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網目屋敷の怪


わたくしがあのお屋敷にご奉公させてもらい始めたのは、大奥様の3回忌が過ぎた頃でした。

あのお屋敷は、大旦那様のこだわりから、
お屋敷の壁全てが網目になっておりました。
ですから音もだだ漏れで、若旦那様と若奥様との夫婦喧嘩の声もご近所中に響き渡っていましたし、若奥様がおぼっちゃまを叱る声も筒抜けでね。よく近所の子供たちに、ぼっちゃん、笑われてましたねえ。

丸見えってわけではないですが、やっぱり網目ですからね、チラッと見えてしまうんです。ですから、お嬢さまのお風呂の時間になると、若い男達が屋敷の周りをうろうろしていて、追い払うのが大変でしたよ。

壁が網目ですから、誰でも簡単に潜って、中に入れてしまいます。なので必ず留守番を置く決まりになっていました。大抵は足の悪い大旦那さまか私がうちにいることが多かったですね。でも、あの日、私が買い物なんかに出掛けなかったら、大旦那様があのような目に遭うことはなかったのに。

あの日、私が買い物に出たいと申し出ると、大旦那様が、留守番は俺がしてるから行ってこいと仰られました。そして・・・、私がお屋敷に戻ると、リビングのソファの上に、変わり果てた姿になった大旦那様を見つけのでございます。

それから警察来て、そして真っ先に疑われたのは、日頃から大旦那様と仲の悪い若奥様でした。でもその日は、若旦那様と一緒に音楽会に行かれて、帰宅するまでお二人はご一緒でしたし、後の方々も私を含めて、みなさんアリバイがございました。外部からの線も疑われましたが、あの通りの明け透けのお宅。何かあったら、必ず誰かが気がつくはず。

一体誰が犯人なのか。本当に不思議な事件でした。でもね、亡くなった大旦那様の首には、
きつく絞められたのか、指の跡がくっきりと
付いていたのですが、お顔は何故かとても安らかで、いつも偏屈な表情の大旦那様とは思えないくらいに、柔和な表情をされてました。これもなんだか不思議なことでございました。

(了)

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