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2021年は「シン・懐メロ」が誕生した年になりました

結論

・2021年は「シン・懐メロ」が誕生した年
・ここから先、ストリーミング時代以前の楽曲は一緒くたに「昭和・平成の名曲」として扱われるようになる
・懐メロのラインが引き上がったことで、これまで一線にいたはずの人たちの懐メロアーティスト化が進む

昭和と平成がぐちゃぐちゃになる

日テレでやっている「乃木坂スター誕生!」。この番組の「昭和&平成のヒットソングに挑戦!」というコンセプトを見た時に雑すぎるだろ…と思ったのですが、実際の選曲もなかなかの乱暴な感じで、たとえば

6月15日:賀喜、弓木、金川、松尾が「Body & Soul」&林が相川七瀬と「ロックンロール・ウィドウ」&全員で「夢見る少女じゃいられない」熱唱!

6月22日:田村、筒井で「渚にまつわるエトセトラ」&掛橋が爆風スランプと「ふたりの愛ランド」&全員で「Runner」熱唱!

(Wikipediaより抜粋)

みたいに、「Jポップという概念で説明される90年代前半以降の曲」と「それ以前の”歌謡曲”という言葉で称される曲」が注釈なく並べられてるなと。

山口百恵とSPEEDが同一コンセプトで扱われるのはなかなかしんどい…と思ったのですが、「40年前の曲」と「25年前の曲」だしどっちも「昔の名曲だよね!」というのはまあ事実ではあります。

90年代とゼロ年代がぐちゃぐちゃになる

そんなことを考えていた中で観た先日のMステスーパーライブで、「Mステ35周年レジェンドヒット曲メドレー企画」において大塚愛「さくらんぼ」(2003)→DA PUMP「if…」(2000)→森高千里「気分爽快」(1994)→スガシカオ「Progress」(2006)という並びがありました。


「Jポップが盛り上がり始めた時期の曲」「Jポップが産業として完成した時期の曲」「Jポップが徐々に下降線に向かいつつある時期の曲」
がつながる流れを見ながら、この辺も時代の区別とか関係なく全部「懐メロ」なんだなと。

この辺は年号が令和に変わったことで「平成の曲」であれば全部「昔の曲」として扱えるようになったのがでかいんだろうなと。平成も「懐かしむ対象」なわけです。81年生まれだと「1994年と2006年ってだいぶ違うよね」と思うのですが、これも「どっちも一個前の年号の曲じゃない?」で終わってしまうという。

懐メロと流行歌史の再編

2021年はストリーミングサービスとTikTokによる新たな音楽の生態系が定着した年と言えるかと思いますが、それに伴ってJポップという産業の歴史が

90年代初頭 勃興~定着
90年代半ば~後半 爆発~ピーク
2000年代前半 下降線
2000年代後半 停滞
2010年代前半 複数枚商法による延命
2010年代後半 復活の兆し
2020年代前半 新たな構造の定着←new!

という形で前に進んだのではないかと思います。2010年代後半、具体的には2016年でJポップ史に一つ線が引かれるという認識なのですが(星野源「恋」の年)、そこで生まれた火種がシーン全体に広がっていく回路が出来上がったのが2020年~2021年だったのかなと。要は「ヒット曲が出る時代」になりました。

一方で、その副作用として「それ以前の楽曲は全部懐メロ」とでも言うべき空気が一気に顕在化した年にもなりました。つまり、「ストリーミングサービス時代以前は”昔”である」という認識が一般化したということになります。

前述した2010年代後半が過渡期だったことを踏まえると、「2010年代前半以前の楽曲は全部懐メロ」ということになるわけで…

言い換えると、「懐メロ」がJポップ以降の楽曲の多くを飲み込んで「シン・懐メロ」になったのが2021年と言えるのではないでしょうか。

自分の感覚としては「Jポップ以前の楽曲は懐メロ(ゆえに80年代初頭のアイドル曲と60年代のいわゆる歌謡曲が並ぶのも許容できる)」という認識だったのですが、これももうちょっと上の世代の人からすれば「乱暴な線引き」になるはずで、このあたりの「どこが懐メロのラインか」というのは時代によって変わってくるのは当然なのだと思います。

ただ、2021年はそのラインが一気に引き上がるタイミングになったなーという感じです。

この「懐メロのラインが一気に引き上がるタイミング」で、一線でやってたはずのアーティストが気がついたら「懐メロ扱い」になるケースというのがどんどん出てくるのではないかと思います(すでにもうそういう兆しは出てきている)。

※先日五百蔵さんとのYouTube対談で危惧していたことの背景はこの話です。Perfumeも懐メロアーティストになってしまうのでは…という懸念。


自分が物心ついた後にリアルタイムで流れていた音楽がはっきりと懐メロ扱いされるのはなかなか堪えるところもあるのですが、年をとるというのはこういうことなのかなと。そのうち「うっせえわ」も懐メロになっていくんだろうなあと思うと、流行歌の諸行無常に思いを馳せずにはいられません。


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