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夜明け前に見る夢は鳥たちの歌声を聞く 【第6章】

 夢の中で、サラは広々とした場所に立っていた。きつね色の草が風にそよぎ、ちぎれ雲が流れていく。鳥たちがはるか上空を飛んでいくのが見えた。
「ヒースだ。」
とサラはつぶやいた。
少し離れたところに、枝を広げた大きな木が一本立っていて、その下に布を敷いて女性が一人座っている。彼女はサラの方に大きく手を振っていた。サラはそちらの方へと坂を下った。

「サラ、あなたを待っていたのよ。」
その女性は立ち上がり、サラの手を両手で握りしめて言った。とても嬉しそうに。近くまで来ると、その木はハルニレのようだった。
「どうして私の名前を知っているの?」
とサラは尋ねた。
「あなたのことをよく知っているから。私はmako。」
とその女性はにっこり笑って言った。肩の下まで伸びた真っすぐな髪が風に揺れ、白い小花柄のワンピースがよく似合っている。年はサラと同じくらいか、少し上に見えた。
「あまり時間がないの。でもまず、お茶にしましょう。」
とmakoは言って、腰を下ろすと麻布の上に置いてあった籐のバスケットから、綺麗なアンティークのカップとポットを取り出し、サラに熱い紅茶を注いでくれた。よい香りが鼻の奥まで届き、サラは気持ちが落ち着いた。
「お砂糖はいくつにする?」
と聞かれて、サラが茶色いお砂糖を一つもらうと、makoは自分のカップには静かにミルクを注いで、目を細めておいしそうにひと口飲んだ。

「飲みながら話しましょう。」
とmakoは言った。
「まもなく大きな船がやってくるの。その船には人もけものも乗ることができて、中には人からけものへと姿を変える者たちもいる。物事を理解する人は少なくなったわ。女たちは行って帰って来るけど、男は旅に出るだけ。」
と、不思議な話を始めた。
「研究所で陰謀が起こって、正座のできない女性が笑っている。私たちはバスに乗って逃げ出すの。クリスチャンの男性に気を付けて。彼は不吉な言葉を唱える。」
「待って。」
とサラは言った。
「私はその話を知っている。それは私が時々見る夢の話よ。」
makoは微笑んで、
「もちろん。ここはあなたの夢の中だから。」
と答える。
「そして物事は、かなり取り返しの付かないところまで進んでしまった。あなたはそのことに気付いているはずよ。」
とmakoが言う。
「私は別の次元から、あなたを助けるためにやってきたの。遠い未来から…。あなたはあの眼と向き合わなくてはならない。さあ、私の手を取って。行きましょう。」
と言って、makoが立ち上がった。サラはカップの紅茶を飲み残したまま、手を引かれるように歩き出した。

 二人が進んでいくと、ヒースの草がそれに合わせて左右に分かれていく。makoは次第に早足になり、気が付くと二人は走っていた。顔の横をびゅんびゅんと風が切っていく音がする。
「mako、とても息が続かない。」
とサラが叫ぶと、
「もう少し、ほらあそこに船が来ている。」
とmakoが指さす。少し先の方で、ヒースの丘が急に終わり、切り立った崖になっているようだった。そして大きな黒い、木でできた船が空からのっそりと迫っているのだった。