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ソーシャル・キャピタルか職業スキルか?-支援の因果関係と効果の継続可能性

リープ共創基金が取り組むキャッシュフォーワーク2020の助成プログラム。NPO法人やソーシャルビジネスに提供した資金は、12団体に約1.7億円にのぼる。この資金を活用して雇用された若者は、216名になった。

1.7億円という国内最大規模の助成金は、有効に機能したのか? 助成事業の成果はどう測るべきなのか?  資金の統括団体となるJANPIAや実行団体の方々も交えながら、キャッシュフォーワーク2020のインパクトの振り返りを行った。なお、本助成プログラムは、休眠預金等活用事業の「新型コロナウイルス対応緊急支援助成」の資金分配団体として、実施しているものになる。

本記事で割愛したキャッシュフォーワーク事業の全体像に関しては、こちらのインパクトレポートで報告しており、ご興味があれば、ぜひ、ご覧頂きたい。

雇用型の就労支援は生活基盤を長期的に改善する

報告会は、まずリサーチマネージャー・細田幸恵氏によるインパクトレポートの報告から始まった。リサーチは、プログラム参加者に対して参加時と終了時、半年後とアンケート調査を実施し、主要な変化を分析したものだ。

特筆すべきは、プログラム終了後のアンケートで「生活基盤が安定しており、余暇や将来のために時間やお金を投資できる」と回答した割合が上昇し、半年後も高い水準で継続したことであった。

プログラム参加時点では生活基盤が安定していると回答した者は15.5%の割合にすぎなかったが、プログラム終了時点では50.3%に上昇し、半年後の水準でも回答者の41%が将来の投資への余力の回復を示した。つまり、コロナ禍において雇用型の就労支援は生活基盤の回復に直結したのだ。

ワーキングプア男性/シングルマザー/苦学生ーコロナ禍で職を失った若者像

では、本事業ではどのような層が対象者となったのだろうか?雇用対象者は16〜45歳になり、当事者像としてワーキングプア男性/シングルマザー/苦学生の3パターンが目立った。

男性は親元で暮らしている方や、ひとり暮らしの方が多く、それに比べ、社会人女性は置かれている状況が多様であり、また生活が厳しい状況にあると答えた人が、男性の約2倍ほど存在した。

また、プログラム参加半年後の社会人の就労決定率は77.1%で、携わる業務内容もサービスや販売職から専門性の高い仕事への転業が進んだことが特徴的であった。このような職業の移転においても雇用型の就労支援が有効であることが推察される。

また、補足になるが、216名のプログラム参加者のうち、アンケートの有効回答率は82.4%という高い回答率を確保でき、資金提供とアンケート調査をセットにすることの有効性を確認できた。

就労決定率77.1%の決め手はソーシャルキャピタルだった

では、本事業の最大の目的であった就労決定にもっとも影響したのは何だったのだろうか?実は、最大の決定要因はソーシャルキャピタル、すなわち、地域とのつながりの形成、感謝の経験、であることがわかった。それが、間接的に自信やスキルの向上、職業展望の形成などにつながり、就労決定を促していたのだ。

就労決定の要因の相関分析から図式化(数字は相関係数)

ソーシャル・キャピタルに関してのアンケート設問は地域社会との接触頻度について尋ねた。結果、「ほぼ毎日接していた」もしくは「たまに接することがあった」の設問を回答したのは全体の65.2%を占めた。加えて、事業の終了後のアンケートにおいて、「本事業は地域の自発的な活動と連携できている」という設問を設けた

災害やコロナウイルスの感染拡大の被害にもっとも遭いやすいのは、低所得ながらも、働き続けた若者や女性たちだった。低所得ながらも働きつづけるということは、短期的な収入の多寡の問題だけではない、次のキャリアに進んでいくという選択肢やスキル形成の機会そのものも閉ざされていくということだ。

そういった見えざる苦境に面する若者に向き合う事業であったからこそ、災害時やコロナ禍に新しいつながりをつくり続けることの重要性が示唆された。

大規模助成の調査はどうあるべきか?ー調査のための調査を越えられるか?

報告後の意見交換では、休眠預金等活用事業の統括を行うJANPIAや資金を提供された実行団体の方々から、以下のような様々なフィードバックがあがった。

「就労率が高く、自己肯定感やソーシャルキャピタルにも強い影響があるとわかったのは、期待以上の効果ではないか。次の災害に備えて、より大きな規模でやれるように、政策提言もしてもらいたい」

「『レジリエントな社会のために平時からこういう仕組みが導入できたら』という永松先生の話が印象に残った。平時から、生活保護受給者と近い世帯年収の方は非常に増えている。もう頑張りきれないという段階でなく、もう少し手前からサポートを入れていく必要があるのだなと感じた」

「リアルタイムでの集計に最も感銘を受けた。ビジネスでは当たり前にやっていることだが、日本のインパクト投資ではあまり実施されてこなかった。Acumenなど海外のインパクトファンドではリアルタイムで動向を把握できるダッシュボードを取り入れている。ぜひ日本でも広めて欲しい」

リープ共創基金の代表理事である加藤も、意見を受けて、以下のように述べた。
「これまでのインパクト評価は評価結果の開示に時間がかかり、すぐに現場の改善に活かせるものではなかった。今回はリアルタイム性を志向し、実行団体間のアプローチや成果が見えるような状況構造を立ち上げた。」
「我々の次の課題は、就労支援が必要な方々の給与が5%、10%と上がっていく仕組みをどうつくれるか。『スキルが上がっても給与は上がらない』というような環境は現場でもよく耳にする。貯蓄があるか、将来に対して投資ができているか、働きがいがあるかなど、マイナスをゼロにすることで終わりにすべきではない。」

国内の助成金には”報告書を提出すれば終わり”というものも多くあり、資金提供者、資金提供先の現場の団体、中間支援団体である我々の三者が揃って、インパクトや評価についてフラットに議論する場は、まだまだ少ない。

その他の事項も含め、インパクトリサーチの全体はこちらから参照が可能である。

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