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「お客様を待たせたくない」という気持ちが食中毒を引き起こす

守るべきルールを現場で徹底させることは企業にとって大変重要なことです。もしルールが蔑ろになってしまうと、最悪の場合は企業の存亡に関わる大事故や不祥事につながる恐れがあります。

例えば、私が以前勤めていたマクドナルドのような飲食業界には「正しい手順で手を洗う」というルールがあり、特に食材に触れる前は必ず手を洗うのが鉄則です。

このルールを守ることは一見簡単そうに見えますが、現場の実情はそうではありません。

ここで、私が身をもって体験したことを紹介したいと思います。

今から20年以上前、都心のオフィス街の店で勤務していたある日のことです。その日は本来私とアルバイト2名の計3名で早朝の営業を行う予定でしたが、よりによってアルバイトが2名とも寝坊してしまい、私一人で店を開けることになってしまいました。

通常なら早朝はお客様の数も少ないので、カウンターで注文を受けてから自分で厨房に入って商品を作ればよかったのですが、運が悪いことにその日に限って早朝から多くのお客様が来店し、カウンターの前は長蛇の列になりました。(本来はカウンターにももう一人アルバイトがいるはずです)

自分一人しかいないため注文を受けても厨房に入って作るわけにもいかず、まずは並んでいるお客様の注文を一通り受け、カウンターの前でお待ちいただくことにしましたが、オフィス街のお客様は急いでいる方が多いため、お客様が待ちきれずにイライラし始め、しまいには「早くしろ!」と怒られました。

さて、ここから急いで厨房に入って商品を作りたいのですが、私の手はお金を触っているため、ルールに従えば30秒間丁寧に手を洗う必要があります。しかし、目の前には待たされて怒っているお客様がたくさんいらっしゃいます。

しかも、手洗い場はカウンターの真横にあり、もし私がルール通りに30秒間ゆっくり手を洗えばお客様を更に怒らせてしまう可能性があります

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このときは私も悩みました。ルール上は「30秒間手を洗う」ことですが、そんな悠長なことを言っていられないのでアルコールで消毒だけしてすぐに調理に入ろうという誘惑に一瞬駆られました。

しかし、腹をくくって30秒間手を洗うことにしました。お客様の視線が突き刺さりましたが、とにかくルール通りに手を洗ってから調理に入りました。

この件を通じて思ったのが、「自分ですら悩むのだから、アルバイトが同じ場面に遭遇したら手を洗わないかもしれない」ということです。

そこで、私はファストフード店の店長にあるまじきことをアルバイトに言いました。

「お客様を待たせてもいい、手洗いは必ずルール通りにやるように」

速さを売りにするファストフード店にとってお客様を待たせるのは最大の悪ですが、それ以上に食中毒が起きてしまったら取り返しがつかないので、アルバイトが迷わないように優先順位をはっきりつけました。

この話をすると、実際にマニュアルに定められたルールよりも「お客様を待たせない」ことを最優先に考えているアルバイトがいることがわかりました。これはこれで悪いことではなく、ある意味お客様のことを真面目に考えたから出てきた判断ですので、そのアルバイトを責めるわけにはいきません。

しかし、「大事なもの」が同時にいくつも存在すると、いざという時に不適切な判断を下す可能性があるため、やはり「捨てるもの」「守るもの」の線引きをしてあげる必要はあると思います。

企業の不祥事などを見ると、たまに最初から悪意を持った人が引き起こすこともありますが、多くの場合は真面目で責任感が強い人が目の前の人の要望に応えようとする、もしくは目の前の問題を片付けようとすることばかりに捉われて不祥事を引き起こすことがわかります。
(例えば、上司から目標達成のプレッシャーをかけられて不正をする人)

だからこそ、いざという時に「安心してルールを守れるよう」明確な基準を示すことが重要だと思います。

今回もお読みいただきありがとうございました。

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