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2回目・3回目の胚移植

 不妊治療について書き始めてから「辛い経験を書いてくれて、ありがとう」と言ってもらったり、私より辛い経験をした人が、自分の体験談を話をしてくれたりと、思ってもみなかった周囲の反応があります。自分とは関係ない世界だと思えば何の興味もわかないかもしれない。けれど、この不妊治療は、現在5.5組に1組の夫婦が取り組んでいて、今後保険適用になれば、もっとその割合が増えるかもしれない、決して他人事ではないことです。あなた自身のことではなくては、兄弟、友人、同僚などの話かもしれません。

毎回、長い文章になってしまいますが、少しでも多くの方の知識になったり、社会制度の改善や、周囲への思いやりに繋がってくれたら嬉しいです。さて、今回は2・3回目の移植の話や、当時の私の精神状態、夫婦の在り方についても書いていきます。

2回目の胚移植 

 1回目の胚移植は残念ながら稽留流産。すぐに2度目の移植に取り掛かりました。手順はわかっているので、治療は前回よりも精神的にリラックスして取り組めました。移植当日も、エコー画面を観ながら、卵が入ってくる瞬間に「いらっしゃい。安心して着床していいよ」と心の中で、卵に声をかける余裕も出てきました。

ところが移植二日目から、出血や茶色のおりものが。今回もダメかもしれないという予感がありました。10日後の妊娠判定日。血液検査の結果が出るまでの1時間はとても長く感じます。診察室に案内されるなり医師から「ダメでしたね~」と告げられました。やっぱり・・・。とはいえ、少なからず期待していた気持ちがあったため、やはり落ち込みます。体外(顕微)受精にステップアップしたら、すぐに上手くいくと信じて治療を始めたものの、やはりそう簡単ではありませんでした。


傷つく周囲の心無い言葉


 この頃から、周囲の言葉に敏感になってきました。不妊治療中は、周りの人が良かれと思ってかけてくれる言葉や、ただのお節介による言葉に傷つくことが多い。

夫婦で参加した、ある飲み会の場での言葉の数々。
「女が気持ちよくなると子供ができやすくなる。気持ちよくさせ方が足りないんだ」
「子作りとかじゃなくて、愛あるセックスにおぼれなくちゃダメだ」
「毎日しなきゃダメだ」

お酒の席だから仕方がないかもしれませんが、子供がいる男性は自分は子供を作るのが上手いと言わんばかりに自慢気に上から目線でこんな言葉次々に口にします。

夫は大人になって適当に聞き流していましたが、私はあまりにも失礼な発言に腹が立って、目の前のビールをぶっかけてやろうかと思ったくらいです。この人達に、わざわざ我が家が子供に恵まれない理由や治療について話す価値もない。夫婦の営みのHowTo??そんなレベルの話ではないのだ。やれることは、やるだけやってみて、それでもだめで不妊治療を頑張っているんです。それでも、なかなかうまくいかないんです。

子作りを始めたばかりの若いカップルになら、いくらでもSEXのHowToアドバイスしてあげたらいい。けれど不妊治療中の夫婦には、愛情やSEXのスキルが足りてないと馬鹿にされているようにしか感じない、ただの余計なお世話です。


3度目の移植

 3度目の移植も翌月に続けてトライしました。3度目になると、手順も慣れてきて、怖さや緊張もなければ、傷つきたくないから期待もしなくなってきます。ただの作業に近い感覚で移植しました。

その日の夜、夫が友人を自宅に招きたいと相談してきました。普段なら「どうぞ~」と二つ返事でおもてなしするのですが、よくよく話を聞くと、一人は子連れで、もう一人は妊婦というではないですか。この頃から、妊婦や赤ちゃんを見ると、自分が手に入らないものを目の当たりにするようで、辛くなるように。夫の友人とはいえ、正直、子連れと妊婦のおもてなしは気が重い。3度目の移植をしたあとなので精神的にストレスを感じたくないし「よかったら外に食事に行ってくれ」と言ってみたものの、夫は私のそんな気持ちを察することなく「わかった!じゃあ、子連れで行きやすい店ないかな?」と聞いてくる。「そんなの子持ちの友達に聞いてよ!」と少々切れ気味に言ってしまいました。

その会話の後、夫と映画を観たのですが、いつまでこんな感情と戦わなくてはならないのか?不妊治療をもうやめたいという気持ちが高ぶり、涙がぽろぽろ流れてきて、全く映画が観られませんでした。

不妊治療は夫婦で頑張らなくちゃいけないものだと言うけれど、夫婦での精神的な負担の温度差を感じてしまった出来事です。実際に治療で体に負担をかけ、時間を使い、様々な面で消耗するのは女性の場合がほとんどです。だからこそ夫婦でたくさん会話をして、互いを思いやり合わないと乗り越えられないものなのだと思います。


3回目の結果と腺筋症の疑い

3回目の移植は、hcg値から、着床しかけたけどダメだったようです。なぜ上手くいかないのか?不妊治療では、あらゆる方法を試してみて、原因を消去法で探っていかなくてはなりません。初めての移植は妊娠はしたのに、その後、上手くいかない理由としては、軽い腺筋症の疑いがあると診断されました。

子宮腺筋症とは、本来は子宮の内側に位置する子宮内膜組織が、子宮筋の中にできてしまう病気。子宮の壁が厚くなり硬くなることで、着床しにくくなるのだそう。妊娠・出産の経験のない女性に起こりやすいのだとか。子宮の壁の正常数値は13ミリ。23ミリ超えたら子宮線筋症と診断になりますが、その時の私は17ミリ。線筋症と診断されるレベルではないけれど、それが原因で着床の邪魔をしてるかもしれないというのです。

思ってもみませんでしたが、私の場合、治療で長期間に渡り女性ホルモンを投与し続けたことが、子宮環境に悪影響を及ぼしたようです。妊活の為に治療しているのに、その副産物として他の障害が生まれてしまい、またその治療をする羽目に。

このまま移植を続けても線筋症が原因ならば、妊娠の確率は下がるから、受精卵を無駄使いしてしまうことになりかねません。線筋症は生理が来ることで悪化していきます。急がば回れで4ヶ月、生理を停めて、子宮のサイズを戻す治療をしてみましょうか、と提案されました。

4か月・・・

治療を休めばそれだけ私の子宮も卵子も歳をとっていくわけで、4か月も休んでも良いものか?と不安がよぎります。妊娠にはタイムリミットがある。時間は貴重です。

急がば回れ・・・確かにその通りかもしれません。休むことのメリットに目を向けてみることにしました。

これまでの薬漬けの生活とはおさらばして、4ヶ月間は1日2錠の飲み薬のみの治療です。その間の通院は1回でよくて、薬の副作用もないのだそう。薬代も1ヶ月たったの3500円。毎月、何十万円も治療費を使っていたので、出費がしばらくないもの嬉しいポイントです。精神的にも疲れていたので、堂々と治療を休める良いきっかけかもしれません。基礎体温も計らなくていい。ピルのような薬でどちみち妊娠はしなくなるので、夫婦生活もタイミングをとらなくていい。

医師にも「リラックスして好きに過ごしてください。これまでずっと頑張ってきたから、しばらく心も休めてくださいね。」と言われて、これまで張り詰めて治療していた緊張の糸がほどけて、泣きそうになりました。

不妊治療は一ヶ月のスケジュールが決まっていて通院も多いので、もし妊娠していたら?と思うと、翌月の旅行の予定も立てられないし、先の仕事も受けられません。

そうか、逆に考えれば、4ヶ月は自由にしていいんだ!

4ヶ月、気持ちも体もリセットしよう!と決めました。


余談ですが、その日の夜は安室奈美恵さんのラストライブでした。青春そのものだった安室ちゃん引退の寂しさに加えて、「Get Myself Back」の歌詞にそれまでの治療の辛さが重なってしまい、ボロボロ泣きました。プロ意識の塊のような彼女の姿勢と生き方や強さに、私もまだまだ頑張らなくちゃ!と励まされ、救われた気がした夜でした。

もう一つ余談ですが・・・。
当時、深田恭子さん主演で不妊治療をテーマにしたドラマ「隣の家族は青く見える」が放送されていました。

妊娠した妹の赤ちゃんの胎動を確認して家族が喜ぶ中、「自分だけが喜べなくて、そんな自分が嫌な人間になっていく気がする」と落ち込むシーンや、体外受精で妊娠したものの流産してしまうというシーン。私と全く同じだなぁ~。本当に辛いよね~と、感情移入しまくって涙が止まりませんでした。

夫に「あなたをパパにしてあげたかった」と手紙を残して家を出るシーンがあったのですが、その気持ちもよくわかる。自分がママになりたい、という思いだけだったら、とっくに不妊治療なんて辛い事やめている。ママになりたいという思いよりも、治療の辛さの方が上回ってくるのです。

イラっとすることもあるけれど、優しい夫を見ていると「この人を父親にしてあげたい。義理の両親も喜ばせてあげたい」って思うんです。だから、本当にギリギリの所で、辛くても頑張れるのだと思います。

これから不妊治療に取り組む可能性のある世の中の男性には胸に刻んでおいて欲しい事。例え不妊原因が男性側だったとしても(原因の半数近くは男性不妊です)、実際に辛い治療を行うのは、女性なのです。妻を支える、癒す、労わるのは夫の仕事で、夫しかできないこと。不妊治療は夫婦で頑張る意識がないとダメなのだと思います。



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