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日本人にはよくわからない中国人の「面子」

前回は日本人の行動原理を説明するキーワードとして「世間様」と「村八分」について書きましたので、今回は逆に中国人の行動原理の一つである「面子」について私なりの考えを述べてみたいと思います。

私が中国で日系企業のお客様相手に現地人社員の育成のお手伝いをしていたころ、よく日本人駐在員の方から現地の中国人社員に対する以下のような不満を聞かされました。

・報告連絡相談をせずに自分勝手に仕事を進める
・とにかく自己中心で、周囲の人に配慮しない
・ミスをしても謝罪せずに、言い訳ばかりする
・やたら自己主張が激しく、協調性がない

しかし、「叱ると相手の面子を潰すので叱れない」という数多く声があり、どうすれば相手の面子を潰さずに注意できるかが皆さんの悩みでした。

このとき、多くの日本人は中国人の「面子」とは「プライド・自尊心・アイデンティティ」のようなものとして認識していましたが、実際に中国人と接すると単なるプライドや自尊心を超えたもっと根深いものがあったため、日本人としてはどう対応すればよいか迷っていました。

「面子が潰れる」とどうなるのか

個人的な話で恐縮ですが、私の両親はともに中国本土の出身であるものの、1949年の中華人民共和国成立前には中国本土を離れて台湾に移ったため、伝統的な中国人の価値観をそのまま持っていました。

小さい頃から今日まで両親に「そんなことをしたら面子が無くなる」と叱られたことが何度もあり、意味はよくわからないまま何となく「面子」って大事なんだという認識で大人になりました。

今になって両親に注意された「面子をなくす行為」って何だろうと考えると、次のようなものであることに気づきました。

・他人から「この人はケチ臭いやつ」と思われる行動
 (例:贈り物をもらってもお返しをしない)
・他人から「この人は育ちが悪い」と思われる行動
 (例:マナーがなっていない)
・他人から「この人は信頼するに足らない」と思われる行動
 (例:恩をあだで返すようなこと)

そこで、「面子」とは自分のプライドや自尊心というよりも、他人からどう値踏みされているのかであり、「面子を保つ」ということは、「あの人は付き合う価値がある人だ」、「あの人は尊敬に値する人だ」と他人に思われることと言えます。

逆に「面子を潰す」行為とは相手の評判を下げる行為であり、他人から「価値がない」と値踏みをされてしまうとその後の人生に大きな影響が出てしまいます。

一つの例を紹介しますと、ある企業では現地法人を中国人のマネジャーに任せていましたが、現地法人の業績が伸び悩んでいたため、日本の本社からテコ入れのために日本人の上役が派遣されました。

ここまではよかったのですが、この上役が中国人マネジャーを飛び越えて直接現地の中国人スタッフに色々指示を出してしまったため、激怒した中国人マネジャーがその場で「辞めてやる」と言い出してしまいました。

このときの中国人マネジャーは「面子を潰された」と思ったから激怒したのですが、その根底には「こんなことをされると、オレは部下から“この人は本社に信用されていない”と思われてしまうのではないか!」という思いがあり、自分が部下から「無能な上司」と値踏みされることでその後の仕事に大きな影響が出てしまうのが理由でした。

ここまでの話を整理すると、日本人の認識は「面子が潰れる」=「本人の自尊心が傷つく」という程度でしたが、中国人にとっては「面子が潰れる」のは今後の人生に大きな実害をもたらすことになるため、日本人がびっくりするような過激な反応になってしまいます。

冒頭の例にしても、現地社員としては以下のような考えがあるから日本人駐在員がイラつく行動を取るのであり、そこを頭ごなしに否定してしまうと「面子が潰れる」ことになってしまいます。

・報告連絡相談をせずに自分勝手に仕事を進める
 ⇒他の人から「この人は一人で仕事を進められる人」と値踏みされたい

・とにかく自己中心で、周囲の人に配慮しない
 ⇒他の人から「この人はリーダーシップがある人」と値踏みされたい

・ミスをしても謝罪せずに、言い訳ばかりする
 ⇒他の人から「この人は安易なミスをする能無し」と値踏みされたくない

・やたら自己主張が激しく、協調性がない
 ⇒他の人から「人の下で働くしかできない小物」と値踏みされたくない

なぜ他人からの値踏みが重要なのか

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これは個人的な考えですが、日本人が「世間様」に逆らえないのは、日本は国土が狭いうえに山や川で地域が分断されており、「逆らったら逃げるところがない」ということもあると思います。

一方で中国は国土が広く、いざとなればいくらでも逃げるところはあるため、ある村に居られなくなったらそれこそ何千キロでも逃げればいいのです。しかし、逃げるとなると頼れるのは自分とその家族だけであり、生き残るためには他人を利用することも求められます。
そのため、他人から「こいつは取るに足らないやつだ」と思われると致命的になるため、できる限り「この人を助けると後々いいことがある」と思われる必要があります。

多くは打算的な関係ですが、長い目で見た時にやはり義理堅い人が最後は生き残るため、相手が打算で近づいてきても自分からは裏切らない(自分の面子を潰さない)というのが大切な教えだったりします。(もちろんそこまで考えていない人も多いのですが)

このように、中国人にとっての「面子」とは自分視点で内面的なものというより、他者視点でより実利的なものであると言えます。

今回もお読みいただきありがとうございました。少しでもご参考になれば大変幸いです。

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