笑っている周りの人間にも非はある

まずはこんな感じの漫画、もしくはアニメや小説があったと仮定してみよう。


目黒ジェームスという名前のハーフの陸上選手がいた。

その日、彼は新春マラソンで自己記録を更新して優勝したのだった。

「頑張ったね、ジェームス」

息を切らしている彼の所にスポーツドリンクを持ったマネージャーの雪野桜子が声をかける。

「ありがとう、雪野さん。俺、日本代表になれるかな?」
目黒は聞いた。

「日本代表で満足しちゃっていいの?どうせなら国際大会優勝まで目指しちゃおうよ」
雪野は笑いながら言った。

その時、目黒の取材をしようと相沢円香という記者がやって来た。

相沢は目黒にこう声をかけた。

「優勝おめでとう、目黒君。おっと、名前とは裏腹に青い目だったわね。外人さんみたいで格好良いよ」

相沢自身は軽いジョークのつもりでそう言ったのだった。

雪野は咄嗟に作り笑顔を浮かべる。

目黒は青ざめた顔で相沢を睨んだ。

目黒の母はアメリカ人で、彼は相沢が言うように母譲りの青い目をしていた。

彼の青い目は数奇の目で見られることも多く、それが原因で彼は幼少期から周りの人間と馴染めず、いじめに遭うことも少なくなかった。

このため、彼は親しい間柄でもない人には自分の目の色について触れて欲しくなかったのだ。

「あ、否。悪い意味じゃないからね。ジョークジョーク。……ほら、周りと違うからって気にすることなんてないよ」

相沢は彼女なりに目黒のことをフォローしたつもりだったのだが、それがいけなかった。

相沢の前につかつかと歩み寄ったのは目黒……ではなくマネージャーの雪野だった。

ガンッ!

雪野は相沢の顔にめり込むくらいの強力な拳骨を繰り出した。

「彼の目のことをどうこう言わないで!この……(聞くに堪えない悪口)……!」
雪野は怒りに任せてそう言った。

どうにか起き上がった相沢の顔は極端に凹んでしまっていた。

「前が見えねェ」


こういった創作物を見て皆さんはどう思われただろうか?

……つい笑ってしまったという方は恐らくいるだろう。

特に最後の相沢の台詞は国民的ギャグ漫画である『クレヨンしんちゃん』の名台詞(迷台詞?)だから思わず笑ってしまう人がいてもおかしくはないと僕は思っている。

こういった創作物内の台詞を見てつい笑ってしまうのは決して悪いことではないし、読者の皆さんに腹筋崩壊するくらい笑って頂いた方が作者も嬉しいと思うのではないだろうか?

……だけどこれが漫画やアニメや小説のような創作物ではなく、実際に起こったことだとしたらどうだろうか?

相沢の「名前とは裏腹に青い目だったわね。外人さんみたいで格好良いよ」を近くで聞いていて笑ってしまったら、目黒はどう思うだろうか?

それに雪野が相沢をボコボコにする所を見て笑ってしまったら、暴行の現場を見て笑ったことになってしまうだろう。

相沢に悪気がなくても発言内容が差別や侮辱に当たるもので、それによって目黒が傷ついているのなら、周りに居る人間は笑ったりしないように気をつけた方がいいだろう。

雪野が目黒のことを大切に思っていて相沢に激怒してしまったことは仕方ないにしても有形暴力や暴言を表に出すのはNGなのだから、それを笑ってしまうのもNGだ。(出来れば止める等の対応をすることが望ましいのではないだろうか?)

差別や侮辱はあってはならないことだし、誰かに対する差別や侮辱対して暴行で応酬してしまうのもあってはならないことだ。

それは社会全体の共通認識でなくてはならない。

だから僕は相沢のジョークのつもりでの差別発言や雪野の暴行が創作物ではなく現実世界で起きた場合は、それを見て笑っている周りの人間にも非はあると考えるようにしたい。

ちなみに皆さんはどう思われるだろうか?

……え?例として出した創作物は笑えない内容だったって?

……失礼しました(汗)

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