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ビールーディスタンシング。

今回は「ビールのCM」について。

こんなご時世でも季節は巡る。春もすっかり終盤で、夏っぽさと梅雨っぽさの混じった空気が流れ始めた。日差しは5月のそれらしさを不意に発揮して、じりじり顔と腕を焼く日がちらほら訪れる。そういう時期を狙ってなのか、テレビから流れてくる「ビールのCM」がやたらと目に付き、それが妙に気になる今日この頃。

知ってる人は知ってるし、知らない人は知らないと思うけど、僕はお酒をあまり飲めないし、飲まない。飲むと、決まって具合が悪くなるからだ。とはいえ少しは飲むこともあるし、酔っ払って楽しくなって「天国」が垣間見えることはある。ただし、一定量以上飲むと、頭が痛くなったり、気分が悪くなったり、著しく体調を崩してしまうという「地獄」が待っている。その「地獄」の詳細な描写は割愛するが、それはもう無惨極まりない。もちろん飲んだお酒の量やその時の体調などの条件はいくつかあるけど、押しなべて具合が悪くなり、「地獄」を見る。そのことに気付いてからは、あまり飲まないようになった。お酒が飲める年齢になってから、もうじき20年が経とうかという頃合いで、たどり着いたのはそういう結論だった。


だけど、ビールのCMは、とても好きだ。当たり前だけど、それらのCMでは出演者の誰しもが美味しそうにビールを飲む。景観の素敵なお店やリゾートで、美味しそうな料理や楽しそうな仲間に囲まれたりしながら。暑い寒いに関係なく、絶好のシチュエーションで、絶対に美味いであろうビールを、完璧なほど美味そうに飲む。CMなんだからそうじゃないといけないのだけれど、それを見て、さすがの僕も「美味そうだー!」とか、「いいなー!」とか、ちゃんと思う。ビールは、正直好きではない。「好きではない」のは、味とかいうことではなく、上で述べたように「地獄」、つまり「体調悪化」への恐怖からくるものだ。なのに、美味そうとか思ってしまう。そうやって、ちゃんと感情をいい方向に刺激されるのは何故なのか。

このことについて、ふと気が付いた。僕は多分、「ビール」は苦手だけれど、「ビールを美味しそうに飲んでる人を見るのが好き」なのだ。そういう人たちは、たいてい「いい顔」をしている。そういう顔の人を見るのが好きなのかもしれない。こないだ見たCMでは、堤真一さんが最高の笑顔を見せてくれていた。これまで見てきた数多のCMでもたくさんのタレントさんの誰しもが最高の表情だったし、そういえばCMじゃなくてもそうだ。飲み会でも、友人たちはいい顔してビールを飲む。ライブの打ち上げもそう。共演者の皆さんのやり切った感のあるいい顔。家族や親戚も同じく。その顔を見ることが楽しいから、飲めもしないお酒の席が楽しく思えるんだろう(それ以外の要素ももちろんあるのだけども)。

そういう、怯えながらも楽しみたい僕には、「ワンビール(缶なら1本、ジョッキなら1杯)」という長年の経験から導き出したボーダーラインがあり、それを越えない範囲で飲む。だから、最初の一口は、いっちょ前に「美味いぜ!」とは思う。夏場の仕事終わりやお風呂上がり、ライブの打ち上げなんかでは、そう感じている(ただ単にのどが渇いているだけだろうと言われたらそれまでだけど)。これが二口目からはノルマに変わり、2杯目の催促に警戒することとなる。だから、そんな僕の“致死量”的なものを越えて、次々とビールやそれ以外のお酒を頼み、消費していく人を目にすると、そこには羨望と尊敬しかない。これは学生時代からそうで、お酒の強い同期の女の子が次々とグラスを空け、嬉しそうに語る「好きなお酒」の話が当時の僕には相当衝撃的だったのか、今でも鮮明に覚えている。思えばあれ以来、「お酒」や「お酒を飲める人」への憧れが高まっていたのかもしれない。

こんな感じでろくに飲めもしない「ビール」なのに、その歌を僕はこれまでに何曲か作って歌ってきた。基本的に「かえる」とか「コーヒー」とか、好きなもので歌を作る傾向がある僕としては、矛盾する創作活動のようでもあったけど、実際は、「ビール」ではなく、「ビールを美味しそうに飲む人」が好きで、憧れて、それを歌にしていたんだなと思うと、とても腑に落ちるものがあった。それに「ビール」という語感の良さも手伝って、歌詞についつい入れ込んでしまうんだろう。このことに思い当たり、「ビール」とのとても良い距離感を見つけられたのでは!と、多分僕以外には分からない感情が湧いた時には、こっそりガッツポーズすら出た。

かくいう僕は、しばらくビールを飲んでいない。年末に飲んだのは覚えているけど、年明け以降は…?気付けば2020年になってからまだ一度もお酒を飲んでいなかったかもしれない。そういう場が減ったコロナ禍の影響も少なからずあったかもしれないけど、まさかと自分でも驚いた。これほど疎遠になってしまっていたとは…むしろそれがお互いにとってふさわしい関係性だったのかとも思う。

そんな僕でも、美味そうと思わせてくれるCMを見るのは楽しい。そんな僕の隣でも、美味そうにビールを飲む奥さんがいてくれるのは嬉しい。そんな歌を何か一つ作れたらいいなと思う。そして、しばらくは難しいかもしれないけど、いつかまた前のように、みんなが美味しそうにビールを飲む姿を、隅っこで烏龍茶を飲みながらニヤニヤしていられる場所へ戻れたら最高だ。その日までCMに楽しませてもらってばかりでは悪いので、少しはビール市場に貢献しておくべきだろう。近いうちに買い物に行こう、半年ぶりのビールで乾杯をしよう、1本さらっと飲み干してやろう。そしてまた曲を書こう、昔の曲も聞いてもらおう、ということで、もしよかったら聞いてください。「君とビール」という曲、約1年前のライブ映像をアップしてみました。またライブハウスでこうやって歌えるようにとの願いも込めて。

とりあえず今回はこの辺で。またそのうちに。

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