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ロングドライブ



枯れ草ばかりの土手沿いの道を延々と走り続ける。助手席に座る彼女は、窓枠に肘をつき、刈り取りの済んだ何もない晩秋の水田を眺めている。

ねえ、この道が切れたところで私を降ろしてくれない?

窓にもたれながら彼女がそう言った。

あなたとの単調な生活にはもううんざり。まるで土手沿いの一本道みたいでつまんないのよ。

僕は黙ってハンドルを操る。

そうやって、いつだって黙ってばかり。別れ話を切り出されてるのに、何か反論とかないの!

彼女が声を荒げる。

わかったよ。君の言う通り、この道が切れたら
君を降ろす。そして僕たちの関係も終わりにしよう。

そう僕が答えると、彼女は

ごめんね。いきなりこんなこと言って。

今度は小さな声になって、済まなそうにそう言った。

彼女はスマホを出し、マップを指でなぞりながら

土手の向こうにある河はもうすぐ海にぶつかるから、この道もそこで終わり。私たちの関係ももう少しで終わりね。今までありがとう。あなたのことずっと忘れないわ。

最後の方は涙声になりながら、僕に別れの挨拶をする彼女に僕は

あのさ、もしクルマが停まらなかったら、僕を愛し続けてくれる?

そう聞いた。

いいわよ。でも海にぶつかって道がなくなるんだから停まらざるおえないでしょ?

普通はそうだけど‥

僕はそう答えると、アクセルをベタ踏みした。
クルマは急加速し、海に向かって真っ直ぐ伸びている道を滑るように走り出す。半狂乱になって隣りで叫ぶ彼女を横目で見ながら、僕はハンドルをしっかりにぎった。

どかっ!車止めを思いっきり乗り越えて、クルマは外洋に飛び出した。そのときにもげてしまったのが、2つの前輪が目の前に跳ね上がる。

キャー!

彼女の絶叫と共に、クルマはザブンと海上へ。それと同時にクルマに格納されていたスクリューが、勢いよく回り出した。

僕は片手でハンドルを操り、水平線に沈む夕陽に向かって真っ直ぐ舵を取る。そして

約束通り、このクルマが走り続けるまで、僕を愛し続けてくれよな。

そう言って、隣りで震えている彼女の手を、片手でそっと握りしめた。

(了)

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