連作30首「自動継続」
第63回短歌研究新人賞応募作品「自動継続」です。
使うのにコツのいる電子レンジと七周年を過ごすアパート
料理上過失致死罪濡れた手でコップの死体処理を行う
観たかった映画のネタバレを調べて済ませばわずかに濁る血液
運命を変える作業は面倒で五分遅れのままの長針
すぐ遺書を考える癖、生き延びるせいでほとんど日記だけれど
消えたのか痛みに慣れただけなのか知る術のない腫瘍が重い
寝る前に開くスマホの集落で魔女裁判は終わりを見せず
派遣会社の人に言い訳してる夢から覚めたときの脱力
昔から着ててそのうち妖怪になりそうな毛玉だらけのコート
返せない挨拶が積み重なって毎朝取り立てに怯えている
朝礼で脳に血管を感じるこれ以上夜を引き延ばせない
心臓の無駄な歪が役に立つ悪意の消波ブロックとして
太陽の人を避けて降りる階段 変温動物に向いていない
知らなくていい風が吹く放送で好きな女優の整形疑惑
次回予告:神の頭がおかしくて大事な人から殺されていく
機嫌良く話す自分の声が嫌い 気が滅入る小説を読みたい
他人事のように帰ってカラオケで流れる映像みたいな車窓
死ぬために生まれたさかな来年はこんな水たまりじゃ泳げない
悲しみをたたえたダムになりきれば肌で水位の限界を知る
この町は種も仕掛けもありません何も咲かないミスドの跡地
逃げ延びたワンルームこの城塞にわたしを傷つけるものはない
毎日がいつ終わるのか分からない見どころのない動画のような
干渉を受けない生活を続けて助かっているはずの静謐
うん 泣いてないよ大人なんだから くもりガラスの結露がひどい
愛を知ろうとして愛の歌を聴くほとんど聞き取れなくてウケるね
冬を乗り越えて自分が造花だと知ってしまった向日葵の夜
分け合えない心の動きを持て余す 0で割ろうとして出るエラー
シリアスなシーンはすべてカットして余談みたいに過ごす本編
幸せの鐘を溶かして作られた不細工な器が愛おしい
春の凪 うつむいたままはじまりの季節に立って通行の邪魔
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