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英国 PhD 留学記 ②研究かけ出し編

こんにちは。
あっという間に、イギリスに来てから 2 ヶ月半が経ち、PhD プログラムももうすぐ 3 ヶ月目を迎えました。太陽の出る時間が短くなり、いよいよ寒さも厳しい今日この頃です。
この記事では、2 ヶ月半の中で見えてきたイギリス博士課程の研究事情についてざっと書き上げてみました。もちろん研究生活は、大学やラボによりけりですので、過度に一般化することなく、イギリス PhD ってこんな感じなんだ〜と感じていただければ幸いです。


所属ラボについて

筆者が所属しているラボは、イギリス人 PI が率いるラボで、構成員はほぼイギリス人という The British Lab です。聞いた話によると、アジア人 PI だと、同じイギリスでもかなりワーキングスタイルがアジアっぽくなるそうですので、ラボ選びの際にはそういった点も考慮すると良いと思います。また、学生の構成もラボによってかなり異なり、中には中華系が多く集まるラボも見受けられます。筆者のラボに関しては、学生が 5 人(うち PhD 4 人、master が 1 人)、ポスドクが 2 名、プラス PI という感じです。

人数が少ないことと、PI やメンバーの人柄もあり、かなりメンバー同士、仲の良いラボです。PI を交えてカラオケやクイズ、ビリヤードをしたり、ハイキングに行ったりすることもあります。少なくとも筆者の認識では、この PI は業界の中ではかなり著名な先生ですので、普段のお茶目な様子は結構衝撃的でした。

思い通りに実験が進まない博士学生の 1 週間のスケジュール

さて、イギリスの PhD ライフをご紹介とは言ったものの、一体どこから書けば良いのやら•••ということで、まずはここ最近の 1 週間の過ごし方をざっくりまとめてみました。とはいえ、実は、こちらに来てから運がついていないのか、何をしてもあらゆるトラブルに見舞われ、うまく行っておらず、そもそもまともな実験すらできていません。また、ここ最近は、たまたま講義が重なり、本当に博士学生なのか疑わしいスケジュールになってしまいました。長い人生、こういうこともあるということで、一応ご紹介です…が、これは標準的な英国 PhD ライフではないはずなので、ご了承お願いいたします涙

  • 月曜日:月曜午前は研究室内でのセミナーがあります。隔週で、ジャーナルクラブと、進捗報告会が交互に開催されています。今週は、午後に、3 時間のデータ解析の集中特訓(趣味でとっています。筆者の研究費から受講料が落とされています)があったため、それを受け、その後、ラボで細胞の継代と必要な実験を行いました。

  • 火曜日:筆者が所属するラボはコアタイム制ではないので、午前中は家に引きこもって、必修のプログラミングと統計の講義を聞き、課題を行なうことが多いです。午後は適当にラボに行き、必要な実験を行っています。余裕がある場合には、サークルに参加することもあります。

  • 水曜日:午前は、英語の academic writing の講座を取っています。また今週は、必要な実験機器のトレーニングもあったため、そちらも受講しました。午後は、月曜に引き続き 3 時間のデータ解析の集中特訓があったため、そちらを受講しました。夕方からは、ラボで必要な実験を行いました。

  • 木曜日:木曜午前には自分たちの研究室のメンバーだけでなく、他の分野が近い研究室のメンバーと合同で進捗発表会が行われます。午後は実験をしたり、他のラボメンバーと打ち合わせをしたりします。

  • 金曜日:午前中は家で、提出が義務付けられている研究計画書をのんびりと書くことが多いです。午後は、水曜と同じく、 3 時間のデータ解析の集中特訓があったため、そちらを受講しました。夕方からは、ラボで必要な実験と継代を行いました。

  • 土曜日:午前中は部屋の掃除をし、そのままサークルに行きます。午後は、洗濯や料理をしながら、論文を読んだり、研究計画を進めたりしています。

  • 日曜日:必ず週に 1 回は必要な食料の買い出しを行っています。家からスーパーまでが、若干遠いため、まとめて週に 1 回で済ませるようにしています。空いた時間に、友人と近所で遊んでいます。

近い将来、きちんと実験や研究ができるようになれば、またその際に、理想的な博士学生のスケジュールをご紹介します(涙)。

ラボ滞在時間について

上記のスケジュールから読み解くに、ここ最近の私のラボ滞在時間はあまりにも短く、世間からの誤解を得てしまう可能性があるため、筆者が観察できる範囲での人々のワーキングスタイルについてご紹介します。

基本的に、朝は 11 時少し前に大学に来る学生が多いです。筆者の周りには、データ解析を行なっている方が多く、ゴリゴリ実験を進めている方はあまり多くありません。実際、ラボにはほとんど人がいません。昼食(及び昼休み)は、みなさん大体 1 時間くらい取ることが多く、用事がある方は、短めに済ませたり、時間をずらしたりしている様子です。そして、午後はまた、皆さん仕事につかれるわけですが、16 時にはほとんどの人が帰っています。実際、外も真っ暗で、16 時とはいえ、日本でいう 18 時くらいの体感です。こちらで 18 時まで作業をした日には、ラボはすっかり人気がなくなり、「今日はひどい残業をした」という気持ちになります。このままでは、もう一生、日本に帰れる気がしません。。。

もちろん、どれだけラボにいる必要があるか、というのは、実験内容やラボの雰囲気によってもよりけりですので、これはあくまで一例です。ですが、それでもやはり皆さん、進捗を産んでいることから、かなり効率よく働いているのだと思われます。
また筆者に関しては、日本にいた時より明らかに、家で作業をする時間が増えました。ラボに行ったとしても、昼前に帰ることすらあります。必要な実験やディスカッションがある場合以外は、ラボに行きません。他の学生も、同じように大学以外のどこかで作業をしているのかもしれません。

セミナーについて

筆者がこちらの研究室に来て、一番刺激的だと感じたのはやはりセミナーでした。もちろん日本でも、ジャーナルクラブや進捗報告会はあったわけですが、何が衝撃だったかというと、まずはそのスピード感です。
例えば、日本でジャーナルクラブを行なっていたときは、事前に論文が circulate され、全員が読んだ上で(これはラボのスタイルに依存すると思いますが)、発表者が発表を行い、参加者が質問を挙げていくというスタイルが一般的でした。しかし、こちらのラボでは、その場で論文が circulate されるため、なんの事前準備もなしに、各自がツッコミや質問を入れなければなりません。一瞬で論文の意図を汲み取り、critical analysis をする能力が問われているのだと思います。また発表者さえ、なんのスライドも用意していないことが多く、大きなカルチャーショックを受けました。
また、進捗報告に関しても、人数が少ないラボのため、すぐに順番が回ってくるというのもあるのか、非常に手際良く終わっています(一人 1 時間ほど)。発表者が一人で喋っているという時間はあまり長くなく、質疑応答が活発で、その内容も建設的なものが多い印象です。
ただ、やはり会話が速すぎてついていけないことが多々あります。

また、なんといっても、学生の発表のレベルが高いと思うことが多いです(当然ですが、英語が上手いとかそういう話ではなく、構成や質疑応答にそのレベルの高さを感じます)。

研究環境に関して

筆者は、修士まで行なっていた研究分野とかなり近い分野の研究室を選んだため、ものすごく目新しいもの、というものは特にはありませんでした。若干異なるルールや手技をその都度覚え、自分がこれまでに持ち合わせていた知識や経験と組み合わせるというのが、筆者の主にやっていることです。ただ、業界内では有名なラボで、先輩方を間近でみながら働くことができるのは恵まれているなぁと日々、痛感しています。分野が近いことを選んだことに関しては、自分でも保守的すぎると思いますし、学生のうちは広く経験した方がその先の就職を考えた時にも良いかと思いますが、実験手技の取得だけが留学の目的ではないため、その他の点に集中するようにしています。

ラボは、欧米あるあるの複数の研究室で共有する形ですが、今のところ特にメリットもデメリットも感じていません。ただ日本と比べると、粗雑だなぁと思ってしまう点も多々あります。例えば、秤りを使った後、誰も溢れた粉を拭かない、だとか、エタノールを使おうと思ってもスプレーが空のまま放置されていて使えない、とか、やく匙が一つしかなく、毎回洗わなければいけない、とか、薬包紙?トレー?を違う試薬で使い回ししたりしている、とか、オートクレーブテープを誰も発注しないため、在庫がなく、オートクレーブできたのか証明ができない、とか。また、こちらでは洗い物は基本的にテクニシャンの方が行なってくださるのですが、そもそも誰も洗い場に洗い物を持っていかないため、使いたい時にメスシリンダーや瓶がないとか。ええ、かなりイライラしています。なぜ次に使う人への気遣いができないのか。なぜ与えられた仕事ができないのか。思い出すだけで、いくらでも愚痴が言えてしまいそうです。こういう点では、日本のラボを超えるラボは世界中にないんじゃないかと思うほどです。

また、ありとあらゆることに時間がかかるのも事実で、日本だったら 1 晩でできていたことが 3 日はかかります。日本では起こり得ないような問題も多々起きて、その度に日本が恋しくなります涙

PI とのコミュニケーションについて

これに関しては、一般論というのものはなく、各個人間に依存する、としか言えないのですが、筆者は今の PI を選んで良かったなぁとつくづく思っています。このあたりは、長くなりそうなので、また別の機会に。

さてPI とのコミュニケーションにおいて、特にありがたいと思うのは、Google Calendar をシェアしてくださるため、いつ時間が空いていて、いつ空いていないのか、というのが一目瞭然なところです。疑問があった時には、スケジュールを確認して、PI のところに行くことができるため、非常に助かります。

またイギリスの PhD では、月に一度は PI との面談を行わなければビザが停止されてしまうというような決まりもあるため(大学によるかもしれません)、大学全体として、学生に不利益が出ないよう制度が整えられていると感じます。

講義に関して

さて、筆者のここ最近のスケジュールの中でかなりの比率を占めていたのが、講義です。必修のものは、プログラミングと統計だけですので、本来、講義というのは博士学生にとってそこまで大きな負担とはなり得ないと思いますが、これらの講義は、筆者が自ら好んで、時には研究費から受講料を捻出して受講しているものです。
振り返ってみるに、日本の博士課程では、「研究成果を出すこと」が至上命題であったように感じます。一つでも多くのデータをとり、少しでも早く論文を出す。それが、求められていた像(少なくとも私が知る限り)でした。
ですが、イギリスでは PhD に求められているものが、日本とは若干違うようで、実際、筆者が通う大学では、PhD の学生に求められるものとして、「研究だけでない、個人の能力の向上」というものが挙げられています。その中には、インターンや社会貢献活動、academic writing やデータ解析の講義などなど、あらゆる活動が含まれます。これは社会全体で PhD に対する意味づけが違うから、ということなのでしょうが、イギリスでは、PhD の後の就職を見据えているのだと思います(PhD をとったからといってアカデミアを目指している人はむしろ多くない印象です)。
というわけで、興味のある講義を取ることに、PI も特に難色を示すことなく賛同してくださったため、これらの講義をとっている次第です。

サークルについて

PhD 学生なのに課外活動!?と思われた方もいらっしゃるかもしれません。実際、筆者も、意識のある時間は、いや、意識がない間も、研究に専念することこそが博士学生の理想像であり、研究者のあるべき姿だと思っていました。
しかし、それでも筆者がサークルに参加するようになったのは、PI から課外活動に参加することを強く勧められ、また、実際問題、ラボ以外のコミュニティがこちらで何もないことに不安を覚えたためです。加えて、尊敬すべき PI をはじめ、周りを見ていても、オンオフの切り分けが上手い方が多く、自分の人生や研究に対する姿勢についても改めて考えさせられているところです。

また、これは当たり前のことかもしれませんが、どんな道を選ぶとしても一番大切なのは心と体の健康です。サークル活動以外に、イギリスに来て大きく変わったことの一つが食事です。日本にいた頃は、少しでも時間を節約したいがために、コンビニで軽食を買って、歩きながら昼食を取って、夜は外食で済ませる、というスタイルを取っていた筆者ですが、こちらに来て、そうすることもできなくなり、自炊をせざるを得なくなりました。そのような中で、自分が毎日何を食べているのか初めて考えるようになり、改めて、多少時間をとってでも、健康を維持したり、健康に近づくことのできる行動を取ることが、生き残っていく上では大切なのだと理解するようになりました。

最後に

まだまだひよっこ PhD のくせに何を語っているんだ、という感じですが、本記事では、ひよっこなりに、リアルな PhD ライフを綴ってみました。全ての観点で期待通り、という理想郷は、この世界のどこを探してもきっと見つからないのだと思います。それでも、筆者は留学を選んで良かったと思っていますし、今が本当に幸せです。
とはいえ、あまりに研究が進んでいないのは流石に笑えなく、そろそろ焦りも出てきてしまっています。クリスマスは大学がしまってしまうため、もう今年中にできることはほとんどありません涙。
幸運は来年に期待することにしましょう。



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