理想の街路樹をつくる
暑い日が続きます。
こんな日は、木々の木陰の中で過ごしたいものですが、
街中の街路樹はというと、木陰どころか無惨な姿になっているものがとても多いことを皆さんはお気づきでしょうか。
「街路樹」というと、
落ち葉が落ちて困る、
歩道の根上がりの問題、
倒木の危険・・・など、
我々が日常的に街中で見る街路樹は,
「電柱」のようなひどい樹形ものが多く、
街中の「厄介なもの」として認識されていることでしょう。
街路樹の惨状は、年々悪化の傾向であり、本当に全国各地の大きな社会問題だといえます。
しかし、全国にはほんの一部ですが美しい街路樹のある街もあります。
いくつかを紹介します。
こうやって見ってみると、街路樹の美しい街は、人が集まる街、魅力のある街ともいっていいでしょう。
ただ、ここ10数年、新しい道路ができたときに植えられる木は圧倒的に「ハナミズキ」が多い。
ハナミズキは落ち葉の苦情も含め、行政にとっては手がかからなくて、管理しやすいという理由から、日本中の街路樹で爆発的に増えています。
それは僕の地元の寄居町でも同様でした。
2018年に寄居駅南口の中心市街地活性化事業がスタートし、駅前の街路樹は、当たり障りのないハナミズキに決まろうとしていました。
そんな事情を知ってしまった僕は、せっかくの地元の街路樹新設に、何とかならないものか?と思いました。
理想の街路樹とは?
最近ではハナミズキを始め、常緑ヤマボウシやモミジなど、様々な樹種が植えられてきた街路樹ですが、
理想の街路樹とは何でしょうか?
サクラ?
ケヤキ?
イチョウ?
僕は、2014年頃より千葉の高田宏臣さんの提唱していた、コナラを中心とした在来種を使った雑木の庭を施工するようになりました。
高田さんのやり方は、森の階層的な植栽(高木、中高木、中木、低木、下草等)を庭で再現し、「寄せ植え」をするという事です。
つまり、「在来種の寄せ植え」です。
一般的な庭の中では、在来種の高木層といわれる、コナラやクヌギ、ヤマザクラなどは、樹木が大きくなりすぎるので、控える造園家やお客さんも多い。
なので、高木を外しアオダモやヤマボウシ、モミジなど中高木をメインにして庭を作ります。
ただ、高木層のない植栽は、いま一つ。
特に猛暑の中では、夏の強烈な直射日光で木が傷みます。
そもそも、真夏の直射日光を遮るのが高木層の役割であるので、それは当たり前かもしれません。
街路樹の話に戻してみると、
理想の街路樹とは、「在来種の寄せ植え」ではないか!
という結論に至ったのであります‼
理想的な街路樹の提案へ
前置きが長くなりましたが、そんな提案を行ったのが、2019年6月の寄居町100人会議でした。
「在来種の寄せ植え」という理想的な街路樹が地元でできないものかと、
ここで初めて僕は町の方々に10分ほどのプレゼンを行いました。
そこから、「面白そうだ!」と、とんとん拍子に話が進み、町の街路樹検討会議や市街地の区長会などでも同様のプレゼンを行い、正式に行政へ提案することになりました。
行政のスケッチから、我々の理想の街路樹。
駅前の中央通り全体が木陰になるイメージ。
ただしこの「在来種の寄せ植え」という街路樹は、今まで日本の公共空間での前例がありませんでした。
行政としても前例がないということで、中々認めてもらえません。
GOOD PARKプロジェクト
そんなタイミングで、「GOOD PARK」という、仮設の公園ををつくるプロジェクトがあり、僕も植栽で協力することになりました。
駅前の空き地に暫定的に公園をつくり、人の流れや地域のニーズみるというような主旨で、数か月後に撤収するという前提で仮設の公園をつくる。
で、用意してもらったメッシュコンテナに、寄せ植えの植栽をやってみる事にしました。
大きさは1㎡ほど。
作業中に、大きな気付きがありました。
これは、寄居町の新しい街路樹のスペースとほぼ同じではないか⁉
行政の計画されている街路樹のスペースは、1㎡足らずととても小さい。
ここに本当に何本も寄せ植えができるのか?
そんな単純な疑問も生まれていましたので、街路樹のモデルとしてつくってみたらどうか⁉
2019年10月に完成した、GOOD PARK。
そして、メッシュコンテナに在来種の寄せ植えを植栽!
実際には、5~6mクラスの樹木を始めたくさんの木々が入り、ぽつんと1本を植えるよりも、見た目にも楽しい。
多くの方に「在来種の寄せ植え」も披露でき、GOOD PARKプロジェクトは無事に終わりました。
ただ、これが好評で、第二弾も別の場所でやることに。
しかも、前回は3か月程度の期間でしたが、今度は4月から翌年3月までの1年間という長い期間。
仮設といいながらも、真夏を越せるような植栽をしなければいけないということで、大地の再生仲間の佐藤俊君に相談し、土壌環境を徹底的にこだわることにしました。
一般的な植栽方法は、鉢底石を入れてあとは良質な土壌を入れる程度だと思いますが、落ち葉やもみ殻くんたんなどの有機物や、土の中の通気を確保するための稲わらや通気管、そして植栽には根鉢を固定するため焼き杭を打ち込んだりと、様々なやり方を実験するように施工しました。
そして、2020年の4月に再びオープン。
前回よりも土壌環境を考慮し、さらにパワーアップした「在来種の寄せ植え」。高さも6mクラス!
これらの植栽は、新緑からとても元気!
木々の水やりの苦労もありましたが、近所の方が好意で手伝っていただいたりと、そのまま元気に夏を越しました。
土壌環境での発見
そして1年後の冬に、予定通り撤去することに。
植栽したものを1年後に解体するというのは、中々できないことで、これはとても貴重な経験になりました。
掘り上げる樹木の根鉢は、細根がびっしり!
我々造園家にとっては、とても興奮するような光景です!
そして根鉢を固定するために打ち込んだ焼き杭や土留めとして使用した剪定枝や幹も、白い菌糸が張り巡らされ、その効果を確信しました。
細根が出るというのは、土壌の通気環境が良く木々が健全に育っている証拠。
落ち葉やもみ殻くんたんを大量に土壌に組み込みましたが、その成果も現れたようです。
早速、これも街路樹の提案資料として追加。
在来種の寄せ植えと共に、土壌環境にもこだわる理想的な街路樹の提案ができてきました。
管理の問題
そんなことで、実際に寄せ植えの街路樹の現物や経過も見ていただき行政に改めて提案、何とか認めてもらえるようになりました。
ただ、次は管理の問題。
確かに街路樹の一番の問題はその後の管理。
しかも、植栽したあと、20年30年後も管理は続きます。
これも我々でやっていくしかありません。
最初は市街地の方々を中心にメンバーを募り、造園業者を入れて名簿を作成。
最後は地元の企業の方々にも協力を得て、役所に名簿を提出。
何度も役所に足を運び時間はかかりましたがようやく受理され、街路樹を管理するNPO法人を立ち上げることになりました。
理想の街路樹構想から約3年、管理協定書の調印式が行われ、ようやく理想の街路樹の実現に至りました!
街路樹完成から管理作業へ
そして実際に2023年の春に植栽。
既存の土壌に有機物を混ぜ込み客土に使用したり、植栽地の四隅には通気管を使用、土の中の通気を良好に。
植栽はこんもりと高植え。また、表土の仕上げは落ち葉やウッドチップを敷き詰めます。
剪定枝や枯れ枝も植栽地の土留めで使用しました。
ということで、「在来種の寄せ植え」街路樹の完成。
寄居駅南口のラウンドアバウトから続く中央通り線230mに、片側6か所づつ、合計12か所の街路樹。
ようやく完成しました!
ただ、実際に植栽してみると、樹木も小さいこともありますが、街路樹と街路樹の間隔が広い。
当初は、もっと街路樹の数も多かったのですが、最終的には12か所に減らされ、まだまだ理想の街路樹空間には程遠い状況・・・
でも、5月から6月には元気に草が生えてきました。
管理作業をいかに楽しくできるか
4月から行っている街路樹の管理。
計画では、毎月一回定期的に管理に入り、草刈りや木々の点検、必要なら剪定の管理をすることになっています。
そして、日頃の植栽地での管理での大きな課題ともいえる雑草対策について。
一般的な雑草管理はきれいに根から草を抜き取りますが、これを抜かずに生かしていく。
大地の再生の「風の草刈り」を実践。
草は風で揺れる部分をのこぎり鎌で刈る。だいたい、3分の1から半分くらい。
そして刈った草は植栽地の中へ還す。
これで草刈りが完成ですか?
と言われそうですが、これで十分。
ゴミも出さずに、作業も楽。
こうやって草を生かしながら、雑草は風の草刈りで草丈をキープし、植栽地の土壌も育成していきます。
水やりの問題
2023年も7月に入り、木々の成育も順調。
しかしながら、連日の猛暑で街路樹の木々は水切れ状態。
こんな小さな植栽地ですので、植栽土壌も少なく街路樹はまだまだ植木鉢の中に入っているようなもの。
毎月一回の管理だけでは不十分で、急遽水やりをすることに。
水中ポンプや動噴での水やりも考えましたが、機械音もうるさいので、
タンクに水をくみ、原始的にジョウロでの水やりを実施。
猛暑が続くと、3~4日に一度は水やりが必要になります。
LINEグループで作業を呼びかけ夕方に集合、一回あたり200~300ℓほどを潅水しました。
結局、昨夏は7月8月合わせて、8回の水やり作業を行いました。
落ち葉の季節
夏を越した後は、秋から冬の落ち葉の季節。
街路樹の一番の苦情の原因は落ち葉。
落ち葉が落ちて困る、
誰が掃除をするのか・・
といった街路樹の苦情はよく聞かれます。
むしろ、落ち葉の問題があるので木を植えない、といった状況も良く聞く話。
でも全国に目を向けると、富山県南砺市での街路樹感謝祭や、東京の杉並区でも落ち葉感謝祭として、落ち葉をみんなで掃除するイベントが開かれています。
そもそも落ち葉はゴミではなく、有効な資源であるということを前提に、僕らも落ち葉の問題をどうクリアしていくかを考えていた時に、踏み込み温床という昔からの育苗の技術の中で、落ち葉を大量に使うことがわかりました。
2019年の冬から、市街地で集めた落ち葉を郊外の有機農家である井伊農場さんへ持ち込むようになり、その農家さんが育てた野菜が市街地の飲食店へ戻るという、新しい循環の形が生まれていきます。
あのGOOD PARKでも、落ち葉プールをつくり遊んだ後は、落ち葉を捨てずに使いました。
それが進化して、2021年には、第一回落ち葉で物々交換会を開催!
持ち込んだ落ち葉と野菜や苗木を交換するという、画期的なイベント!
2023年の12月も、駅前拠点施設Yottecoの駐車場にて、第三回落ち葉で物々交換会を開催しました。
植栽2年目の街路樹
そんな、こんなで1年が経過。
街路樹も植栽2年目になりました。
今年は雑草の伸びも比較的落ち着き、草刈り作業も楽。
樹木も昨年よりはひと回り大きくなり、生育は順調。
2024年になり、管理日を毎月第三木曜日の午後13時30分からに固定しました。作業はだいたい1時間くらい。集合場所は駅前拠点施設のYotteco。
毎回10名程度が集まり、管理作業を行っています。
ただし、これは誰でも参加できます。見学も自由です。
(8月はお盆に重なるため、8月は2週目木曜の8日に実施します)
街路樹の可能性を探る
寄居駅南口周辺は、再開発も終わりきれいに整備されました。
寄居駅から街路樹のある中央通り線を抜けてまっすぐ600mほど。
10分ほど歩くと景勝地 玉淀河原があります。
真夏は街路樹が木陰をつくり、駅前から正喜橋(玉淀河原)まで涼しく歩きたい。
まだまだそれには時間がかかりますが、それが当初からのイメージ。
寄居は水の町ともいわれますが井戸水も豊富。
山から川へと続く地下水脈を、点々と繋ぐものが樹木の根。
市街地の北に広がる山々と荒川とを結ぶ重要な縦軸が、中央通り線。
その道路の中の街路樹はとても重要な意味を持ちます。
なので中木であるハナミズキではその役を担うことはできず、我々が大きくなる樹木であるコナラやクヌギ、シイカシなど、高木樹木を街路樹に選択してきた理由はそこにあります。
今は街の大木が次々に排除される時代。
知らず知らずのうちに我々は街中の樹木の恩恵を受けてきたと言っていいでしょう。
そんな思いを込めて、街路樹の大きな役割や可能性を探っていきたい。
駅前拠点施設Yotteco横の街路樹。
今回ここを封鎖し歩行者天国にして、いくつかの実験を行います。
真夏のアスファルト舗装の表面温度は60℃!
アスファルトやコンクリートだらけの現代の暑さの原因は、ここにあるともいえます。
でも、この道路も20年後には、当初のイメージのような木陰に包まれた空間になる。
そうなればいくら猛暑でも快適に過ごせるはず。
また、市街地のあちこちにある井戸水を使って打ち水をして、さらに涼しくできたら・・・
そんな実験的なイベントを8月10日(土)に開催します。
ほか、恒例の街歩きツアーも行います。
イベント名も、樹木バカと寄居を歩く。
また、たっぷりと街路樹について語る、樹木バカradio。
そして、初公開となる移動式の植栽コンテナも現在作成中です。
8月3日(土)は水天宮花火大会もあります。
お盆前の暑い中ですが、是非寄居へお越しください!
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