「シリアからの叫び」ジャニーン・ディ・ジョヴァンニ著/古屋美登里訳

数時間前までの当たり前が簡単に失われていく世界。
日常という言葉のさす世界があっという間に塗り替えられて、砲弾の音や血を流して倒れている人がすぐ隣に在る、今この瞬間まで笑いあっていた大事な人が目の前からいなくなることが当たり前になっていく世界。
どれだけの幸運が重なって、いまのわたしのしあわせが在るのか。そう考えると居たたまれない気持ちになります。
しあわせで、おなかいっぱい食べられて、笑うことができて、本が読めて、大事な人と寄り添い生きていられて。
そんなわたしの当たり前が奇跡的な幸運であることを教えてくれるこの本は、受け止めきれないほどの怒りと悲しさと虚無と疲れに満ちていて。
受け止めきれない、消化できない感情を、どう言葉にしていいのかもわからないまま、ただ苦しくて。
なにができるのか。その前にどう向き合えばいいのか、遠くから知ることしかできない、自分と、世界と、人間と。

古屋美登里さん訳の本は、デイヴィッド・フィンケル著「帰還兵はなぜ自殺するのか」「兵士は戦場で何を見たのか」の2冊も読みました。これも苦しくなる本でしたが、とてもいい本でした。

戦争のルポルタージュは読んでいて苦しいです。身体性を伴わない単なる情報としてだけ心に蓄積されていくその悲しさに押しつぶされてしまいそうです。

遠い世界の話しではない。明日自分の身に降りかかってもおかしくはない。そうおもわせる世界情勢の中にあって、わたしはどう生きていくべきか、あらためて考えさせられる本でした。


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