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【NEWS】90年代陰界の伝説、完結。『クーロンズ・リゾーム』全8巻がWindows・Macにてリリース。『クーロンズ・ゲート』で残された伏線が、30年が経ったいま回収され、終わる。DL販売終了の可能性もあるため、購入はお早めに。

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1997年。香港がイギリスから中国へ返還される年にシンクロニシティを起こすかのようにプレイステーションにてリリースされた『クーロンズ・ゲート』は、デジタルメディアにて九龍城塞の混沌を再現した。

まだ商業媒体のフィールドで3DCGの表現が模索されているなかで、リアルな香港のネオンや土地の汚れをも描き切った本作は、後に現実の都市をモデルにしたオープンワールドやアドベンチャーを先行していたといえるかもしれない。とはいえ発売から30年近くが経ったが、いまだに比肩するタイトルは現れていない。当時のPSで展開されたアートハウス・ビデオゲームとしては異形の存在感を保ち続けている。

後に続くものは洗練したものを見せることはできるが、最初に切り開いたものは真似できないことが多いように、『クーロンズ・ゲート』を追随できたゲームはこの数十年のあいだ現れなかった。

インディーゲームシーンでちらほらと近いものが現れるなかで、今年5月31日についに、『クーロンズ・ゲート』のディレクターが自ら後継作を完成させた。それが『クーロンズ・リゾーム』である。価格は8800円、Windows・Macのダウンロードのみの販売がBoothにてスタートしている

執筆 / 葛西祝

2025年の陰界


舞台は前作の終わりから28年後の2025年。北京の中国調査委員会(China Reseach Board、以下、CRB)は、陰界がふたたび陽界(現実世界)を浸食してこないかの監視を続けていた。

そんな時、CRBの祥冬冬(シュウ・トントン)少校と物理学者の巫雅各(フー・ヤークー)は7月11日に陰界が接近しているのを感知。30年近く前のように、陰界と陽界が交わり、世界の摂理が崩壊することを避けるため、CRBはひとりのエージェントを先行して陰界へと送り込む。


現実世界から遠く切り離されていた陰界では、いまだ九龍城塞は健在であり様々な路人が住み着いている。しかし、1997年の時とは違い、みんなまるでワイヤーフレームのような存在に変わっている。現代のビデオゲームでは『龍が如く』から『GTA』シリーズみたいに街の実在感が当たり前である時代になった流れと反するかのように、本作ではあやふやなサイバースペースのような、あるいはそうではないような異質な空間として九龍城を描いている。

2025年の陰界は、まるでメタバースのような疑似空間みたいだ。その雰囲気を立証するかのように、陰界では「ガルゲイル・オンライン」というMMORPGが流行っている。しかも予想外なことに、そのゲームは陰界が陽界に近づく鍵を握っている。やがてネットワークを通して、陰界と陽界が関係することで起きる不気味な事態に直面してゆく。

物語の行く先には、『クーロンズ・ゲート』で残された謎を解くものがあるのだろうか。あるいは、陰界とはなんだったかを知る糸口が見つかるのだろうか。いずれにせよ、新たなる陰界に入らなければ見えない。

表現形式の変更

『クーロンズ・リゾーム』は前作のプリレンダCG+リアルタイムダンジョンの探索とは違い、プリレンダムービーを組み合わせたノベル形式に変更している。これは一見するとダウングレードしたような感覚はぬぐえないのだが、その分、ディレクターの木村央志氏のテキストや演出を高濃度で体験できるものになったと言える。

『クーロンズ・リゾーム』は昨年2023年に全8巻中、3巻までがBoothにて先行販売していた。今年の初めには陰陽BOX限定特装版を限定販売している。かつての『クーロンズ・ゲート』特装版を思わせる中国語が覆った箱入りのパッケージをリリースしており、(公式Twitterを見る限り、おそらく)木村氏がひとつひとつ手作りで封入したものだ。

すべてのシナリオが揃った今回のリリースでは、全編の演出を大幅なリファインを施しているという。本編の他に、蓜島邦明によるサントラアプリとサウンドスケープWAVや、デジタルのフォトブックも付属される。内容は先行販売された特装版からいくつかの特典を除いたものである。

また、Boothで販売している本編もずっとストアで出展していくわけではないようだ。

公式ストアページでは「コンテンツのダウンロード有効期限は特に定めてはいませんが、ダウンロード版販売終了にともなってコンテンツダウンロードも終了します。 ダウンロード版販売終了時から1ヶ月間はコンテンツダウンロードが可能です。ダウンロード版販売終了時が決まればSNS等でお知らせします」と説明しており、ある期間を過ぎればストアの販売を引き下げる可能性を示唆している。

これがサントラやフォトブックを含めたバージョンを引き下げ、後でゲーム本編のみをストアに出すやり方にするのか、それとも今回の販売だけで切り上げるのかは定かではない。

本作はSteamやSwitchといった人気プラットフォームでのリリースではなく、表舞台からまったく隠れた位置で発表されている。奇しくもいま国内インディーゲームではそもそもの大手商業からの独立し、オルタナティブな価値を体現していくことみたいな単純な話も早々通じないなかで、木村央志氏はいま誰よりもインディペンデントな動きをしている。本人にその意図がないにしても、だ。

それは97年に初めて『クーロンズ・ゲート』が登場したとき、簡単にクリエイティビティを解釈しきれないオルタナティブな印象をプレイヤーに植え付けたのと同じく、木村氏がこうしたリリース方法を選択したことを含め、『クーロンズ・リゾーム』は依然ビデオゲームシーンに対して示唆に富んだものなのである。

本作のより詳しい背景や序盤の内容に関しては、筆者がGame*Sparkにて先行プレイしたレポートを参照してほしい。我々はまたファイアの日に会えるのです……。

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