見出し画像

SF小説『月は無慈悲な夜の女王』を読んだ感想。社会人の人生の小説という感じもする

5chで昔読んだファンタジー小説のスレッドを読んでいた際に、「名無しは無慈悲な夜の女王」という名前に惹かれて、元ネタの『月は無慈悲な夜の女王』を読んでみました。

日本語訳『月は無慈悲な夜の女王』について

読んだのは、矢野 徹(訳)のkindle版です。

Amazonのレビューを見ると、日本語訳が読みにくいという意見があり、若干心配したのですが、私の感覚としては読むのが苦痛という感じはありませんでした。たしかに、所々読みにくい箇所もあるのですが、洋書の和訳としてはよくある程度かと思います。

ネタばれなしの概要

有名な本なので色々なところで色々な方が書いてますが、未来の世界で流刑地として使用されている月が、地球本土に対して革命を目論むという内容です。革命に際して、自意識を持つ強力なコンピューターを利用するところや、現代の社会の文化と異なる月世界の文化が詳細に書かれている点が、特徴的な部分です。

私の感覚としては、SFの技術的な面よりも、SFを通して人間の在り方や社会の在り方を描写しているところが面白いと感じたので、SFに特別な興味がない方でも、人間や社会に興味がある方は楽しめるかもしれません。

革命を進行するためには綺麗ごとばかりではなく、味方によっては汚いと思われるようなこともする必要があるのですが、そういった部分も書かれており面白いです。

社会人(サラリーマンとして?)が読む『月は無慈悲な夜の女王』

主人公は計算技士として月の政府にサービスを提供している既婚者です。それなりに満足した暮らしをしているところから、本人の意思とは別に革命に巻き込まれていく形になります。

この小説の中では主人公は革命に巻き込まれた後も家族とコミュニケーションを取るシーンが多いです。そこに生活感と現実味を感じます。月世界の結婚制度は現代社会と異なる文化として書かれており、改めて人間の幸福な生活には色々な形が取りえると思わされます。

主人公は革命の中心に近いところで活動することになるのですが、そんな時でも一人の人間として仲間に関心を持って見ています。

当たり前のことではありますが、経済的に独立している社会人には、国のレベルの話と別に、個人としての仕事の面、家庭の面、友人付き合いの面等、多面的な部分があります。この小説は革命の過程をストーリーにしてますが、そんな中でも主人公が人間として描かれているように感じます。

この小説を通して、改めて人には様々な面があり、意識していても無意識でも、その中の面での優先順位を日々選択しているということを感じました。

また、人はそれぞれその置かれた場所と誰といるかということによって大きな影響を受けます。そして、自分が何者なのかを理解するのは意外と難しいものかもしれないです。マイク、マヌエル、ワイオが変わり得るように、読者もまた変わり得ます。

まとめると平凡な内容なのですが、読んでみて改めて、人生の日々の選択を大事にしていきたいと感じさせられました。月の住民のような過酷な環境に置かれていないことに感謝しつつ。

面白いと思った個所の引用

「かれは無知なんだ。いや、無知じゃないな。かれはぼくやきみより、これまでに生きてきたいかなる人間よりも遙かに多くのことを知っている。だがかれは、何も知らないんだ。」

「恐怖さ! 人間というものは、わかっている危険に立ち向かうことができる。だが、不可解なものには慄え上がるのだな。われわれはあの護衛兵どもを片づけた。歯や足の爪もだ。かれらの仲間に恐怖を植えつけるためにだよ。」

六人以上の人間がいれば、どんなことであろうと意見は一致しない、三人のほうがいい……そして、ひとりでできる仕事にはひとりがもっともいいのさ。これがだね、すべての歴史を通じて議会政体というものが何かを成しとげた場合、大多数を支配した数少ない強い男たちがいたおかげだった理由だ

「マヌエル? あなたは反対するの?」 「ぼくが? なぜ、ぼくのことはわかっているくせに、マム」 「そうよ。でもときどきわたし考えるの、あなた自身は自分のことがわかっているのかどうか。

いずれの時代にも通俗的な神話に適合させることが必要なもんだ。あるときは、王となるものが神性のあるものによって塗油式を行なわれ、問題は神性のあるものが正しい候補者に油を塗るようにすることだった。現代における神話は“〝 民衆の意志”〟 だよ




サポートしていただけたら、もっと面白い体験を書けるように投資します!