花実 怜

空想スイッチを押す人。

花実 怜

空想スイッチを押す人。

最近の記事

一寸未来記『玉手箱』

 仮想空間は実に心地いい。  手柄を横取りする同僚も、大きな声で威圧してくる上司もいない。  シナダはこの世界に満足していた。 「シナちゃんもう帰っちゃうの」  ミリがシナダの腕に手を絡めて呼び止める。ミリはこの空間だけに存在するプログラムである。 「もう少しいいじゃない。どうせ向こうに戻ってもやることないんでしょ」  図星だった。  仕事を辞めて以来、現実の世界でやりたいことも、やるべきこともない。 「それもそうか」  空を見上げる。透き通るようなピンク色だ。  時間なんて

    一寸未来記『玉手箱』