見出し画像

術後三年目の祈り、『ストーナー』トークイベント視聴、磔磔で家主のライブを観た2024年6月末の日記

2024年6月18日(火)

術後三年目の検査のため医大に行く。
行く途中、ちょうど昨年のこの時期、会社を辞めようかな……とうっすら思いはじめたことを思い出す。

検査をクリアできずになにかしらの治療がはじまったら、会社にしがみつかなければいけない。定収入を手放せないからだ。
けれども、検査をクリアできたら? 会社を辞めてもいいだろうか?
もちろん、再発がなくともこれまでどおり治療は必要だし、家賃や食費といった生活費が発生するのも言うまでもない。雇ってもらっていることや定収入がどれだけ有難いものかはよくわかっている。

でも少しばかりの貯金もある。なにより、会社で勤めながら細々と翻訳をする中途半端な現状をどうにかしないといけない。定収入は必要だけど(何回言うねん)、もし検査をクリアできたら……

というわけで昨年は無事クリアしたので、会社を辞めてしまった。

異常がなくてよかった! 会社を辞めてよかった!! というか、いま(7月22日)この暑さで通勤してたら死んでたかもしれん!!!

とつくづく思う一方で、住民税などの通知を見ると、あーまた金が減る、金がないのは首がないのと同じや、落ち着いたらはよバイト探さなあかん、関西スーパーでレジ打ち募集していたような……と頭のなかでグルグルするときもある。

でもとりあえず今年も無事に検査をクリアできた。エコー、マンモグラフィー、腫瘍マーカーも異常はなかった(薬の副作用で骨密度が下がっていたけれど)。主治医の先生は外国の大きな学会での発表を見事に成功させたらしく、ご機嫌だった。

診察が終わると、母親の面会に行くために父ヒロシとロッテリアで合流。トムヤムクン味のハンバーガーを食べながら、父ヒロシも健康診断を受けて前立腺で引っかかったけれども、再検査で異常なしだったという話をはじめて聴く。私が病気になったときもすぐに伝えられなかったように、父ヒロシも黙っていたのだろうか。

今日のところは家族全員なんとか無事に生きている。お金がなくなったらまたそのとき考えよう。
これからも一日じゅうマークと一緒にいられますように。なるだけお留守番をさせないで済みますように。毎日お昼寝から起きたマークを抱っこできますように。

2024年6月25日(火)

まずはYouTubeで〈『ストーナー』&『オリンピア』 どこが似ていてどこがちがう?〉を観たあと、ジュンク堂池袋本店のイベント「『ストーナー』刊行10年、翻訳家・東江一紀没後10年」をアーカイブで視聴する。

『ストーナー』とは、1965年にアメリカの作家であるジョン・ウィリアムズが発表した小説であり、農村に生まれたひとりの男が突如として英文学に目覚め、ひたすら学問に打ちこんで生きていく姿を描いている。

これはただ、ひとりの男が大学に進んで教師になる物語にすぎない。しかし、これほど魅力にあふれた作品は誰も読んだことがないだろう。――トム・ハンクス

というトム・ハンクスの推薦文のとおり、とくに大きな事件が起きるわけではない静謐な小説なのだけれど、永遠にわかりあえない夫婦関係や大学の人事をめぐる争いといった軋轢がしっかり描かれていて、いわゆる「いい話」では終わらないところが、イアン・マキューアンやジュリアン・バーンズといった曲者とも言える作家陣が称える作者の凄さなのだろう。

正直なところ、十年近く前に読んだときは、妻や娘がこれだけ不幸を味わっているのに文学に没頭している主人公に対して、いい気なものだという感想を抱いた。しかしいま読み返すと、文学を教える仕事に就いて初恋の人と結婚し……と自分の求めていたものを手に入れたにもかかわらず、こんなはずではなかったと失望がつきまとう人生のままならなさや、運命に対する人間の無力さを強く感じた。

『ストーナー』は、翻訳家の東江一紀さんの遺作としても知られている。ジュンク堂のイベントで語られた、死期を悟った東江さんがお弟子さんの布施さんに『ストーナー』の校正を託したエピソードも心に残った。

2024年6月30日(日)

この日は京都へ。祇園四条で降りて、まずは佛光寺と因幡堂へ。

以前、がん封じで有名な因幡堂で願掛けをしたので、無事三年目の検査をクリアしたお礼を報告する。そして↑にも書いたとおり、これからもずっとマークと一緒にいられるようにさらに祈る。そしてペット御守りも購入する。


マークは首輪をつけていないので、ペット御守りは私のカバンにつけました。

そのあとは家主のライブを観に、ひさびさに磔磔へ行く。
家主とは、下の記事のとおり、くるりの岸田氏やスピッツのマサムネさんも大推薦している四人組のバンドで、少し前に802でマカロニえんぴつのはっとり君のラジオを聴いていると、案の定はっとり君も「家主、大好き!」とおっしゃっていました。

実際に聴いてみると、ビートルズやELOの影響が強く感じられるヒネリのきいたメロディーと、頑張れ系でも脱力系でもない独特なメッセージを乗せた歌が耳から離れなくなり、ちょうどそのときライブの情報を知ってチケットを入手した。

ライブは淡々と演奏するのかな? と思っていたら大まちがいで、二本のギターがうなり、ベースとドラムがしっかりリズムを刻む熱いライブだった。ギター(ヤコブ氏、谷江氏)とベース(悠平氏)がそれぞれ曲を作って自分で歌うというスタイルなのだけれど、CDで聴くよりも個性が際立っていたのもおもしろかった。

磔磔は木造の古いライブハウスで、ノスタルジーを感じさせつつも新しい日本語ロックを鳴らしている彼らの雰囲気にぴったり似合っていた。客層は若い人が多いけれど、そんなに若くない人、あきらかに若くない人も混じっていて、でも全員が楽しんでいるのが伝わってくるのが小さいライブハウスの醍醐味だなとあらためて感じた。

ちなみに家主はフジロックにも出るそうなので、前みたいにフジロック配信してくれんかなーと念じていたら、先日配信されることが発表になりました。
今年の夏はどこにも行く予定はないので、『石のような自由』を聴いて、石のように自由な人生を満喫しようと思います。傍から見ると、かぎりなく無職に近い人生かもしれんけど……

(しかし「きかいにおまかせ」とは、この時代をうまくあらわしたタイトルですね。まさに翻訳業界にもあてはまる……俺はもっとずっと頑張りたいのに!)

↓↓↓サポートしていただけたら、治療費にあてたいと思います。(もちろん強制ではありません!)