本屋大賞ノミネート『自転しながら公転する』〜女性共感度100%〜

2021年本屋大賞ノミネート作品。直木賞受賞作家の山本文緒さん著。
なかなかの長編小説かつ非現実的なシーンは1つも出て来ない。しかし構成の素晴らしさ、そして共感度の高さが相まって、集中して1日で読み切ってしまった。

✏️あらすじ✏️

母親の介護のために東京から実家に戻ってきた都。大型アウトレットモールのアパレルショップで契約社員として働く。モール内の回転寿司で働く貫一と出会い交際を始めるが、中卒である貫一のスペックに将来の不安を感じる。職場では上司とバイト社員の板挟みに会い、両親ともギクシャクした関係が続く。どうすれば幸せになれるのか?都が追い求める本当の幸せとは何なのか?

※ネタバレあります。

📚作品のポイント📚

仕事、恋愛、家族、人間関係、それぞれの問題が絡み合って主人公都の感情がグルグル回っていく。
誰かの一言や、何かの出来事で、人生がプラスに動き出すシーンもある。ただのハッピー小説のようにそれで万事が解決されない点が、本作の特徴であるように思う。

私たちの現実のように、また何かのきっかけで落ち込んだり後戻りする。ただし全く同じ位置には戻れない。

ずっとスパイラル状に回りながら同じ軌道には戻らない「地球の自転、公転」と、主人公の人生がリンクする。(個人的にめちゃくちゃセンスの良いタイトルだと思う)

📚都はどんな人物?📚

・対外的には癖がない性格。
・人並に恋愛経験はあり、友達もいる。
・美人ではないが、可愛らしい見た目。
・誰かを傷つけるような行動はしないが、いざというときに自分を犠牲に出来ない。
・他人と自分の幸せを比較することが多い。

都の感情や行動、とても共感できる。
自分の狡さに自己嫌悪に陥り、他人が幸せそうに見えて嫉妬をする。不幸になるのが怖くてリスクを避ける生き方をしてしまう。
現代に生きる女性にありがちな「選択しきれない負のループ」が表現されているように思う。

📚トリッキーな構成📚

物語は、語り手がベトナム人と結婚して移住するというシーンから始まる。読者はてっきり語り手が都と思い込みながら読み進める。
「ニャンさん」というお金持ちの年下ベトナム人が登場し、都に好意を抱く。「最終的にこの2人が結ばれるのか、、、」そう思いながら読むと最後のエピローグでどんでん返しが待っている。

本作の語り手は3名。都、都の母親、そして都の娘。
エピローグで、ベトナム人と結婚したのは都の娘であることが明らかになる。
ただグルグル回り、読者に落とし所を託す類の小説かと思いきや、しっかりと「オチ」を作ってくれたところが嬉しい。

語り手が3名、しかも母娘三代であることに意味があると思う。30代の都特有のスパイラルのような感情かと思いきや、母も娘もずっと悩んでいる。グルグル回っている。

「自転と公転」は、過去も未来も続くものだと突きつけられる。ただ絶望だけではなく、素敵に回り続けるためのヒントを小説は散りばめてくれてる。


『別にそんなに幸せになろうとしなくていいのよ。』
ラストで都が娘に伝えたこの言葉もヒントの一つだ。

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