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【イマジナリークイズ】

『高校生クイズ、今年から二人一組に。個人出場も可能となった。』
ニュースサイトの通知を見て、僕はすぐに充希に連絡した。
「高校生クイズ、二人一組だって!僕たち、出れるよ!」
と送ると、
「ああ、エントリーが始まったら、すぐにエントリーしよう。」
と返事が返ってきた。
「ついに莉緒と高校生クイズに出れるのか、楽しみだな。」
と充希からチャットが来て、心が暖まる。僕の夢が叶い始めた合図だった。
従来高校生クイズは、三人一組だった。僕の学校にはクイズ研究会がなく、しかも知り合いにクイズが趣味の人がいない。(そもそも、僕は充希しか、充希には僕しか友達と呼べる人がいないのだが。)そのため、高校一年生のときは高校生クイズに出ることを断念していた。二年生になった今、チャンスがやってきたのだ。
少しでも良い成績を残そうと、僕たちはクイズの勉強漬けの日々を送っていた。
僕は、学校の成績を保つためにも、少し睡眠時間を削って、5時起きが習慣になっていた。
スマホのアラームで目を覚まし、いつも通りクイズの勉強をしようとした。
「ボクたちは、君のオトモダチだよ!」
そんな声をする方へ目を向けると、そこには、二人の人間が立っていた。
「ボクはリキ!」「ワタシはマオ。」
「ボクたちは、キミの夢を叶えるためにやってきたんだ!キミの願いはなぁに?」
なんだ、この人たちは。不法侵入じゃん。そう思ったけど、穏便に済ませたくて、適当に思いついた、
「高校生クイズで結果を残したい。」
そんな願いを言った。
「へぇ~そんな願いなのね。ワタシたちが叶えるわ。」
なんだ?これは夢か?こいつらは妖精の類か?今から魔法でもかけられるのか?なんて思ったが、
「今から、勉強に付き合ってあげる!」
とリキと自称した人間が言った。
魔法じゃないのかよ。こいつらは、妖精でもなんでもない、人間なのか。
見た目は二人とも中性的で、性別がどちらかわからない。口調や一人称で判断するのは、イマドキ賢い人のすることじゃないが、そんなことはどうでもいい。とりあえず、こいつらに勉強に付き合ってもらおう。
あれから、僕はメキメキと実力を伸ばした。クイズアプリも、今まで到達できなかったランクまで行った。
リキとマオが対戦相手になってくれたり、問読みをしてくれたりと、ずっと練習に付き合ってくれたからだ。
今日は充希と二人でクイズアプリで対戦する日だった。
僕は正解を重ね、圧勝した。
「なんか、莉緒、めっちゃ強くなったじゃん、なんかあったの?」
あの妖精もどきの人間たちのことなんて言えるわけがなく、
「何も、ちょっと勉強時間を増やしただけかな。」
とだけ答えた。
「ふーん…」
そう返答した充希が不服そうな顔をしていることは、クイズに勝った快感のせいでわからなかった。

あれから、リキとマオは学校にも出没し、昼休みにもクイズの勉強に付き合ってくれた。
「この問題、出るんじゃない?」
「この問題はここが確定ポイントになるはずだわ。」
勉強を重ねていたら、リキとマオもクイズに詳しくなっていた。
今日も家でクイズの勉強をしていたら、充希から連絡が来た。
「お前、最近変だよ。なんかあったの?」
変?そんなこと、ないと思うけどなぁ…。
「なんでそんなこと言うの?」
と送ると、
「だって、昼休み、誰もいないのに話してるって周りから言われているんだぞ。俺はお前と違うクラスだから、本当かわからないけどさ。」
「え、もしかして、見えてないの?」
「は?見えるってなんだよ。」
やってしまった。そうなのか、リキとマオは、僕にしか見えないのかもしれない。
それなら、尚更この二人の存在は言えなかった。
「あとさ、最近お前、めっちゃクイズ強くなったのに、何も俺に勉強法教えてくれないよな。絶対時間を増やしただけじゃないだろ。俺とお前は一緒に強くなるんじゃなかったのかよ。正直、最近お前を信じられないわ。きっと新しいクイズ仲間ができて、俺を捨てるつもりなんだろ。もういいわ。」
「うそ、ちょっと待ってよ!」
「いいよ。俺も新しいクイズ仲間を見つけたんだ。そいつと出ろよ。俺は結愛と出るか、個人で出るから。」
「え、結愛って誰。」
「同じクラスの子だよ。俺が昼休みにクイズ本を読んでいたら、声をかけてくれてさ。仲良くなれそうだし、もし出るならお前じゃなくて、そいつと出るか、個人で出るわ。もう、お前とはやっていけない。」
「なんでよ、一緒に出ようって決めたじゃん。」
「もういい、何を言っても通じないわ。」
それから、僕は返信することができなかった。
終わった。唯一の仲間である充希を失った。
お前らのせいだとリキとマオを責めようとしたが、あの二人はいなくなっていた。最近はいつも僕の前に現れていたと言うのに。
もうだめだ。

目が覚めた。目が覚めた?
これは夢だったのか。夢だと気づき、安堵する。
試しにクイズアプリを開き、プレイしていく。
今までとは違う感覚がした。いつもより押せる問題の幅が格段に広まっているのだ。
夢ではなかったのか。でも、リキとマオは見当たらない。
そのまま学校に行ったが、しばらく経っても、リキとマオは見当たらなかった。
もしかしたら、消えたのかもしれない。
やっぱり、夢だったのだ。僕だけにしか見えない、妖精のような存在なんて、いるわけがない。
家に帰り、チャットアプリを確認する。
充希から、チャットが来ていた。
「今日、新しいクイズ仲間ができた。結愛って言うんだけど…。」
あれ?
どこからが夢で、どこからが現実なんだろう。
このままじゃ、また充希と疎遠になるのかもしれない。疎遠にならなくても、結愛に一番の仲間という立場を奪われるかもしれない。
そんなの嫌だ。
嫌だ。
嫌だ。
あの夢を現実にしたくない。

気がついたら、僕はクイズアプリを開き、クイズをしていた。
あぁ、僕にはクイズが不可欠なんだ。
気づいたら、涙を流していた。
「やっぱり、チームで出るのはやめよう。個人で出よう。なんなら、その結愛ってやつと出て。」
「なんで?なんでそんなこと言うんだよ。」
「なにも聞かないで、受け入れてほしい。」
これでいいんだ。
僕はあの夢で経験した全てが、現実になるのが怖いのだ。
だから、その元凶を全て断ち切ることにしたのだ。
そこから、チャットアプリを閉じ、クイズアプリを開いた。通知は全て無視した。うっとうしくなって通知を消した。
もはや、クイズがかけた呪いなのかもしれない。でも、自分はクイズから離れられないと気づいた。
気づいたら、涙は、全てを受け入れたような笑みに変わっていた。


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