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「温泉の科学」〜温泉の効能〜しぜんのかがくep.25 ぼうさい豆知識〜温泉地と災害について〜

(この記事は、サイエンスアイ新書「温泉の科学」佐々木信行著、「温泉のはなし」白水晴雄著、水の文化2022No.72 「温泉の湯悦」を参考にしています。)

温泉に入るとどのような効果があるのでしょうか?含まれる成分による効能もありますが、昔からの言い伝えの要素もあります。自然豊かな温泉地にいき、ゆっくり暖かい温泉に浸かる温熱効果がかなり大きいようですよ。

温泉の温熱効果

今の医学では以下7つの作用があることが明らかになっているそうです。

❶温熱作用
体が温まると血管が拡張し心臓の動きが強まり血流が増え、神経痛などの慢性的な痛みや肩こりをほぐす。
❷静水圧作用
お湯の水圧で全身が締め付けられることよるマッサージ効果。特に温泉地は大きなお風呂が多いので血流が良くなりますね。
❸浮力作用
水中では浮力が働いて体重が10分の1程度になります。関節や筋肉の緊張がゆるみ、リラックス状態になりますね。
❹清浄作用
湯にしっかり浸かると毛穴が開き汚れや皮脂が流れ出ます。
❺蒸気作用
鼻やのどの粘膜は乾燥すると免疫力の低下を招きやすいので、浴槽に浸かり湯気で湿り気を与えることが大切です。
❻粘性・抵抗性作用
水中で体を動かしたときの負荷は陸上の約3〜4倍。入浴中に体操やストレッチなどで筋肉に刺激を与えれば手軽に運動療法効果が得られます。広いお風呂ならではですね。
❼開放・密室作用
自分だけの空間を体感できる入浴で日常から解放されリラックスできます。

さらに温泉では「転地作用」が加わるのです。私はこれが大きい効果と思います。転地作用とは、周辺の美しい自然、すがすがしい空気、湯の街の佇まい、おいしい山海の幸……。ストレスの多い日常から切り離され温泉地の環境全体に癒される。これが一番ですよね。医学的にも温泉の「総合的生体調整作用」と呼び、さまざまな健康増進効果があるようです。
(上記の医学的内容は以下の医師早坂 信哉さんの解説内容を紹介しています。)
医学からみた温泉の効果 ──日帰りや1泊でもよい影響が │72号 温泉の湯悦:機関誌『水の文化』│ミツカン 水の文化センター (mizu.gr.jp)

化学・薬理効果

  • 温泉は家庭のお風呂と違って様々な成分が含まれていますよね。温泉に浸かることによる効果(皮膚による接触効果。少量なら皮膚から吸収される)について紹介します。2014年に温泉禁忌(熱がある時や結核、心臓病など)、注意事項が大きく改定され、病名をわかりやすくし、最新の医学的知見を踏まえて修正されました。「療養泉」といい、10種類に分かれています。

単純泉、塩化物泉、炭酸水素塩泉、硫酸塩泉、二酸化炭素塩泉、含鉄泉、酸性泉、含ヨウ素泉、硫黄泉、放射能泉です。

そのうち、代表的な4点紹介します。
塩化物泉である、食塩(塩化ナトリウム)成分を含む温泉は、入浴後に皮膚に付着した塩分がタンパク質や脂肪と結合して皮膚に膜を作り、汗の蒸散を抑制するので、保温・温熱作用が持続する。
炭酸水素塩泉である、アルカリ性泉(重曹(炭酸水素ナトリウムを含むアルカリ性の温泉):アルカリ性泉の効果はセッケンの作用と同じで皮膚表面の角質や皮脂をはがして溶かし込んでしまい、そのぶん皮膚がツルツルに滑らかに感じることができる、いわゆる美肌の湯の効果である。ただし強いアルカリ性泉の場合は皮膚をはがし過ぎ肌荒れするので注意が必要である。弱アルカリといわれるpH7.5~8.5程度が最適である。
硫酸塩泉、二酸化炭素塩泉は、二酸化炭素や硫化水素による血管拡張作用がある。末梢血液循環の改善(冷え性などの改善)、軽度の高血圧患者の降圧作用、体温上昇が短時問で可能、温熱効果の早期発現と持続効果がある。
酸性泉だけでも殺菌効果がある。マンガン(Mn)・ヨード(I)含有泉は殺菌効果が強い;にきび、アトピー性皮膚炎に効く。
(入浴による殺菌効果は、皮膚表面で細菌などが増殖して皮膚症状を悪化させるような、細菌性皮膚疾患、真菌性皮膚疾患などにも効果を表す。アトピー性皮膚炎などは、皮膚の表面でブドウ球菌などが増殖し、その部位で炎症を起こし、かゆみや湿疹を生じる。皮膚表面を殺菌することで効果を生じる。)

飲泉の効果

また、温泉を飲むことによる効果もあります。輸入されているミネラルウォーターなどはそうですね。その産地の多くは温泉地です。日本より外国のほうが飲泉が盛んです。飲泉は化学的物質が入った温水なので、薬を服用するのと同じですね。
① 炭酸水素塩泉 重曹のアルカリの効果で胃酸を中和し、胃十二指腸潰瘍などに効果がある。 
② 二酸化炭素塩泉 二酸化炭素の血管拡張作用で胃の血管が拡張し、胃腸の動き(ぜん動運動)が活発になる。胃腸機能低下、食欲増進などに効果がある。 
③ 含鉄泉により、鉄が含まれていればそのぶん、鉄欠乏性貧血に効果がある。

以下、温泉の効能の簡単なまとめです。

環境省 温泉療養のイロハ
環境省 温泉療養のイロハ


温泉の入り方ですが、昔ながらの「湯治」で21日入れる場合が一番いいのですが、忙しい私たちは1泊から2泊でも効果はあります。

環境省では2018年(平成30)から全国の温泉地の協力を得て「全国『新・湯治』効果測定調査プロジェクト」を実施しています。今のライフスタイルに合った1泊2日の短い期間での温泉地での過ごし方を環境省は「新・湯治」として提案しています。

主に以下の2点の効果があるそうですよ。
1. 温泉でただ湯に浸かるだけでなく、ゴルフや登山などの運動、周辺の観光や食べ歩き、マッサージやエステなどのアクティビティをした人ほど、よりよい心身の変化を自覚したこと。
温泉自体も元々明治までは外湯で温泉地まで歩いたり土産物を買ったり観光に行ったりしていたので、現在も温泉旅館やホテルに籠るだけでなくいろんな活動をした方がいいですね。

2.長期間の温泉地滞在ではなくても、日帰りや1泊2日でも心身へのよい影響が見られ、年間を通して高頻度で温泉を訪れる人ほど、その傾向が強いそうです。温泉をよく利用する人はより健康を感じたり、ぐっすり眠れるようになったりするそうです。静岡県熱海市で、介護保険のデータに紐づけて3年ほど遡った調査では「自宅に温泉を引いている人ほど介護状態が悪くなりにくい」という結果もあるそうですよ。

これらの調査結果から、転地効果による総合的生体調整作用が働いていることがわかり、必ずしも昔ながらの長期間の湯治でなくても、温泉地滞在は心身へよい影響を及ぼすようです。

また、温泉地滞在の効果を最大に高める方法は「積極的ぼんやり」だそうです。スマホも置いて、ゆったりする。「ぼーっとする」温泉地に来た時くらい情報過多の普段の生活から離れて自由になることも大事ですね。一人で行くのも自分に向き合う時間になりますし、家族や大切な人と行くのも絆を深められそうですね。

出典:全国「新・湯治」効果測定調査プロジェクト3カ年調査結果概要報告(環境省)

(上記の内容は以下の記事を書かれた医師早坂 信哉さんの解説内容を参考にしています。)
医学からみた温泉の効果 ──日帰りや1泊でもよい影響が │72号 温泉の湯悦:機関誌『水の文化』│ミツカン 水の文化センター (mizu.gr.jp)

ぼうさい豆知識〜温泉地と災害について〜

温泉は私たちにとって素晴らしい資源ですが、一方で災害をもたらす事もあります。知っておくことで安全に過ごせる事もあると思います。

3つ紹介しておきます。1. 硫化水素による災害、2.レジオネラ菌による災害、3.土砂災害です。

1.硫化水素
温泉地に行くとツーント軽く鼻を刺激すことがあります。これは硫化水素(H2S)のにおいです。
硫化水素は微量でも 異臭を感ずるので,温泉の臭いは主に硫化水素です。濃度 が濃いと硫化水素はとても危険で、僅か 0.1 ─ 0.2%の濃度で人が死んでしまいます。毒性の原因は 硫黄のS2(2 価)により、体内の呼吸器系の酵素反応の過程で、酸素O2(2価)が結合しなくなるためです。
毒作用としては、硫化水素は目,皮膚粘膜を刺激するので痛みを感じます。また、全身に対する作用は呼吸困難,頭痛,めまい,肺浮腫(はいふしゅ:肺の実質(気管支、肺胞)に水分が染みだして溜まった状態を指します。この水分により呼吸が障害され、呼吸不全に陥る可能性),低血圧,不整脈,昏睡,嘔吐(おうと)などがあります。
怖いのが、硫化水素を嗅ぎ続けると臭覚がマヒしてしまい,高濃度の硫化水素に気がつかなくなってしまう事です。硫化水素の多い温泉では要注意です。草津温泉は殺生河原(せっしょうがわら)という立入禁止区域があります。実際に1971年に中高生を含むスキーヤーが硫化水素ガスにより中毒死しています。美しい高原植物も咲いている時期もあるそうですが、そういうところには長くいないようにしてくださいね。

2.レジオネラ菌

Legionella pneumophila wikipedia

1976 年フイラデルフイアのホテルで在郷軍人会 が開かれ,221 人が感染し,34 人が死亡しました。当時 は何が原因かわからず,レジオネラ症と名付けられました。レジオネラというのは在郷軍人という意味です。その後判明したのは別に新しい細菌ではなく, 自然界(河川、湖水、温泉や土壌など)に生息している細菌で人間が吸うと肺炎を起こします。レジオネラ肺炎は、全身倦怠感、頭痛、食欲不振、筋肉痛などの症状に始まり、咳や38℃以上の高熱、寒気、胸痛、呼吸困難が見られるようになります。まれですが、心筋炎などの肺以外の症状が起こることもあります。また、意識レベルの低下、幻覚、手足が震えるなどの中枢ちゅうすう神経しんけい系の症状や、下痢を起こします。日本でも2002年に宮崎県の大型温泉施設で300人の利用者が発病し、7名が死亡しました。レジオネラ症は、主にレジオネラ属菌に汚染されたエアロゾル(細かい霧やしぶき)の吸入などによって、細菌が感染して発症します。レジオネラ属菌はヒトからヒトへ感染することはありません。熱に強く50度でも生存しています。恐い細菌ですが、塩素消毒(特に巡回濾過式温泉)や衛生管理がされているところでは問題ありません。

3.土砂災害
温泉地滑りといって、やはり土(粘土)と水(温泉)があると地滑りが起こります。特に温泉地は断層や岩場の割れ目に沿って温泉水や蒸気が出ていますので、岩石など風化して脆くなります。岩の塊の落下や斜面の崩壊が起こります。地滑りにより高温の水蒸気噴出通路が遮断され、小規模の水蒸気爆発が起こる事もあります。粘土にはスメクタイトという鉱物が含まれ、かなり体積が膨張します。すると、粘土質が多い場所で地滑りが起こります。トンネル工事でトンネルの壁や支柱が壊れるほどの力を持っているそうですよ。特に梅雨で大雨が降った時、台風による豪雨の後は要注意です

温泉は火山の近くにあり、プレートの動きで温泉が湧き出るという話もしましたね。また、必ず起こるわけではありませんが、地震が起こる前後に温泉の性質が湧き出る量が変わったりする事もあるそうですよ。

温泉に行ったからといって災害に遭うわけではありませんが、知識として知っておいてもいいですね。

⭐️Podcast本編はこちら↓宜しければお聴きください♪
神田沙織 がりれでぃ スピンオフ
ナチュラル・サイエンス・ラボ
しぜんのかがく






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