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一 子供の頃の私は、嘘つきな子でした。どうでもいいような嘘を幾つもついて、そし…
ある時、私は風邪で高熱を出して、なかなか熱が引かずに、ひとりでぐったりと寝込んでいた。…
新宿三丁目と歌舞伎町を隔てる靖国通りの、イチョウ並木。並木と言っていいのだろうか。ずら…
ゆったりと、波さえ立てず流れる川沿いに、桜の木々が立ち並んでいる。 毎春、儚く美しい…
ただ、酒を飲む。飲んで酔うほど、また煽る。小さな場末のバーで口火を切り、そこで満足すれ…
私は甘えているのだろうか。自分に甘いのだろうか。きっと、そうなのだろう。芯からの辛さや…
死に支度をしようと思う。人間など、いつ何が起きて死んでしまうか分からないのだから、いつそうなってもいいように、備えておかなければならぬ。 身の回りのものは、定期的に整理している。あとは、遺書だ。私には、書き残しておきたいことが、一つある。どうにも変なところを気にすると思われるかもしれないが、書いておこう。 私は自分が死んだあと、残った者たちに「可哀想」と思われたくないのである(老齢なれば、そうも思われまいが)。「可哀想にねえ」などと言われ、まして涙を流されているところ
私は五月に生まれた。 実家のすぐ近くにある公園には小さな藤棚があり、毎年その時期にな…
ヒヨドリが、鳴いている。「キィーッ、キィーッ」と、少ししわがれたような、するどい声だ。…
人を蝕む鬼がいる。どんな人にも鬼は住む。鬼は、人の心の弱いところに巣喰って、今か今かと…