入院したのに、何で悪くなって帰ってきたの?

※訪問リハビリテーションをテーマにした短編小説です。気楽にお読みいただけたら幸いです。※



「今年の旅行も、おじいちゃんたちも一緒に行こうね!」

「分かったよ。風邪ひかないように気をつけるよ。」

孫のタビトとそんな話をしてから、数日後。

「え?おじいちゃん入院しちゃったの?旅行行けない?」

「熱が出て動けなくなってしまってね。今原因を調べたりしているところみたい。2週間くらいで退院できるみたいだし、旅行はまだ2ヶ月も先だからきっと大丈夫よ。」

おじいちゃんが入院…心配だ。おばあちゃんは大丈夫って言ってたけど、退院したら会いに行こう。旅人はそう決意する。

🚶
今日の2件目は、外山さんの訪問。発熱体動困難で救急搬送、そのまま入院。軽い肺炎で病状回復して退院。だけど、入院前のように動けていない、と。

「こんにちは。どうぞ。今日からリハビリですね。よろしくお願いします。入院は2週間で短かったし、リハビリはしてないみたい。ていうか、入院したのに、何で悪くなって帰ってきたの?」

玄関にて、外山さんの妻から質問される。質問の形ではあるが、「病院=治す場所=元気に、元通りになってから帰ってくる場所」なはずなのに、何してくれとんねん!という怒りが含まれている。

しかし、これはよくあることなのだ。「入院関連機能不全」という、入院がきっかけで身体の働きが弱ってしまう状態である。説明を試みるが、火に油を注ぐことにならないか不安だ。

「外山さんは高熱で入院されました。その原因をはっきりさせるまで、無理に身体を動かす訳にはいかなかったのだと思います。検査をしていく中で、原因も分かり、熱も下がりました。ひとまずここまでが、病院の役割です。」

「そりゃそうね。」

「ただ、その期間安静に過ごしすぎると、動くことで保てていた体力は落ちてしまうんです。その体力が戻るまで、入院をつづけるというのが今は難しいんです。病気自体は治ったでしょ?みたいな理屈ですかね。」

「それでも今までは杖ついてたけど、普通に歩けていたのよ。それが今じゃトイレまでもやっとやっとで、私に立つのも手伝って。トイレまでもついて来てって。付きっきりなんて無理よ。」

「ということで、私が訪問に来ましたと。」

「良くなってほしいわ。頑張るしかないよね」

「お家でのリハビリは、訓練という感じだと息苦しくて大変です。生活は頑張るというより、続けるものですから」

「その生活が変わってしまって困ってるのよ」

「そうですよね。ですから、『楽に動けて、自然と体力が戻っていく。そんな生活環境』を整えることもリハビリなのだと理解していただけると」  

「具体的にはどうするの?」

「それを今から確認していきましょう。ご本人はどちらに?」

🛌
2人で寝室に向かう。外山さんは、ベッドで横になり、ぼーっとしている。挨拶後、今の思いを伺う。

「入院した時は酷くて、動けなかった。体力もっていかれたのが、立つのもしんどくてね。」

ベッドは介護保険でレンタルしている。高さが低めだ。
「ベッドの高さはいつもこれくらいですか」

「高いと落ちたら怖いでしょ?こんなの借りるまではずっと布団だったからね」

「リモコンは使ってないですか」

「身体起こすのには使ってるけど、立つのは今まで困ってなかったからねぇ」

立ち座りを高さを変えてトライする。浅めに腰掛け、深くお辞儀をするように、促す。

「あら。楽に立てたわ」

杖で歩いてもらう。確かにふらついている。トイレまでそれなりに距離はある。廊下は広すぎず、狭すぎず。

「外山さん、一時的に、歩行器を使うというのはどうでしょうか。」

「そんなの頼ってしまってたら、余計足腰弱らんかね」
妻もウンウンと頷いている。

「杖でしっかり歩ける方の場合はそうですが、ふらついて怖かったり、歩くこと自体が億劫になって動けていないのならば、安心して歩ける方がいいですよ。」

ピンポーン。インターホンが鳴る。

👪

「おじいちゃーん!」

「息子家族です。この子は孫のタビト」

家族がやってきた。周囲を巻き込めると、変化することへのハードルが下がることもある。◯◯さんの訪問リハビリテーションとして、どんな関わりをするか、今動きを見て活動できる環境にするための提案をしていたことを説明する。

「おじいちゃん。それ使ったほうがいいよ!元気になって一緒に旅行行くんでしょ?」

「いや、そのつもりだったんだけど、こんな状態じゃとても行けないだろう」

「外山さん、リハビリテーションとは、「訓練」というよりも「その人らしさを取り戻す」という意味なんですよ。ご家族と旅行に行けたら、外山さんらしい人生になるのであればそこを目標にしてみませんか?」

「…分かったよ。やってみようか。」

翌日、福祉用具の業者にも来てもらい、廊下を行き来できる歩行器を試す。やはりこちらの方が安定し、スムーズに歩けている。外山さん自身も楽歩けることに安心したような表情だ。

🧳
2ヶ月後。外山さんは家の都合で今週の訪問はキャンセルだった。その翌週、自宅に訪問する。

「再さん、これ、お土産。」

「旅行に行ってこれたのですね!」

「長い距離あるところもあってさ、歩くだけでなくて、車いすも借りたんだけど、行けたよ。体力戻りきってないのに無茶かなとも思ったけど、タビトに『チャレンジする方がおじいちゃんらしい』って言われてさ。これもリハビリだよね」

そうですね、と返事する。

「退院した時は、このまま寝たきりになってしまうんじゃないかって、正直不安もあったんだよ。
あの時歩行器を借りて、孫にも手伝ってもらって立ったり座ったりの運動続けて本当に良かった。」

訪問リハビリテーションで関わる皆が、こんなにしっかり回復して、目標達成できる訳ではない。

習慣の力。周囲の応援の力。目標の力だ。

旅行に行けたから、次の目標を探さないと…

「来年は、車いす使わないで旅行行けるようにするわ。再さん、これからもよろしくね」








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