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惑う星 リチャード・パワーズ著 Bewilderment Richard Powers

 リチャード・パワーズの新刊を読み終えました。涙が止まらなかった。"永遠"には2種類あって、もうひとつの永遠は、私たちが知っている永遠よりもすばらしいものだとしても、この結末をどう捉えたらよいか、惑います。

 宇宙生物学者の父親と、あるスペクトラムを持った少年の物語は、生きづらさ(障がい)を抱えた息子を、惑星を見つめるまなざしで受け止める、若き父親の奮闘の記録です。

 事故で亡くなった母親は、この星に生きるすべての動物たちの権利を守ろうと闘っていた、法律家でした。トランプ政権下を思わせるアメリカで、少年は次第に絶滅危惧種の生物を救いたいという思いに駆られ、孤軍奮闘を始めます。

 同じ頃、母親の友人だった心理学研究者の元で、近未来的なセッションを受け始めた少年は、スペクトラムからのめざましい回復を経験します。しかし、ふとしたことから、大統領の不興を買って、そのセッションは差し止めになり…。

 父親は毎晩、眠る前にこの宇宙に数ある惑星の話を、ひとつずつ息子に語って聞かせ、ふたりはそこで空想の旅をします。ある夜、父親が話したのは、死滅と再生を千一回繰り返した惑星、テディアでした。

 千一回目の再生によって生まれた生物は、 "私たちが知っている永遠は、もう一つよりすばらしいものだ" と少年に語りかけます。

 生命は、人生は、さまざまな偶然に彩どられながら、泡のようにはかない一瞬のかがやきを放っているように思います。
 人の心は、誰かを愛する気持ちは、たとえその人を失った時でさえ、もうひとつの永遠のすばらしさを知ることができるのだろうか。
 
 パワーズの描いた物語は、映画のようにドラマチックで、時に痛々しいまでに、胸に迫るものがありました。