まちのおまつりで「好き」を広める(まちの不思議 おもしろ探究日記 #15)
「大好きな妖怪ウォッチがもうすぐ十周年になるから、盛り上げたい。」
次男がそう言い出したのは去年の秋のことだった。
妖怪ウォッチのキャラクター「ジバニャン」のぬいぐるみを、もう八年近く自分の半身のように持ち続け、頭の中には常にジバニャンがいて、いつも一緒に暮らしている。発達がゆっくりで特性の強い次男にとって、ジバニャンは心の友であり、ジバニャンを支えにここまで生きてきたと言っても過言ではないくらいである。
その妖怪ウォッチの人気がここ数年下降してきていて、アニメ放映もついに今年終わってしまった。現在残っているコンテンツはスマホのゲームのみだが、それでも諦めたくない、盛り上げていきたいんだと、次男が言い始めた。
◆
どうやったら盛り上げられるのだろうかと、いろいろと考えていたちょうどその頃、国分寺のまちをあるいて巡り、まちの魅力を再発見する「ぶんぶんウォーク」というまちのおまつりがあり、その中の企画として「こども蚤の市」を企画してくれた方がいた。まちの一角で、子どもたちが店長となり、それぞれに好きなお店を出す。その出店者を募集しているという話を聞いたので、ここで「妖怪ウォッチ」を宣伝するお店を開いてみるのはどうかな?と次男に話を持ち掛けてみた。すると、やってみる!と二つ返事。お店を出すことが決まった。
お店の名前は「ようかいウォッチカフェ」。弟と一緒にキャラクターの着ぐるみを着て、ジバニャンが大好きなお菓子のチョコボーを販売し、キャラクターを使ったガチャやパソコンゲームで遊べるお店にした。さらに、おもちゃや漫画も置いて、妖怪ウォッチの楽しさを実感してもらえるようにした。
当日は、こども蚤の市に出店していた子どもたちや、会場の近くに住む子どもたちがふらりと遊びに来てくれて、楽しそうに妖怪ウォッチの世界に触れてくれた。その様子を見て、また機会があったらお店をやってみたいね、と次男は話していた。
◆
今年に入り、少しずつ妖怪ウォッチ十周年の日が近づいてきて、次男の中で、どうやって盛り上げていこうかと策を練る日が続いていた。
そんな中、今度は、国分寺のまちじゅうがステージとなる音楽のおまつり「こくフェス」が行われることになった。
その中で、私が駅に置かれたストリートピアノを弾かせてもらうことになっていて、そこに目を付けた次男から、「妖怪ウォッチの曲を弾いてほしい」とリクエストがあった。
せっかくの機会なので、ピアノにぬいぐるみを飾り、次男と三男はキャラクターの着ぐるみを着て演奏に合わせて踊り、一緒に盛り上げてもらうことにした。駅を行き交う人たちが、音楽と踊りに足を止め、手拍子をして妖怪ウォッチの世界を楽しんでくれた。そして、演奏の最後には、妖怪ウォッチ十周年について、次男と一緒に宣伝をさせてもらった。
◆
いよいよ、今年の七月になり、妖怪ウォッチ十周年の日がやってきた。
公式のYouTubeチャンネルでも、映画が再放送されたり、ゲームでも特別イベントが行われたり、コラボカフェが出店されたりと、様々な十周年企画が動き出し、次男は大喜びで様々な企画を堪能していた。
そこに、近くの小学校で行われる「なつまつり」で、出店者を募集しているというお知らせが届いた。こうなったらやらないわけがない。もはや満を持しての出店である。
この「なつまつり」は、まちの中で実行委員会が組まれており、その小学校だけではなく、まちのいろんな人たちでおまつりをつくり、盛り上げている。そのため、特別支援学級のある隣の学区の小学校に通っている次男も、問題なく出店させてもらえることになった。さらに今回は、三男も自分が大好きなゲーム「にゃんこ大戦争」の十周年を宣伝したいと言い出し、ジバニャンとにゃんこを合わせて、「ジバにゃんこ」というお店にしようということになった。
それぞれのキャラクターを使った射的とパソコンゲームを無料で遊べて、遊んでくれた子には自作の十周年記念シールをプレゼントして、十周年をアピールすることにした。
お店には、二百人を超える子どもたちが遊びに来てくれて、次男のクラスメートの子たちも学区を超えて遊びに来てくれた。来てくれた子の中には、妖怪ウォッチ十周年ということに触れて、「実は今でも好きなんだよね」と言ってくれる子もいた。また、「ぶんぶんウォーク」「こくフェス」とやってきたことを知っていて、「お!今回もやってるな!」と盛り上げに来てくれたまちの方もいて、お店は大盛況となった。
◆
「ぶんぶんウォーク」「こくフェス」「なつまつり」と、三つのおまつりでの宣伝を終えて、次男は「ここまで盛り上がれば、アニメも復活するかも!」と嬉しそうに話している。
自分でお店を出して、大好きな妖怪ウォッチを盛り上げる、ということは、「お店をやって楽しい」ということを超えて、自分が社会に対して何か働きかけることができる、という感覚を得る機会になったのではないだろうか。
まちの中で自分の「好き」を表現する機会を持ち、まちのおまつりを一緒に作っていく側を体験するということは、自分と社会のつながりを感じる機会として、これからも、次男の中に根付いていくのだろうと思っている。
▼ 雑誌『社会教育』
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?