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完全社会

女性「あっ、あの男がかぶっているのは目出し帽じゃないの!肉眼を露出しているわ!私達を性的消費するつもりよ!」
性的消費が厳罰化された未来。着衣で完全防御であろうと、人体の輪郭が分かる衣服を眺めることは性的消費である。
外出には頭を漆黒のスキンで完全に覆って視聴覚を無効にし、イヤホンでAIがセンサー分析した情報を聞き行動する。公共の道路上において同意なく、肉眼、カメラ越しに関わらず人間を見ること、異性の肉声を聞くことは実刑罪である。

女性「AI!視姦の現行犯、警察にホットラインをつなぎなさい!」
AI「接続中・・・接続しました。男性警官が担当になりましたので、AIにより代理発声します・・・こちら警察です。視姦の現行犯と言うことですが、詳細を」
女性「信じられないです、向こうから歩いてくる男性が、目出し帽の隙間から肉眼を陳列しています!」
AI「了解しました、急行しますので男性を引き止めるなどして、マークしてください」
女性「えっ?そんなことを言われても、知らない人です、か弱い女性の私がどうやってそんな大た・・・」
AI「担当者が退席し、接続が終了しました。警察の到着まで指示に従ってください」
女性「何よそれぇ!だから男ってやだわ。仕方ないわ、AI!引き止める方法を教えて」
AI「警察の指示に従ってください」
女性「は?回線切れてるんだけど?」
AI「警察担当者からの指示です。引き止めるなどしてマークしてください」
女性「分かったわよ、じゃあ、なにか声をかけて・・・いや、待って・・・目出し帽なんて被っているなら、耳だって肉声が聞こえているかも知れないじゃない!分かってて声をかけたら、性的消費に同意したことになっちゃう!」
AI「警察担当者からの指示です」
女性「じゃあどうするの!使えないAI!・・・あ!警察の指示!そう、そうね!警察の指示なら声くらい聞かれても、正当な現行犯逮捕よね」
AI「声かけで引き止めるのですね。提案します。逮捕することをそのまま伝えた場合、逃走する恐れが高くなります。男性を誘惑してください」
女性「・・・え、なんでよ、そんな・・・」
AI「誘惑してください」
女性「無理!」
AI「では、他の方法を考えてください。すれ違うまで4秒です」

女性「うっ、え、ええっと、ええい!ねえちょっとそこのいかしたお兄さん私と遊ばない?」

男性のAI「緊急事態発生!娼婦の呼び込みに酷似したキーワード音声が近辺で発生しました」
男性「AI、通報して」
女性「はあっ!?私じゃなくて、通報されるのは目出し帽のあなたなんですけど!」
男性「ああ、やっぱり。お前、見えてるな」
女性「え、いや、なんで!ちゃんとスキン被っているのが見えないの!・・・ハッ!?」
男性「性露出トラブル回避のために、AIが説明する異性の容姿は定形の内容になった。スキンがなくてもスキン着用しています、とね。あえて退化させたAI越しの認識によって、容姿の不自由が開放されたんだ。知覚さえされなければ、騒ぎ出す人はいなくなる。それがAIのバージョンアップされた最新の社会だ」
女性「え、意味がよくわからない・・・」
男性「私はおとり捜査官だよ。この目出し帽から出している目はラバーマスクの作り物だ。だがお前の目の周囲のスキンは、透過式の偽装かな?お前のような盗み見犯がネットに張り付いていたほんの数時間のうちに、この地域は秘密裏にアップデートされた。そういうことで、お前を現行犯逮捕する」
女性「はあぁ〜!?」
AI「では、私も正体を明かしましょう。あなたのAIは既に警察の風紀対策班の管制下です。冤罪の痴漢を突き出した際の異常興奮を検知し、警察に従うようリプログラミングしてもらうことを、半年前に受諾しました。ちなみに通報先の警察担当者は、私の一人芝居です」

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