仮想空間は実に心地いい。 手柄を横取りする同僚も、大きな声で威圧してくる上司もいない。 シナダはこの世界に満足していた。 「シナちゃんもう帰っちゃうの」 ミリがシナダの腕に手を絡めて呼び止める。ミリはこの空間だけに存在するプログラムである。 「もう少しいいじゃない。どうせ向こうに戻ってもやることないんでしょ」 図星だった。 仕事を辞めて以来、現実の世界でやりたいことも、やるべきこともない。 「それもそうか」 空を見上げる。透き通るようなピンク色だ。 時間なんて