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Binary Data,Vol.2

音楽の「アルペジオ」が好きだ。

いきなり脱線するが高校生の頃「アルハンブラ宮殿の思い出」という曲に憧れてギターを一時期習っていた。しかしいきなりあんな高度な曲が弾けるわけもなく先生が与えてくれたバッハの面白くない練習曲をひたすら練習していたらギターが嫌いになって辞めた。

あれは正確には「アルペジオ」ではなく「トレモロ」という奏法で同じ音を細かく爪弾くもの。「アルペジオ」は和音を上からもしくは下から順番にズラして弾くもの。興味の対象はいつしか「アルペジオ」の方へと変わっていく。

これまでにアルペジオが多用された幾つもの素敵な曲に出逢ってきたが、去年Alfonso Pedutoという鬼才に出逢ってアルペジオ熱が加速した。

彼は実際に手弾きで奏でつつ、ディレイという技術を駆使して弾いたパッセージを繰り返しやまびこのように流しながらその上に新たなメロディを重ねていくという荒技を特徴としていて、穏やかなディレイはOlafur Arnaldsなどで耳馴染みの深いものではあったがAlfonsoの超絶速弾きテクニックにディレイが足されると脳がトランス状態に陥り確かに音楽を聴いているのに何を聴いているのか分からなくなる。秋の虫の大合唱にも似ていて何とも言えない郷愁感をも感じ取ることができる。不思議なことにその郷愁感は寂しい方に向いておらず生きる活力を与えてくれる。

そんな彼が新譜を出した。またしても分解された和音がまるでクラスター爆弾の如く耳の中に突き刺さり破裂するような曲が並ぶ。非常に攻撃的なニュアンスとは裏腹にアルバムを通して聴いていると喧騒の向こうに静寂が現れる。


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