興味を持ってもらうための工夫

 Øgendahl登場。
『7つの素晴らしい物語』読んでみたけど、僕のおつむでは難しいみたい。そこで、『カーレン・ブリクセンについての小さな本』について話を聞きに行こうと思う。カーレン・ブリクセンについての他の分厚い小難しい本よりずっと薄くていいよね」(←本を読めー、と突っ込みたくなりますが、本当は読んでて、本が苦手な視聴者も親しみを持てるようにしているのでしょうね)
 伝記の著者のSune de Souza Schmidt-Madsen登場。倉庫で飛行機のメンテナンスをしています。アフリカでブリクセン達が乗っていた飛行機みたいだろ、とSune。

 脱線しますが、この人、デンマークのブックフェアで見たことがあります。このカウボーイ・ハット、忘れません。彼はもともとカーレン・ブリクセン博物館でブリクセンについて教える仕事をしていたのですが、今は大手出版社Lindhardt og Ringhofの文芸部の部長をしているよう。

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人間の多面性

『7つの素晴らしい物語』を読もうとしたんだけど、これは一体どんな本だったんだい?」とØgendahl。
「この物語の1つ目には、Augustus von Schimmelmanという太っていなければ美しい醜男が出てくるよね。彼女の文章にはいつも、”でも”、”~でなければ”という言葉が出てくる。例えば牧師が出てくる。彼は悪魔性を秘めている。ブリクセンは常に光の面と闇の面、両方を描いていくことで1つの人物像を構築していく。例えば慈愛に満ちた人物が殺人を犯す。そこまで描かれてはじめて、人物像がくっきりと浮かび上がってくる。若くて優秀な女性が不実に走る。そうして初めてその人の人となりが分かる」

芸術とは? 偉大な作家とは?

Suneはさらに語ります。
「彼女の作品を読んでいると、まるで自分の心をのぞかれているような気分になってくる。偉大な作家というのは、そういうものなのだろう。読者が自分自身のことを読みたくて読む。そういう本こそが芸術なんだ。
 彼女は人生について答えを何ら示していない。オープン・クエッションのまま残している。登場人物が苦しい状況で、もがき苦しみながら生きる様を彼女は描いている」
 飛行機を見学しながら話す2人。
「飛行機というのも、彼女の文学のテーマだよ。人が何かに熱狂しすぎると、浮き足立って、問題が起きる」

ブリクセンと飛行機に乗って、鳥の目線で世界を捉える

 すると不思議。Øgendahlはいつの間にかカーレン・ブリクセンと飛行機に乗っています(なぜ!? どういう展開!?)。
 ブリクセンは恋人の死についてこう言います。
「死ねるのは、自由に生きた者だけ」
 Øgendahlは分かったようで、分からないような表情。文学って霞をつかむようですね。分かったようで、分からない。分からないことを、考え続ける。分かり合えやしないってことを、分かり合うために。

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