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『THE KEBABS 生存』に関する話

「無観客」の会場(正確には「見物」という名目で会場の一番後ろに30人ほど観ている人たちがいたそうですが)で行われたTHE KEBABSのライブを収録したDVD『THE KEBABS 生存』。

受注生産となるこの映像作品、申し込み締め切り直前のタイミングで一足お先に観させていただきました!

THE KEBABS生存jkt


ケバブスのライブには去年二度ほど足を運びましたが、その時の感想は「好き放題やってんな」「楽しそうだな」「とにかく楽しそうだな」みたいな感じで。

もちろん手練れが集まっているがゆえの演奏の質の高さだったり、佐々木さんのブルージーだけどポップな歌声にはまるメロディと歌詞だったり、そういったテクニカルな側面も印象に残っているわけですが、それよりも「本気で遊んでる大人を観てるとこっちも幸せになるよね」というような、「キャリアを積んだ面々による新しいロックバンド」としてのあり方に感化される部分が大きかった記憶があります。

『THE KEBABS 生存』にもそんな姿がばっちり映し出されているわけですが…なんかさらにバンドのコアが鋭利に磨き込まれてないか?ますますシンプルに、そしてもっと楽しそうになってないか?というのが今作を観終わった後最初に思ったことでした。

ただ、これはちょっと不思議なことのようにも思います。もともと「ライブハウスででかい音を出す」ために結成されたともいえるケバブスにとって、「コロナ禍」によってもたらされた「ライブをやる=悪者」的な状況は明確に向かい風のはず。にもかかわらず、なぜそんな中でしょぼくれることなくバンドとしてさらに研ぎ澄まされた姿をこの作品にパッケージすることができたのか?


おそらくその問いに対する答えは、「今の状況を逆手にとるかのような表現をメンバーが本気で面白がっているから」ではないでしょうか。

たとえば、今作はとにかく映像が面白い。意外な場所からステージまで一直線につながるインパクト大のオープニングは、まさに「無観客ライブならでは」の演出。“THE KEBABSは暇だった”あたりからはステージ上のメンバーにまとわりつくかのようなカメラワークが導入され、宙に浮かびながらライブを体験しているかのような不思議な感覚に。さらに“ジャキジャキハート”では、ステージのみならずフロアや通路、ドリンクカウンターまで縦横無尽にパフォーマンスに活用。いずれも「観客のいないライブ会場だからこそ作れる映像」で、オーディエンスがいない中で仕方なくやったというような雰囲気はありません。

また、この人たちはそもそも「自分たちが楽しくライブをやるために」生まれたバンドです。それゆえ、観客が目の前にはいないライブハウスでのパフォーマンスを存分に堪能することで、改めて「なぜケバブスを組んだのか」「ケバブスで何をやりたいのか」という部分をクリアにすることができたのでは…なんてことも思いました。余計なMCもなくテンポよく進むステージからは、「でかい音を4人で合わせるのは楽しいよね!」というメッセージがびしびし伝わってきます。


とかく「ロックもしくはロックバンドの受難」が叫ばれる昨今。『THE KEBABS 生存』は、会場を埋めるオーディエンスがいないという点では今の時代のドキュメンタリー的側面もありつつ、そんな風潮を笑い飛ばしてどこかにぶん投げてくれる爽快感200%の作品に仕上がっています。

フェスにもライブハウスにも行けず閉塞感のあるロックファンなら、これを観れば誰しもが「あ~、やっぱバンドっていいな~」と思うんじゃないでしょうか。



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