知らない祭り

 音を忍ばせて支度をして、同居人がまだ起きないうちに家を出てきた。
今日は何故だか、街中がジャムのような香水のような、甘い華やかな匂いがする。
こういう日は、街中をどこまで歩いてもそれが続いているのが不思議だ。まるで示し合わせていたかのように。

 あれは2週間前のことだろうか。その日は家を出ると綿毛のようなものが飛んでいた。たんぽぽのよりもずっと大きい綿毛が、ふわふわと舞っていた。
そのときも、綿毛は何百メートル歩いてもずっと、隣町に差し掛かってもずっとだ。
綿毛たちにとってその日が何の日なのか、私にはわからなかったけれど、お祭りのように楽しそうに見えたから、私も楽しくなった。

 曇り空の下のつめたい空気が、こんな甘い香りで満たされている今日は、いったい何の日なのだろうか。
私はちょっとだけわくわくしながら、トラファルガー広場行のバスに乗り込んだ。

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