連作50首「希死念慮キック」

第64回角川短歌賞応募作品「希死念慮キック」です。



お会計ちょうどですね、で握り潰されたレシート見送っている


少しずつ取り戻せない損をするドリンクバーでお腹が痛い


ネカフェから出てしばらくは主人公だったのにもう背骨が歪む


錆びついた喉の操作がきかなくて弁当につくゼロ膳の箸

i don't know 帰巣本能 コンビニの前でフライドチキンを減らす

残された時間の渦で確実に起こさなければならない奇跡

いつまでも外装工事を続けてるビル何ひとつ叶えられない

割高な生命保険が生命を脅かす第二部の始まり

順調に消えていく残高曰く、二ヶ月は生きられるとのこと

釣り合わない報酬を押し付けられる ひらいてもすぐしまる踏切

「高収入 在宅 楽」で検索をしたのでたいへんよくできました

ボールペンのインクが切れる忘れたい学校のロゴが入ってるやつ

海底の湿度で息が続かない 鮮度を保ったままの部屋干し

日の当たる場所を歩くと不審者になるから夜の自販機を押す

目が覚めるたびに深夜の冷蔵庫これが明けない夜なのだろう

漠然と延命措置を考えて有力候補となる衰弱死

勘違いさせる温度でカフェオレはまるで幸せみたいな湯気を

考えるだけ無駄 誰も悪くない消化試合が胃に残ってる

嫌すぎて幻覚を見る全自動人生解決機が消えていく

夕飯の前だけどお菓子食べちゃおう壊れてしまっても構わない

提案を無下にするたび濁る川 不法投棄のような拒絶で

届かない声のおかげで徴兵を免れている言い訳の群れ

手遅れになって平均台の上すべて背負えば姿勢を崩す

いい大人なのに大人を信じない 持ち手もナイフになってるナイフ

無視をしてほしい マスクとニット帽 スマートフォンの電源を切る

風に手を振りほどいたときの感触きっと向こうが正しいのだろう

安っぽい感傷的な演出をする雨の町 馬鹿にするなよ

世界の容量が無駄になっている 目の前の座席に座らない

意味もなく遡上する鮭として山孵らない卵を守っていた

楽な道、楽な道へと進むうち迷路のような針葉樹林

噓を垂れ流した跡が足元に広がって革靴が汚れる

ざらざらとレインコートを打つ音の誹謗中傷に似た攻撃

石になる 協調性を欠いている心臓はやわらかいまま喚く

希死念慮キック残った葉をすべて落とせば死ねるって信じてた

何もしなければこのまま自壊する崖だったのに離れてしまう

狂ってる方位磁石を叩き割るなんでこんなに簡単なこと

店員とドラマの再放送を聞くそば屋の高いそばあたたかい

燃料を片道分にした覚悟 徒歩で帰って台無しにする

玄関の市政だよりを引き抜いてピザのチラシによるファンファーレ

気が付くといつもの癖で敷いている布団 生きていく前提の

床のごみだった付箋を貼り直す 本を読んだら病院へ行く

新人のバイトのために模範囚みたいな顔で買った弁当

失神の間に降って止んだ雨 暗いけど乾いているところ

ベランダに干してたタオル濡れてないもっと他人を頼ってもいい

ドラマチックな台本を破り捨てる普通になることが怖かった

スタンドバイミーもう誰も歩いていない線路にそっと電車を戻す

絡まった小さな呪いを解いていくたまに引きちぎったりしながら

眠たくて眠れば一般的な朝それだけで上昇する熱気球

洗面器、揺れる波紋を忘れない 少しずつ呼吸をととのえて

祈らせてください 祈ってください それぞれを神様の代わりに


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僕だけがインターネットの亡霊で他のみんなは居酒屋にいる

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